テスト返し
クラスメートが鐘に従って席に着き始める。僕の隣の席の坂井さんも、どこからか戻ってきた。
「また、前原さんとテストの点を競ってたの」
先生が教室にやって来るのをぼんやりと待ちながら、坂井さんをちらりと見やる。
「早苗がやりたがるんだよ」
「仲いいよね。前原さんと滝くん」
滝と言うのは僕の名字である。滝亮太と言うのが僕のフルネームであった。僕は、ぼんやりとクラスを眺めながら目を細めた。
「別に。旧知の仲ってだけだよ」
「15歳で旧知も何もないでしょ……ね、二人とも頭良くて羨ましいわよ」
横を見なくても、坂井さんが羨望の眼差しを向けてきているのが分かった。
「そんなに、いいもんじゃないよ」
2時間目は数学のテスト返しだった。返ってきた僕の点数は78点。平均点は59点だったが、トップ層にとって平均点など当てにならない。
僕がテストをもらって席に戻って来ると、先にテストを返却されていた坂井さんが尋ねてきた。
「どうだった?」
ひらっと数学のテストを見せる。目にすると、坂井さんは少し微妙な顔をした。何と返事をすれば良いのか分からないらしい。
「ま、まあ難しかったもんね」
「そうでもないでしょ。坂井さん、80点代いってるじゃん」
先に返って来た彼女の用紙を盗み見ると、82点だったのだ。自分の方が点数が高いと、「わー、◯◯くん頭いいねー」と言う相手を持ち上げる会話ができないから、困るのだろう。
150人いるこの笹神中学の3年生の中で、だいたい僕はいつも10位以内に収まっていた。3年間ずっとだ。でも、この秋から順位が落ちてき始めた。どうも、周りの子達が本気で受験勉強を始めたかららしい。僕は、相変わらず怠けており、一日5時間テスト勉強すると同級生が言ってる中でせいぜい30分程度しかやっていなかった。それでもある程度の成績は維持できるのだが、そろそろ限界が来た始めたらしい。
3時間目の理科も、4時間目の英語も良い点数ではなかった。
もともと、僕は猛烈な努力が苦手なのだ。
給食の時間中、先生が昼休みに軽い進路相談をするとみんなに告げていた。これで、早苗と顔を合わせずに済む。僕はそっと胸をなでおろしていた。




