5. レッド選抜試験 ⑤
水をかけられて目を覚ました。
「おら、いつまで寝てんだ。もうスタジアムのレンタル時間とっくに過ぎてんだよ。延滞料金かかってんだよ。とっとと出ていくぞ」
頭がクラクラして起き上がるどころじゃない。
おぼろげな視界で見渡すと、俺と神城さん以外には誰もいない。
なんだ、何が起きた。
スタジアムの壁には相応の耐火装甲が施されているはずだ。
それが、ほとんど黒焦げになっている。
「あれは……」
あんなことができるめちゃくちゃな力は、一人しか知らない。
「どういうことなんですか、神城さん」
「なんのことだ」
あー、くそ、頭が割れそうに痛い。全然頭が回らないが、聞きたいことは死ぬほどある。
「あれは……」
「一つだけだ。時間がねえっ、つってんだろうが。一つだけ答えてやる。お前にとって、一番大事なことだけ聞け。あとは却下だ」
はあ。この顔面だけド天使が。
相変わらず、中身はクソ魔王だな。
あれは赤星さんじゃないのか。
赤星さんの引退は嘘だったのか。
俺の《蒼の爆炎》がうまく発動しなかったのはなんでなのか。
聞きたいことはどちゃくそいっぱいあるけどさ。
けど……、なんだかいろいろなことがどうでもよくなってきた。
俺にとって、一番大事なこと……。
「レミちゃんにとって、俺はもう必要ないのか?」
「青木……」
あれ、ちょっと待てよ。ほんとにもうただ口から出てきた素直な一言だっただけに、めちゃくちゃ響いてない?
ちょっ、これ、めちゃくちゃいい空気じゃね?
青木、やはり私にはお前が必要だ、ときて。
レミちゃん、俺が一生守るよ、的な。
スタジアムには二人きりだし。もうこのままハグして、二人の時間でもいいんじゃね!!
「必要ない」
ん、なんて?
「ちょ、ま、レミちゃん、なんて言った?」
「青木、お前、あんだけボロカスにやられといて、自分が何言ってんのか、わかってんのか。お・ま・え・は、試験のド初っ端にボコられて、寝ちまって、そのまま失格だ。とんだ期待外れだよ。今まであんだけ可愛がってやったのに」
可愛がられた記憶ないんすけど。
「クビだ、早くでてけ、この、勘違いのスットコドッコイが」
俺は心に涙の雨を降らせながら、立ち上がって去ろうとした。すると、俺の背中に向けて、レミちゃんが優しく声をかけてくる。
「青木……」
待ってたよ、レミちゃん。そうだよな、このままお別れなんてないよな。俺は精一杯の笑顔で振り返る。
「なんだい、レミちゃん」
「スタジアムの延滞料金、お前持ちでいいよな。請求書送るから、開封して確認してくれよな」
最後まで、魔王は魔王だった。




