プロローグ
セルディニア王国の王都、セレスティア王宮前の大広場は、その英雄の姿を一目見ようと国中から集まった人々で溢れかえっていた。
数年前から王国内に甚大な被害をもたらしてきた魔獣の異常増殖。
その厄災を終結に導いた大魔術士の姿を……。
未曽有の混乱の終息と英雄の帰還を祝うため、普段は決して相まみえることのない者たちが、夕闇に沈む広場に一堂に会している。
その非日常的な光景に、いやが上にも人々の熱気は高まった。
貴族や平民
老人や子どもたち
集まった皆が頬を上気させ、興奮と共に夜空を見上げながら、その瞬間を待ちかまえている。
群衆に紛れ、少女もまた興奮気味の母の手をはぐれぬように必死で掴んで、広場へと急いでいた。
はやる心にもつれそうになる足を懸命に動かしながら。
その時、ひときわ大きな歓声とともに、漆黒のローブを身にまとった男がゆっくりと舞台上に現れた。
歩を進める度に輝きながら揺れる、月光を映した白銀の長い髪。
人とは思えぬほどの優雅さと気品をそなえたその姿に人々は言葉を失い、ローブの男の一挙手一投足を息をつめて見守った。
あたりがしん…と静まり返る。
思わず見とれてしまいそうな美しい笑みを口の端に浮かべ、英雄魔術士が弧を描くように緩やかに手を振った……。
すると——
宝石を散りばめたような無数の光がその指先から次々に生まれ、夜空を鮮やかに彩り始めた。
流れ星のような一筋の光。
風に舞う花びらのような軽やかな光。
空を飛ぶ鳥のようなゆらめく光……。
美しく輝く数々の光が王都全体を包み、
見上げる人々の頭上に柔らかく舞い降りる。
それは
国を守るために散った人々への祈り
生き残った人々への祝福
失われたものへの鎮魂
そして、未来への希望
涙を浮かべ、今は亡き誰かを偲んでいる者
手を取り合い、はち切れんばかりの笑顔で見つめ合う者
そんな中、少女もまた傍らに立つ母親の薄っすら汗ばんだ手を握りしめながら、ぽかんと口を開けて夜空を見上げていた。次々と浮かぶ色とりどりの光と同じくらいの輝きをその目に映しながら……。
「きれい……」
——魔術士様は厄災から国や民を守っただけじゃない、みんなの心を救ったんだ
人々の心を美しく温かく輝かせたそれこそが、彼の魔術士がかけた一番の魔術だったのではないだろうか?
集まった人々だけではなく、風や草木、花々……。
目に見えない存在含め、この世の全てが、喜びに舞っているかのようだった。
「わたしも、あんな風になりたい……」
生きとし生けるもの
世界のすべて
みんなの心を包んで輝かせるような…
そんな優しくてキラキラした魔法が使える魔術士に…
母の手を握る指に力をこめて
少女はその光景と共に、生まれたばかりの強く光る誓いを胸に刻んだ。




