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久々投稿です。
色々本読んで勉強してました。
「…魔女?」
シドは聞き慣れない言葉に、耳を疑った。
「そうです。彼女は魔女なのです。」
「あなたはこの街の者ではない様ですから、ご存知無いかもしれませんが、奴は危険なのです。」
「だから一刻も早く我々が狩らなければ。」
マスクの男は、ステッキをクルクルと回しながら声は冷静に、しかし大胆な態度で話しを切り出す。
「この街の者らを見て気付きませんか?服はボロボロ、路地裏にはゴロツキが溜まりスラムそのもの。」
「この街も王からの恩恵を受け平和そのものだったというのに。」
シドは確かに、この街に最初に来たとき、住人の服がボロボロでやけに年季が入った物だと思っていた。
マスク男は更に熱く演技地味て話し出す。
「しかし!その平和をぶち壊した者がいるのです!」
「それが、リバーナだっていうのか?」
シドは恐る恐る確認を取る様に聞く。
「その通り!かの魔女は王の住む城で盗みを働き、それだけでは飽き足らず、王の世継ぎまで殺したのです。」
なんと嘆かわしい。マスクはエンエンと泣いて見せながらも饒舌に語る。
「それで?街と王と何が関係あるんだよ?」
シドはマスクの男に問いかける。
「大アリですよ!」マスク男は口を開く度にテンションが上がる。「魔女はこの街の生まれ。それ故、王は怒り狂った末にこの街に圧政を敷いたのです。」
「…圧政?」
シドはマスク男のテンションについて行けず、ポカーンと口を開きながら圧政という言葉を反復する。
「そうです。圧政です。」
「王は、この街の者全員にそれは重い税を敷き、遂には呪いを掛けました。」
「呪いって、」なんだそりゃっとシドは笑いながら聞き返す。
マスクの男は真面目に「呪いは呪いです。」ご存知無いので?と当たり前の様に聞き返してくる。
シドは、そうだリバーナが魔法を使えたなら『呪い』が有ってもおかしくないと諭り、会話を乱さない様「どんな内容の呪いかって聞いたんだ。」と知ったかぶった風に聞く。
シドの虚勢が功を奏したのかマスクの男はそのまま話しを続ける。
「はい、その呪いというのは才を使えなくするというものであります。」
「だからこの街の者は誰一人才が使えない。」
笑いながら男は通行人を見渡しては、くぷぷぷと下品な音を鳴らす。
シドは才という聞き慣れない単語に違和感を抱きつつ男の話を真剣な表情で聞く。
「ですから、どうか王の無念を晴らすと思ってあなたも我々に協力願えませんか?」
男は丁寧に頭を下げシドに協力を求めてくる。
マスク男の風貌は奇妙ながら、話している事は筋が通っていた。
だが、リバーナの居場所を教える。
となれば話は別だ。
「長々と話してくれて悪いんだけどよ、やっぱり協力できない。他を当たってくれ。」
「悪い。」と付け加え、シドはマスクの男に謝る。マスクの男も静かに頷くと回れ右してシドに背を向ける。
「そうですか、そうですか。ならしょうがないですね。」
「後、よろしくお願いします。ラビットさん」
ラビット?なにを言っているんだ?
突然の固有名詞に驚きながら『ラビット』と呼ばれる、うさぎらしき物を探そうとぐるぐる辺りを見渡す。
しかし、シドの周りにあるのはスラム街のゴミばかり。足元には缶や瓶が並び、今まであまり気にならなかったが、異臭がひどい。
そんな腐った街の一角に『ラビット』など居るだろうか。
「お前勘違いしてるだろ」
突然、大男がシドに話す。
「俺だよ、俺がラビットだ」
男は低い声でシドを見下しながら初めて名前を明かした。
「どうだ、俺の名前。カッコいいか?強そうか?」
男は自分の体格とは不釣り合いの名前をコンプレックスに感じているのか、「ラビット」という名前についてシドに聞いてきた。
シドは大男…もといラビットを足元から頭にかけて首を縦に振りながら眺めた。
今まで、体が大きすぎて顔をしっかり見ることが出来なかったが、今しっかりラビットの顔を捉えた。
ラビットという名に似ても似つかない、動物のような獰猛な顔がシドを睨みつけていた。