エピローグ2
そうして俺はビニール袋を手に吊り下げて、宿舎に向かっていた。
この高校は地方の能力者が集められる。故に、実家から通えないもののために宿舎が設けられている。俺も鷹崎も、そこで暮らしている。女子が住む棟は男子のそれよりも学校から離れているため、少し骨が折れる。
そこに着いて、周りの女子たちから怪訝な目を向けられながら、俺は受付に行く。男子がここに訪れることなんか、滅多にないからだ。特にこんな、日陰者も日陰者な存在が来るなんて事案でしかない。通報されないといいな。
「あ、えっと……どういったご用件で?」
不審がりつつ訊いてくる受付に、俺はそれを差し出した。
「一年D組、羊野春綺。C組在籍の鷹崎李紅の忘れ物を届けにきた。渡しといてくれ」
復元された鷹崎の制服を手渡して、俺は足早にその場を後にしたのだった。その頃にはもう、頭が割れるかのような頭痛は治っていた。
×
鷹崎李紅は自室で、最近の出来事を振り返っていた。
羊野春綺との出会いは、本当に偶然だった。
嫌な関係を強いてくるクラスメイトから逃げ出して、悪化すると分かっていてもあの部屋に逃げ込んだ。ドアが開いた瞬間は心臓が止まりそうになった。あの子たちが、追いかけて来たのではと。
でも、そこから現れたのは、困惑した香りを漂わせる男の子だった。
それから、彼にはすごく助けられた。口では適当を言いながら、ずっと嘘と、優しい匂いを漂わせて、私と居続けてくれた。鬱屈だった昼休みが、少しだけ楽しみだった。入学してから二ヶ月で、ホームシックになっていた心を埋めてくれた。
中でも一番は今日の事件だった。きっと彼が居なかったら、私は……。
鷹崎李紅はそこで身震いした。それと同時に、より一層彼に対する感謝の念を強めた。すごく迷惑をかけたのに、自分がアマデウスだってことをバラしてまで、私を助けてくれて、守ってくれて。彼に対して悪影響がありそうな能力を使ってまで……私なんかのために。
そしてあの後だってずっと私が安らげるように、言葉をかけ続けてくれて、わざわざジャージまで取ってきてくれた。下着を見られて、更に興奮、された……のは、すごく、すごく恥ずかしかったけど……。
昼休みが終わっても、私を気遣って教室まで送り届けてくれた。そして、あの人たちに睨みを効かせてくれて、そのおかげで午後から帰宅中、現在に至るまで、何事もなくいられている。
あれだけ人のために行動する優しい人なのに、それでいて、彼は自分を冷徹だと思いこんでいる。それがおかしくて、鷹崎は笑みを堪えられない。
「鷹崎さーん。お届けものですって」
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。出ると、宿舎の受付のお姉さん(本人にそう呼べと言われている)だった。
「これ……ひ……えっと……名前なんだったかしら。あの、男の子が届けてくれたわよ」
最近物覚えが悪い受付のお姉さんに、ありがとうございますと言うと、彼女は会釈して帰っていった。ひ、と漏らした一文字で、相手が誰だか悟るには十分だった。
戸を閉め、鍵をかけてから、手渡されたビニール袋の中身を見る。何となく予想はできている。
「……ほんと、どこまで優しいんですか、貴方は……」
切り刻まれる前、元に戻っていた自分の制服に、鷹崎は笑みを浮かべながら、涙を滴らせ呟いた。せっかく直った制服に、水滴が垂れることも厭わずに。
「……これは……?」
鷹崎はビニール袋の中に、一枚の紙が入っていることに気づく。そこには。
「……ふふ」
連絡先が記されていた。不器用すぎて、それでいて優しすぎる彼と、そして直してくれたであろう人物にも、お礼の一つでもしようと、鷹崎はスマホを手に取った。
この回で一旦終了(第一章幕的な感じ)です
続きは……もし書くなら区切りのいいところまで書き終えてから更新を再開しようかなと思ってます




