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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第1章 江藤 蓮夏は夢をみる
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第8話 この学校にジェラルドがいる② 「その質問はもうやめてぇー」

 三人で学校中をさがしまわったけど、それらしい人は見つからなかった。

 ひどく落ち込むわたしをみて、一条君が「昼休みにもう一度、隈なくさがそう」といってくれたけど、首を横に振った。

「ありがとう。でも、もういい。会える運命なら、さがさなくても会えるはずだし、大丈夫」

 なにが大丈夫なのか、自分でもよくわからないけど、こわばった口角をあげて、笑顔をつくった。

「蓮夏ちゃん……」

 あまりにもぎこちない笑みに、ふたりは申し訳なさそうな顔をしている。ジェラルドが見つからないことよりも、心が痛んだ。

「ふたりとも、ごめんね。いつもわたしのわがままに、付きあわせて」

「ホント、迷惑だよな」

 一条君は面倒くさそうな顔をして、真鈴もうなずいている。

「私も一条も、蓮夏ちゃんに入試のときから、ずっと振り回されてるよねー」

「……ごめん。本当にごめんなさい」

 ヘンな汗をかきながら、ペコペコ頭をさげてふたりにあやまると、真鈴がギュッと抱きついてきた。

「もー、蓮夏ちゃんはいつも一生懸命で、かわいいなぁー。冗談だよ。だれも迷惑だなんて思ってないよ」

「で、でも」

 チラッと一条君をみた。難しそうな顔で、なにかを考えている。

 真鈴と違って、本当に迷惑しているのかもしれない。

 湿気を吸いこんだ梅雨時の重たい空気が、わたしの肩にずっしりとのしかかる。でも、温かい大きな手が、ポンとかるく頭にのった。

「オレも冗談だよ。江藤が泣きそうになってるから、つい。まあ、そんな顔をするな」

「カ、カルデニアぁ」

 やさしい言葉に涙がたまる。だけど、一条君はすこし口をとがらせて、不機嫌そうな表情をつくった。

「あのさぁー、前からいいたかったんだけど、その呼び方、やめてくんない?」

「え、どうして?」

 わたしがキョトンとしていると、一条君は眉をよせて、またイラッとした顔をする。

「じゃ、今日からオレは、江藤のことをエトワールって呼ぶぞッ」

 人差し指を突き付けられたが、冗談じゃない。

「やめてよ。その名前で呼ばれるのは、恥ずかし……あっ」

「ほらな。恥ずかしいと思うことを、オレにはするんだー。へぇー」

「いろいろと……、ごめんなさい」

 そういってうつむくと、「はぁ」と、ため息をつかれた。

「羽野もオレもエトワールのことを知ってるから、江藤に手を貸してるのかもしれない。でもな、入試のときはまったく知らなかった。それでも助けてやりたいと思った。こっちが勝手にやってることだから、気にすんな」

「そうだよ。私も一条も、蓮夏ちゃんが大好きなんだから」

 目を細めてガシガシ頭をなでられたけど、大好きという言葉に顔が熱くなった。

 一条君とパチッと目があう。でも、きまりの悪そうな顔をして、プイッと視線を外された。

 ジェラルドをさがしていたのに、私はヘンだ。

 頬を赤く染めた一条君の横顔に、頭がのぼせてボーっとなっている。

 すこし浮かれた気分になっていたけど、廊下の端から強面の顔をした、鋭い目つきのオッサンが、近づいてくるのがみえた。

「うわっ」

 入学式の日に、わたしの髪を注意した生活指導の大杉(おおすぎ)センセイだ。とても苦手な相手だ。

「なんだ、またお前ら三人か。もうすぐチャイムがなるぞ。はやく教室に入れッ」

 シッシッと、犬や猫を追い払うようなしぐさをする。

 かなりムッとしたけど、大杉センセイは次の授業を担当する数学Aの教師。週に二回も顔をあわせないといけない。

 だけど、大杉センセイのうしろには――。

「「「ジェラルドだッ!!」」」

 三人の大きな声が、ピッタリと揃う。

 大杉センセイと、そのうしろにいた人が、顔を見あわせてから、「は?」と不可解な面持ちになる。

「ジェ? なんだそれは?」

 眉をひそめる大杉センセイと、ポカンと口を開けている、紺のスーツに、明るい色のネクタイをしめた男性。

 完全に生徒ではないが、ジェラルドに似た雰囲気。

 三人で大きな声を出したけど、そんなこと説明できるはずもなく、かなり気まずい。

 恥ずかしくなってきたところに、授業開始を告げるチャイムがタイミングよく鳴ってくれた。

 わたしたちは、逃げるように教室へ入った。

「蓮夏ちゃん、すごい。私にもわかったよ」

「ジェラルドだよな? すげぇ、海の匂いがするぞ」

「ど、どうしよう。いきなり、どうすればいい?」

「そこの三人ッ、静かにしろ」

 こってり叱られても、全身の毛が逆立つような寒気と、胸のざわつきがおさまらない。

 幼いころからあこがれていたジェラルドが、目の前にいる。それだけで、心拍数は異常をきたし、頭がクラクラして、気が遠くなりそうだった。

 そしてジェラルドは、南さんよりすこし若くみえる。

 金色の髪じゃないけど、サラッサラの前髪はそのままで、空色の目はしていないけど、よく澄んだキレイな瞳。

 頭のてっぺんからつま先まで、とても華やかな好青年の登場に、教室内はざわつきはじめる。

「あー、小テストの前に、教育実習生の紹介をする」

成宮(なるみや)結人(ゆいと)です。よろしくお願いします」

 聞き覚えのある、すこしかすれた低い声。やっぱりジェラルドだった。

 頭を深々とさげたジェラルド……いや、成宮センセイが顔をあげると、目があった。

 ズキューンと胸を撃ち抜かれて、心臓がとまりそうになる。でも、そんなわたしの様子などおかまいなしに、成宮センセイは教壇にはられた座席表をのぞく。

 そして――。

「江藤さん」

「は、はいッ」

 ガタンッと勢いよく立ちあがると、また軽蔑するような笑い声が聞こえる。一条君となかよくしていることが気に入らない、一部の女子だ。

 とてもイヤな感じがしたけど、成宮センセイが人差し指を口にあて、「静かに」というと、だれも笑わなくなった。

 しんと静まりかえる教室。

 コツコツと成宮センセイが近づいてくる。

「江藤さん、ジェラルドってなに?」

 真鈴も、一条君だって成宮センセイのことをジェラルドだって叫んだのに、どうしてわたしだけ……。

 耳が熱くなり、膝のうしろに汗が。

 でも、成宮センセイはニコニコして、答えを待っている。

 わたしは震える唇をなんとか開けたけど、言葉が出てこない。

 笑うと大きな瞳が、線のように細くなって。これもジェラルドにそっくり。

 だけど、いま、わたしはジェラルドに、ジェラルドってなに? って聞かれて――?

「れ、蓮夏ちゃんッ!!」

 真鈴の大きな声が聞こえたけど、ごめんなさい。全身に力が入らなくなった。

 わたしの身体から魂が抜けていく。そんな感じ。

 きっとまた、ぶっ倒れるな。

 恥ずかしい……。


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