伝染呪
「これが、あの時、村で起きた事件の真相です」
最後まで聞き終わり、思わず出そうになるため息をごまかすために咳払いをした。
とんだ妄想癖の老婆だ。老いで呆けてしまったのか、自分がいない場面を、まるで見てきたかのように生き生きと語る姿に、とんだ無駄足だったと肩を落とすと、朝子はくすくすと笑い声を漏らした。
「ボケ老人の戯言だと思う?」
「あ、いや……」
取り繕う暇もなく言い淀んでいると、朝子は「いいのよ」と、続けた。
「だって見てきたもの。ずっと……昔からずっと。私はね、罪人の瞳を通して、あの村をずっと見てきた」
笑う老婆が不気味で、私は思わず生唾を飲み込んでいた。
「日向家と月見山家に私はずっと匿われていた。両家はね、私を外の世界に出さないために順々に家から罪人を出していた。両家を行ったり来たりするだけの時間は私にとってとても退屈だった。だから私はを解放してくれる人が現れるのをずっと待っていたの。それが折原開人よ。折原に村人たちを全て殺させることで、私はやっと外に出ることができた」
嬉々として語る老婆の顔はまるで少女のように朗らかだった。
「人殺し、戦争、飢餓、伝染病。この世の様々な厄災を、いろんな村が閉じ込めていたわ。でももう終わり……過疎化や近代化でほとんど全てが外の世界溢れ出ている。この世はやっと私たちで溢れかえるの」
その迫力に、私は思わず椅子から立ち上がってよろめいた。
「貴方は、一体何者なんですか」
口からこぼれ出た質問に、朝子は微笑んだ、
「私たちはあなたたちが神と崇めるもの……。もしももっと知りたいのなら簡単よ」
朝子はゆっくりと自分を繋ぐ管を指差した。
それからのことは覚えてない。
気がつけば、心電図の停止音が響きわたり、私は病室を出ていた。後方で医者や看護師が焦ったように病室に飛び込んで行くのが聞こえる。
ただ、老婆に繋がれた管を引き抜いた感覚だけな手に残っていた。
私は罪人になった。そこまでしてもただこの世界の真相を知りたかった。
私の瞳の奥で誰かが罪を優しく囁くのが聞こえる。
罪を広めよ、世界に広めろ。そう何かが囁く。
私は全てを理解した。
札神村が閉じ込めていた厄災のことを。
その厄災はただ罪をこの世に伝えて広めろと囁いている。そこに意味はない。まるでプログラムに従って増殖するウイルスようだ。
この罪はきっと、いつか私の手を離れ、世界の果てまでも、どこまでも伝わっていくのだろう。
私にそれらを囁く神は、それを待ち望んでいた。
end
終わらせるために大分駆け足で矛盾マシマシですが、とりあえず完結です。そのうち書き直します。ここまでお付き合いいただいた方ありがとうございました。




