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第七話{侯爵防衛編~厄介者の厄介な夜明け~}

間幕世界観紹介『蛮族の階級』


 蛮族社会は力が全ての弱肉強食。

 だが、実態は種族によって大体の力量や社会的立ち位置が有る程度決まっている。


 まず、最下級にあたる妖魔種。ゴブリンやボガードを代表的な存在とする者達。

 彼らは多産多死で、生まれ育って成長するのも、死ぬのも早い。遥か昔の神々の戦いで、蛮族の神ダルクレムが雑兵として用意した、あえて力を無くして繁殖力を高めた存在である。

 たいていの場合は、少しでも戦闘経験がある人物なら有象無象に等しいが、時に高い技術を身に付け腕利きを苦戦させる上位種も存在し、尚且つ、数があると言う事は、即ち優秀な指揮者が付いている場合は非常に厄介な軍団となる。



 続いて、一般的な蛮族。

 オーガ。ギルマン。マーマン。ラミア。スキュラ。サテュロス。サキュバス(インキュバス)。アンドロスコーピオン。ジャイアント等。

 姿かたちも違えば、能力や性質も違うものばかりである。

 中でも、ケンタウロス。トロール。アードラー等は戦士の一族と呼ばれ、その名で呼ばれる種族は直向きに強さを求める求道者であり、特にトロールは信仰心の篤い優秀な神官戦士として知られている。



 そして、支配階級の蛮族。

 神々より古くより生きており、始まりの剣の生み出した最強の種族、ドラゴンの力をその身に宿したドレイクが最も代表的である。

 ダルクレムの求めた”力”の集大成ともいえるドレイク族は蛮族達の王であり、度々他の蛮族を従えて脅威をもたらす存在であると同時に、その戦闘力は竜にも匹敵しえるという。

 その他には、見た者を石化させる魔眼を持つバジリスクも、支配階級にある蛮族として知られる。

 だが、バジリスクは気まぐれで常識の通じない者が多く、格式を重んじるドレイク族との仲は悪い。


 その他、不死の神メティシエを信仰するノスフェラトゥやその眷属達。

 それらの蛮族勢力とは別勢力を築く半人半獣の蛮族ライカンスロープ等も存在している。



 ただ、同じ種族なら仲が良いわけでも無く、基本的には弱肉強食で調和とは無縁の蛮族達は、別の群れや軍団同士で協力しあう事が殆ど無く、国や街というまとまりを持たない集団も珍しくない。

 更には人族に肩入れしている蛮族の存在や、肩入れしているように見せかけた密偵等も有り、蛮族の勢力関係は複雑怪奇なものになっている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『【フラッシュライト】』

 ウサダは淀み無くコマンドワードを紡ぎ、照明の一切ついていない廊下を照らす。

 耳を動かし、わずかな音に気を配りながら廊下を進めば、一階にある部屋の内一つが、ドアの隙間から薄い明かりを溢している場所を見つける。

「レイチェルはあそこね!」

 言いつつ、カタリーナはドアに手をかける。鍵はかかっておらず、ドアノブはひねられる。だが、内開きの扉は押しても引いても微動だにしない。

「クッ……何かが向こう側に立てかけられてるみたい」

「離れていてくれ」

 奥歯を噛み締め、焦るカタリーナに下がるように言い、ウサダはマギスフィアを構えコマンドを入力する。

『【グレネード】!』

 放たれた爆弾がドアに命中し、それと同時に爆発を起こす。

 ドアはゆがみ、ひび割れ、大きな穴を開けるが、その穴から覗くのは、立てかけられたベッドや机などで作られたバリケード。

「バリケード!? なら……『【ソリッド・バレット】リピート!』」

 カタリーナはそれを見るや否や、両手にブラジガンを構えバリケードに弾丸を放ち、破壊を試みる。バリケードは揺らぎ、崩れ、空いた穴の先から二人の人物のシルエットが見える。

 片や、サーペンタインガンを抜き、構える見慣れた女性はレイチェル。

 片や、それと対峙する、人ならざる異形を晒した、見慣れない女性。

「レイチェル!」

「……今、行くぞ」






 ランプの灯す黄昏色の光だけが照らす室内で、かつての先輩レイチェル後輩マーガレットは対峙する。

 レイチェル側から見て、マーガレットの後方、バリケードの築かれたドアが突然きしみ、爆音と銃声と共に穴を開ける。

「レイチェル!」

「……今、行くぞ」

 そこから聞こえたのは、冒険者としての仲間である、二人の声。

 自分の名を呼ぶ女性は、少し心配性な戦士、カタリーナ。

 自分を助けに来た事を言う男性は、多くを語らないが頼れるウサギ、ウサダ。

「お仲間が来るようですね」

 マーガレットはレイチェルから視線をはずさず、音だけで判断してレイチェルに話しかける。

「そうね、彼らは信頼できるわ。だって私の仲間だもの」

 少し自慢げに、嬉しそうに、レイチェルは答える。

「いいなぁ……。私にも、来てくれたらよかったのになぁ」

 マーガレットは寂しそうに小さく笑い、それから、自身の胸に咲く花に、力を込める。

「来なさい…終わりにしてあげる!『【クリティカル・バレット】!』」

 レイチェルはガンに左手を添えて狙いをつけ、引き金を引く。




 刹那のやり取りの中、マーガレットの胸部、バルーンシードショットの花がつぼみ、それが膨らみ、弾ける様に開くと、そこから魔力が篭った植物の種が、まるでガンの弾丸の如く放たれ、死を与えるべく真っ直ぐにレイチェルの胸に突き進む。

 レイチェルがガンより放った弾丸は、それがレイチェルに届くよりも先に飛来し、種と衝突し、その軌道を大きく反らして攻撃を外させる。そして、種との接触で軌道の反れた弾丸は、マーガレットの肩に当たり、銃創をつける。




「くぅ……!」

 撃たれた箇所に手を……いや、植物の蔦を使って傷口を押さえる。だがそれでも、彼女は気丈に立っている。

 レイチェルがその様子を見て、もう一撃を撃つべきか考えを巡らせたその時。

「やぁっ!!」

 カタリーナの気合の入った声と共に、穴の開いたドアの蝶番が壊れ、ボロボロのバリケードと共に崩れ落ちる。

 両の腕に構えたブラジガンを叩き込みつつ、ドアを蹴破ったカタリーナと、その後ろに構えるウサダが部屋に駆け込んでくる。

「空飛ぶポニーに乗ってないが、許してくれ」

「レイチェル、大丈夫なの!?」

 気取った調子で言うウサダと、心配そうに聞いてくるカタリーナが、レイチェルと、彼女と対峙する存在を見やる。

「えぇ、私は大丈夫よ」

 レイチェルは二人を安心させるように、愛想笑いを送って言葉を返す。

 そして、マーガレットに視線を向けなおし、話しかける。

「……これで勝ち目はないわ、大人しくしてくれればこれ以上痛い目にはあわないわよ?」

 勝利宣告と、降伏勧告。

 冷静に考えれば、魔改造を受けていたとはいえども、マーガレットの実力はレイチェルに劣る。そして、その力を使ってレイチェルと対峙して尚、一枚上手なのはレイチェルだ。一対一ならばまだ逆転の目は僅かながらに有っただろうが、三対一になってしまっては希望も、勝ち目も無い。

 だが、マーガレットは降伏の意思を見せなかった。

「……今、死ぬのと。法にかけられるのと。何の違いが有るんですか?」

 レイチェルから視線を外さず、マーガレットはそう言った。

「そうね、それじゃあせめて私の手で、終わらせてあげる……。二人は暫く、手を出さないで」

 レイチェルはサーペンタインガンを構えなおし、手出し無用だと仲間達に伝えた。

「……」

 マーガレットは無言でレイチェルを見つめ。そして、再度バルーンシードの花が膨らむ。



 撃った、レイチェルが。

 撃てなかった、マーガレットが。

 胸の花が種を吐き出す直前に、その位置にレイチェルの放った弾丸が着弾し、膨らんだ胸の花が花びらを散らしながら弾け、放たれようとした種が、中から零れ落ちる。

 そして、そのままマーガレットは後ろに大きくのけぞって、背中と後頭部を強かに打ち付けて、床に横たわった。















 全力疾走で戦闘音の元へ向かうヴェレッタは、やがてカシュカーンに存在するもう一つの冒険者の店[しずくのしたたり亭]までたどり着く。

 まだ中では銃声が聞こえ、戦闘が続いている事を周囲に知らしめていた。

「ここか……? よし、行くぜ!!」

 ヴェレッタはそこが音源である事を確認すると、店の扉を開け放ち店内に飛び込む。

 店内は、カウンターとテーブル席のある、どこにでもあるような酒場だった。

 だが、テーブルはなぎ倒され、椅子も散乱し、二人の冒険者の風貌の男が倒れている光景は、どこにでもあるような酒場には程遠い。

 そこに立っている人物は一人。店の入り口に背を向けてガンを構える男性だけだった。

「なんだ、一体何があったんだ!?」

 その光景を見て、ヴェレッタが声を上げる。すると、立っていた男性は振り返り、驚いたような顔になる。

「……ヴェレッタさん?」

 ヴェレッタの名を呼び驚く男性は、保安官助手のアンディだった。

「アンディ? なんだ、何があった!?」

 ヴェレッタはアンディの側に駆け寄り、状況の説明を求める。

「……二階に、逃げ込まれました。恐らくアレが、冒険者達を襲っていた蛮族です。保安官の到着を待っていたのですが……。ヴェレッタさん、一緒に来てくれますか?」

 アンディは視線を店の奥、二階に通じる階段に向き直りつつ、手短に話し、ヴェレッタに応援を頼む。

「ああ、勿論だ!」

 ヴェレッタは事情を聞き、直ぐに得物を抜いて構える。

 アンディは返事を聞くと頷き、そして、両手で構えたサーペンタインガンの銃口を天井に向けつつ、駆け足で階段を駆け上がる。ヴェレッタもその後ろに着いて行く。

 二階に上がれば、そこには一本の廊下があった。曲がり角も、分岐点も無い。真っ直ぐな一本の廊下。

 部屋の扉は全て閉まりきっており、当然ながら時間が時間なので鍵もかかっている。そうで有るにもかかわらず、件の蛮族の姿はどこにも見当たらない。

「何だ……何所に行きやがった?」

 ヴェレッタが首を傾げて呟くと、ぎし、という音が耳に入る。

 床の軋むような音の元に目を見やれば、そこには何も居ない筈なのに、何かが居るような気配を感じる。

「インビジブルビースト……いや、違う。インビジブルアサシンか!?」

 ヴェレッタは、マルダー農場での襲撃を思い出し、その名を呼ぶ。

 あの事件の後に、透明化の能力をもつ存在を調べて知った事。それが、インビジブルビーストと呼ばれる蛮族の存在。

 そして、その際にもう一つの蛮族の存在を知った。暗殺者アサシンの称号を持つ、インビジブルビーストの上位種。

「来るぞ……ッ、構えろ!!」

「はいっ!」

 ヴェレッタは見えないがそこに居る存在を見据えて言う。アンディがそれに答えると同時に、姿無き暗殺者が武器を抜く。

 奴が手にしている得物はガン。それも両の手に一丁づつ構えたそれを、ヴェレッタに向けて弾丸を撃ち放つ。

「がはっ……」

 弾丸が見えない虚空から打ち出され、ヴェレッタはそれに合わせて体を捻る。だが、弾丸を一つは避けたが、もう一つが無慈悲にヴェレッタの腹を貫通した。

「ヴェレッタさん!」

 アンディが悲鳴を上げる。だが、ヴェレッタはまったく動じていなかった。回避行動を取りつつも、体を弾丸によって貫かれつつも、彼の姿勢は安定しており、その両の手に握られるデリンジャーは弾丸の放たれた位置でぴたりと狙いをつけられていた。

『【ターゲットサイト】【ソリッド・バレット】リピート』

 素早くコマンドワードが紡がれ、その狙った先に二発の弾丸が打ち込まれると、虚空に着弾したそれが銃創となり、そこから噴水のような血が吹き出る。

 《射手の体術》……シューターは敵のアウトレンジからの攻撃が基本となる為、回避の技術はそれ程学ばれていない。

 だが、射撃の腕が高いものは、体に染み付いたその射撃の動きを緩める事も抑える事もせず、回避運動を取る事が可能になり、その技術を《射手の体術》と呼ぶのだ。

「見えた! やっちまえ!」

 ヴェレッタはアンディに呼びかける。アンディはハッとして、そして、血の噴水の吹き出る方向に向き直り。

「ようし! 僕だって……!『【クリティカル・バレット】!』」

 コマンドワードを入力し、サーペンタインガンが火を噴いた。それが血の噴水の流れる場所に当たると、銃創がもう一つ増えて、それが床に倒れ伏した。

 そして、見る見るうちに何も無い場所から歪な人の姿が現れて行き、それは口から血を吐くと、そのまま動かなくなった。

「見事だったぜアンディ、まあ俺ほどの腕じゃないがな……ぐっ」

 ヴェレッタはアンディの射撃で止めを刺されたインビジブルアサシンの姿を見て、賞賛する。が、戦闘が終わると同時に被弾箇所を手で押さえて蹲る。

「大丈夫ですか!?」

 アンディが心配そうにヴェレッタに駆け寄る。

「っ……まぁ、”負けてない”からな。問題ない」

 ヴェレッタはそう言うが、被弾箇所からの出血量は半端な量ではなく、押さえているのにじわりじわりと血の染みが広がってゆく。

「無理しないでください『【ヒーリング・バレット】』」

 アンディは治癒の弾丸をヴェレッタに向けて撃つ。傷口は徐々に小さくなって塞がり、出血が収まる。

「……ありがとな」

 ヴェレッタはそう言って、ゆっくりと立ち上がる。

「どういたしまして……。当面の脅威は去りましたが、まだ事件は続いています。急いで下の階の様子を見に行きましょう」

 アンディはヴェレッタが一人で動ける事を確認すると、闘争の起こった一階に向かう。ヴェレッタもアンディの後に続き、一階の酒場に降りる。

 二人は手分けをして、倒れている二人の冒険者に駆け寄り、怪我の様子を見る。どちらもおびただしい量の血を流しており、素人目で見ても危険な状態である事がわかる。

 倒れている一人の脈を取ったアンディは、力無く首を振る。

「……こっちの人はダメです」

「くそっ……」

 アンディが死亡を確認し、間に合わなかった事にヴェレッタが小さく悪態を付く。

 ヴェレッタはもう一人の冒険者に駆け寄り、脈を取る。動いている。感覚を澄まして見れば、微かな呼吸の音も聞こえる。

「大丈夫か? しっかりしろ!」

 ヴェレッタが声をかけるが、気を失っている様で返事はない。適切な処置を施せば回復出来るだろうが、この状態ではそれも難しいだろう。

「なら、まずは傷を少しでも塞ぐ『【ヒーリング・バレット】リピート』」

 ヴェレッタは即座に判断し、両の手のデリンジャーから治癒の弾丸を放つ。放たれた弾丸は、確実に冒険者の傷を治癒するが、まだ危険な状態は続く。

「後は僕に任せてください。職業柄、応急手当の技術は学んでいますから」

 アンディは自分の荷物から小さな救急箱を取り出し、まだ生きている冒険者に駆け寄る。

「ああ、頼んだ。俺はその間にまたああいう奴が出て来ないか警戒してる」

 ヴェレッタはアンディに治療を任せ、二発の弾丸を撃ったデリンジャーに弾丸を装填する。そして、何時何処から何が来ても良い様に、警戒を緩めずアンディの側に立つ。

 時間にして、10分とちょっと。だが、体感では数時間とも感じられるような中、額に汗を浮かべながら応急処置にあたっていたアンディの表情が、不意に和らぐ。

「……よし、大丈夫そうですね」

 額の汗を拭いながら、アンディは一息つく。

「良かった……」

 ヴェレッタも一安心したようで、胸を撫で下ろした。

 応急処置が済み、程無くして冒険者の男は意識を取り戻し、僅かに身体を起こす。

「ぐっ……」

「気が付いたか?」

 ヴェレッタは冒険者の男の顔を覗き込み、無事を確認する。

「ああ……敵は、どうなった?」

 冒険者の男は、ヴェレッタ達の事を聞くより先に、此処に現れた蛮族の事を聞く。

「俺と保安官助手のアンディが倒したが……。一体何があったんだ?」

 ヴェレッタは質問に答えつつ、彼に事情を聞き込む。

「酒場で、数人で飲んでいたところに、そいつが突然撃たれたんだ」

 そいつ、といい、既に事切れたもう一人の冒険者を指しつつ、話をする。

「他の客と従業員達を裏口から逃がして、俺とそいつで応戦したんだが……よく倒せたな。俺には姿も見つけられなかった」

「……奴は透明になる能力がある。見つけられなかったのは無理も無いな」

 冒険者の男とヴェレッタが話をしている時、不意にアンディの顔が怪訝そうな様子に変わる。

「すみません。大勢の中で撃たれたと、それで間違いないですか?」

「ああ、そうだが……」

 アンディが尋ね、男が頷く。

「……アンディ?」

 ヴェレッタは質問の意図や怪訝な表情の意味を理解出来ず、少し疑問顔になる。

「……分かりました。ここは危険です。詰め所まで一緒に来てください」

 アンディは立ち上がり、冒険者の男の手を取って立ち上がらせる。そして、失血で足元のおぼつかない彼に肩を貸しつつ、店の正面入り口ではなく、裏口に向かって歩き出す。

「これまでの事件では、失踪した方の痕跡はありません」

 歩きつつ、アンディは話を始める。

「それが、今回は姿が見えないとはいえ、目撃者だらけです。……つまり、失踪事件と今回の事件は別件の可能性が高いです」

「なるほどな……」

 アンディの説明に納得したようにヴェレッタは頷き、冒険者に肩を貸しているアンディの代わりに裏口のドアを開ける。

「なっ、こりゃ一体……!?」

 開けて、その先にある裏通りの光景を見て、ヴェレッタが思わず驚きの声を上げる。

 そこには、店の従業員や冒険者風の身なりの人間が、建物の壁にもたれかかり、あるいは地に横たわり並んでいた。

 ただ、血痕はどこにもなく、全員怪我もしていない。ヴェレッタが一人の脈を取ってみたが、生きている様だ。

「逃げた人達がいるなら、もっと大きな騒ぎになっているとは思ったのですが……こういう事でしたか」

 アンディがそう呟く。

「……インビジブルアサシンが殺さず眠らす器用な芸当は出来ないはず……何処だ?」

 ヴェレッタは襲撃者の残した証拠が無いかを探したが、見つけられない。

「畜生……何所へ行きやがったッ!」

 証拠を探すヴェレッタが奥歯をギリッと噛み締める。

「ヴェレッタさん、犯人を追いたい気持ちはわかりますが、先ずは彼らを起こして詰め所へいきましょう。先程のような相手が複数で来たら、私達だけでは厳しいです」

 アンディは焦るヴェレッタを嗜める。ヴェレッタは歯噛みをするが。

「……ああ、わかった。手伝う」

 そう言って、一応はアンディの言葉に従う様子だ。

「待てよ……もしも眠っているだけなら……そうだ!」

 一人ずつ起こそうとした所に、ヴェレッタはある考えを思いつき、ポケットからハーモニカを取り出し、演奏する。

 裏通りに流れるメロディは、【アーリーバード】と呼ばれる呪歌。生物の眠りを妨げ、眠りから目覚めさせる力を持った歌だ。

 その歌が流れ始めると共に、裏通りで横たわる人々が次々と目覚め、体を起こす。

「……っと、本当に眠らされていただけだったようだな」

 倒れていた人々が起き上がるのを見て、ヴェレッタは演奏を止める。

 突然、裏通りで眠らされていた彼らは口々に疑問を発するが、そこにアンディが一同に声をかける。

「皆さん、ここは危険です! 事情は詰め所で伺いますので、着いてきてください!」

 アンディがそう言うと、人々は自分達が襲撃者から逃げていた事を思い出し、アンディに先導されて保安官詰め所に向かう。

「ささっ、保安官殿についていくんだぜ。ここは危険だ」

 ヴェレッタもアンディを手伝い、人々を誘導してゆく。

「僕は保安官じゃなくて、保安官助手ですよ」

 アンディはヴェレッタにそう指摘した。

「そうだったか、まあ良いじゃないか」

 ヴェレッタは特に気にした様子を見せず、詰め所に向うまでに襲撃が無いように警戒をする。

「……そういえば、慌てて飛び出しちまったが、館の方はどうなってるんだろうな……」

 月明かりを頼りに夜の街を歩くヴェレッタは、本来の自分の持ち場を思い出しつつ、独り言を呟いた。












 刹那の攻防の後、静寂の中でマーガレットは床に横たわり意識を失っている。

 そして、レイチェルはマーガレット以外の脅威が周囲に無い事を確認すると、サーペンタインガンを構えたまま、ゆっくりとマーガレットに歩み寄る。

「ちょっと、何しようとしているの!?」

 そこに、カタリーナがレイチェルとマーガレットの間に割って入って止める。

「見てわからない? その子を殺すの」

 レイチェルはさも当然と言った様子で言い、カタリーナがぎょっとした顔になる。

「貴女……自分が何を言っているかわかっているの? 人を殺すなんて……」

 カタリーナはレイチェルにそう言うが、レイチェルはまったく動じない。

「その言葉、そっくりそのまま返しますわ……。殺すってどういうことか、本当にわかっているの?」

 そう聞き返してくるレイチェルの目は、カタリーナが見た事が無いほど本気だった。

「その子は……マーガレットは、私が冒険者になる前までの仕事場での後輩だった。けれど、蛮族の街に連れて行かれ、何度も死んでは蘇り、あんな姿になってしまった……。そして、今はどういう理由か、英雄や侯爵の命を狙って、犯行を起こした」

 レイチェルは、横たわるマーガレットを見つめながら、自分の知る彼女の経緯を話し始める。

「その子は、少なくとも自分の意思で犯行を起こしている以上、私達の”敵”よ。それに……女の美しさも、人の矜持も失って、望まぬ生を強いられるマーガレットを、私は無理に生かしたいなんて思わないわ」

「でも……っ」

 カタリーナはレイチェルを何とかして止めようとするが、そこにウサダが口を開く。

「よせ、カタリーナ」

「ウサダ?! 貴方も見殺しにするの?」

 カタリーナは振り返りウサダに言う。

「……彼女はレイチェルの後輩だ。どうするかを決めれるのは、俺達じゃない。他ならぬレイチェルだけだ」

「くっ……」

 ウサダの言葉に、カタリーナは歯噛みをする。レイチェルがその横をするりと抜けて、マーガレットの胸に銃口を当てるが、カタリーナはそれを止める事が出来なかった。

「……だが、もしも」

 レイチェルがコマンドワードを詠唱しようとした所に、ウサダの言葉が耳に届く。

「もしも、彼女が人の命を奪いに此処に来た外道だったとしても、生きる事が苦でしかない者だったとしても。レイチェルが、マーガレットに可能性を感じるならば……”人として生き返る”チャンスを与えたいと願うならば……俺は、全てを投げ打ってでもレイチェルに協力しよう」

 ウサダにしては、とても長い言葉だった。そして、その言葉がレイチェルに届き。

『……コマンドワード、入力』

 彼女はコマンドワードを紡ぎ、引き金を引く。













「……レイ……チェル?」

 目を瞑ってレイチェルが撃つ瞬間を待っていたカタリーナが、ゆっくり目を開けて様子を見る。

 マーガレットの胸には治癒の弾丸が着弾し、彼女の傷を塞いでゆく。

「……”全てを投げ打ってでも”何て言った事、後悔するかも知れないわよ?」

 マーガレットにつけた傷を、自ら癒すレイチェルは、振り返らずにウサダに言葉を返す。

「俺が後悔するとしたら……それは、守りきれなかった時だけだ」

「くすっ……かっこつけちゃって」

 ウサダの気取った返答に、レイチェルは笑いかける。そして。

「……ありがとう」

 口の中だけで、小さくそう呟いた。

「……彼女を、マーガレットを助けると決めた以上、少し忙しくなるぞ」

 ウサダは大型のマギスフィアを取り出しつつ、カタリーナとレイチェルに手招きをする。

 そして、二人が近くに来たのを確認して、コマンドワードを入力する。

『【マナサーチ】』

 そして、魔力探知の結果が出るまでの間に、手短に二人に作戦を伝える。

「俺達の本来の仕事は侯爵の護衛だ。緊急事態が発生している以上、まずは侯爵の身の安全を確認しなければならない。そして、実行犯の一人であるマーガレットをかくまう必要がある。俺は侯爵の元へ向おう」

「それじゃあ、私もウサダさんにお供しようかしら。実行犯が他に居たら、一人じゃ危ないわ」

 ウサダが作戦を告げると、レイチェルが即座に名乗りを上げる。そして、必然的に残り一人は。

「じゃ、私はここで彼女の様子を見ているわ……まだ怪我は完全に治っていないし、”万が一”もあるから」

 カタリーナは言いつつ、”万が一”の状況を複数……マーガレットの怪我が予想以上に深刻な場合と、目覚めた彼女が暴れた場合を想定している事は黙っていた。

『検索結果を表示します』

 作戦が手短にまとめられるたタイミングで、マナサーチの結果が出る。魔法の品の位置は、不自然なまでに変わっていなかった。

「……侯爵の護衛が持っている類の品物だったとしたら、動いていないのは妙だ。護衛達にも何かがあったと見て間違いない」

「そういえば、入り口の番兵は眠りこけていたわね……何かで眠らされたんじゃ?」

 ウサダが推理し、それにカタリーナが思い出したように告げる。

「かもしれん。なんにしても、動くのが先決だ……『【フラッシュライト】』」

 ウサダは大型のマギスフィアを片付けると、小型のマギスフィアにコマンドワードを入力して照明を確保すると、立ち上がって部屋を出る。

「ええ……それじゃ、その子の事、しばらくお願いね」

 レイチェルはカタリーナにマーガレットの事を任せて、ウサダの後について行く。

 光源の殆ど無い廊下を、ウサダはマギスフィアから放たれる明かりを頼りに進み、二階へ続く階段を駆け上がる。二階は窓もカーテンも締め切られ、僅かな月明かりさえ廊下には差し込まず、光源はマギスフィアのみとなる。

「マナサーチの反応があったのは、この部屋だ」

 ウサダはサーチでの検索結果の座標から目星を付け、一つの部屋の前で立ち止まる。

 ウサダは直ぐにその部屋に入らず、一歩下がって扉にライトを当てる。後から着いてきたレイチェルはその動きでウサダが自分に頼んでいる事を察し、扉の前で屈み、聞き耳を立てる。

 レイチェルは耳を澄まし、ドアを念入りに調べて、ウサダにハンドサインを送る。その意味する所は”異常無し”

 それを見てウサダは黙って頷き、頷きを見たレイチェルが警戒を緩めずにドアノブを捻り、ゆっくりと開ける。

 ウサダはドアの隙間からライトを室内に当て、中を一望すると、その部屋には何人もの兵士達が微動だにせず倒れ横たわっている。部屋に血痕は無く、兵士達にも目に見える外傷は無いので、恐らくは入り口の番兵と同じく眠っているのだろう。

「……頼りになる用心棒達だ」

 皮肉を言いつつ、ウサダは肩をすくめる。

「……ねえ、寝ている人達の装備、ちょっと変じゃないかしら?」

 レイチェルが違和感を感じて、ウサダに小声で伝える。ウサダも改めて兵士達の装備を確認してゆく。

 倒れている人間の兵士は、革鎧で身を包んでいるが、武器らしいものを一切持っていない。弓を持ったエルフの兵士の周囲には、壊れた矢筒のパーツとやじりの無い矢が散乱している。ドワーフの兵士を見てみれば、筋肉質な肉体なのに、武器どころか鎧さえ見当たらない。

 思い返してみれば、入り口の番兵の持つ槍も、何故か槍の殺傷能力たる穂先の刃は無かった。

「……装備に金属製の物が無い。あるいは破損している……」

 ウサダは自分のアゴに手を当てながら、少し考えを巡らせる。

「何か思い当たる節は無いかしら?」

 レイチェルが尋ねたが、しばらくしてウサダは首を横に振る。

「いや……金属を溶かす魔物なら、ブロブ等がいるが……館の二階に持ち運べるするような物じゃない。俺の知識に無い何かが、金属を破壊する能力を持ち合わせているなら、話は別だが」

「そう……わからないものはしょうがないわ。実行犯が持ち合わせている能力がわかっただけでも良い収穫よ」

 レイチェルは申し訳なさそうに答えるウサダにそう言い、倒れている兵士の内、最も近い位置に居た一人の肩を揺すって見る。だが、どれだけ揺すっても起きないどころか、先ほどから寝返り一つもせずに眠っている。

「ん……起きてもらえれば良かったのだけど、ただ眠っているだけじゃなさそうね」

「……サーチの反応も、彼らの装備で間違いなさそうだ。此処にもう用は無い、侯爵の寝室を目指すぞ」

 レイチェルは少しがっかりそうに言い、ウサダはレイチェルにそういって手招きをする。レイチェルは頷き、ウサダと共に廊下を進む。二階の廊下には二人の兵士が金属装備を身につけていない状態で、折り重なって倒れているのが見える。倒れている兵士の直ぐ近くには木のプレートが掛けられたドアがあり、トニ・フォン・フライブルグが現在使用している旨がプレートに書かれていた。

 実の所、冒険者達は侯爵の寝室の位置は聞かされていなかったが、彼が用心深く配置していた番兵のおかげで直ぐに見つかった。……当の番兵は、本来の仕事をまったくこなせていない様子だが。

 ウサダとレイチェルはフライブルグ侯爵の寝室の前に立つ。すると、ウサダが耳をピクリと動かす。

「……風の音が聞こえる。窓が開いているのか?」

 ウサダが気がついた事をレイチェルに伝える。レイチェルも耳を澄まして見れば、確かに室内からは風の音が僅かに聞こえた。

「そのようね、開けるわよ」

 レイチェルはウサダの言葉に頷きつつ、ドアノブに手を掛けて、捻る。その時、レイチェルは手の感覚から、ノブを捻る際に何か引っかかるような感覚を……もっと具体的に言えば、罠か何かの装置のスイッチを起動させたような音と重みを感じた。

 レイチェルがそれを察知して動くのは速かった。だが、その動きよりも速く矢が飛来し、レイチェルの脇腹を刺す。

「ぁんぅ……」

 皮膚を突き破り肉を裂く痛みに、レイチェルは苦悶の声を上げる。

 ウサダは即座にレイチェルに駆け寄り、傷の具合を見る。幸い、飛来した矢は細く、鏃には刺さった対象から抜けにくくする”返し”も無かった為、傷口は浅い。だが、ウサダはそれでも心配する様子で声を掛ける。

「身体が痺れたり、不自然な吐き気等はないか?」

「ん、大丈夫よ」

 レイチェルは矢を体から抜く。傷口から血が流れるが、太い血管等のある箇所は避けたようで、出血量はそれ程でもない。

「少しじっとしていてくれ……『【ヒーリング・バレット】』」

 念の為にウサダが治癒の弾丸を撃てば、直ぐに傷は塞がり、跡形も残らない。

「ありがとう。じゃあ、改めて……」

 レイチェルは罠がもう起動しない事を確認し、ドアノブを捻り開ける。

 そして、室内をライトで照らすと、ベッドには侯爵の姿は無く、大きく開け放たれた窓から飛び降りる何者かの後ろ姿が見えた。

「……一歩、遅かったか」

 ウサダは言いつつ、窓まで走り、そこから外を眺める。すると、カタリーナとマーガレットの居る部屋の窓が大きく開き、そこからライトが照らされて逃げる人影が見える。

「止まれー!」

 逃げる人影……公館で給仕をしていた女性に、止まるように言うカタリーナの声が聞こえる。だが、給仕は足を止めず、窓枠を飛び越えて追いかけようとしたカタリーナに追いつかれる事なく、悠々と逃げてしまう。

 その様子を見ていたウサダは、自分のライトを窓の外から直ぐ下を照らして見る。そこには後ろに回された手を縛られ、足首を縛られ、更には猿轡さるぐつわをされた男が居た。あまりに無様な姿だったが、その人物はフライブルグ侯爵だった。

「カタリーナ、しばらく侯爵殿を頼めるか?」

 ウサダは外に居るカタリーナに声をかける。振り返り、ウサダが顔を出す窓を見上げて、カタリーナは了解の意をハンドサインで送る。そして、カタリーナは直ぐに侯爵の元に走り寄り、声をかける。

「大丈夫ですか!?」

「んー……んー……」

 侯爵は落ちた痛みで苦悶の声を上げているが、命に別状は無い様子だった。

 カタリーナは侯爵を拘束する縄や猿轡を外し、立ち上がらせる。それを見たウサダはライトを室内に向け、窓を音が立たぬようにゆっくりと閉めた。

 ウサダが窓を閉めて室内を見渡せば、既にレイチェルが自分のマギスフィアからライトを放ち、室内の様子を調べていた。

「……侯爵殿は拘束されて外に突き落とされていたようだ。カタリーナが今は面倒を見ている」

 ウサダが侯爵の行方をレイチェルに伝えると、レイチェルは頷きながら、部屋にあった机の引き出しを片っ端から開けて調べている。

「そう……一通り見てみた感じ、引き出しや本棚とか、書物を保管するような場所を中心に漁っていたみたいね。物流や資金に関する資料がごっそり無くなっているから、侯爵の命じゃなくて情報がメインターゲットのようだわ」

 レイチェルは返事をしつつ、部屋の様子を見て気がついた事をウサダに報告する。

「流石レイチェル……並みの斥候スカウトじゃ、そこまで気がつけないだろう」

 ウサダはレイチェルを賞賛する。

「お褒めに預かり、光栄ですわ……。それで、ちょっとウサダさんに見てもらいたいものがあるのだけど」

 レイチェルは大仰なリアクションを返した後に、机の上に乗っているカードを一枚手に取り、ウサダに差し出す。

 差し出されたカードには、二本の曲線の先端が重なるような絵が描かれている。


 [人]


「……何か分かるかしら?」

 レイチェルがウサダに聞くが、ウサダは黙って首を振る。

「そう……カタリーナが侯爵の元へ向っているなら、マーガレットの様子が気になるわ。調べたいものは調べたし、下に向いましょう」

 レイチェルはそういいつつ、カードを自分の荷物の中にしまう。ウサダはレイチェルの言葉に頷き、二人は部屋を後にした。









 保安官事務所に辿り着き、無事に避難の誘導を終えたヴェレッタは、ジムから声をかけられる。ただし、それは労い等ではない。

「ここはもう俺に任せろ。アンディを助けてくれた事は感謝するが、お前は自分の責務を果たして来い」

「ったく、言われなくても分かってるよ! 後は頼んだぜ」

 ヴェレッタも、ジムがこういう状況で気遣いを見せるような性格じゃない事は承知しているので、適当に言葉を返して来た道を戻る。

 一刻でも速く屋敷に戻るべく、一心不乱に走っているヴェレッタだが、屋敷に向う途中に見かけた事のある人物が、屋敷を後にして走っているのを見つける。

「公館のメイドじゃないか、一体館に何があった?」

 ヴェレッタに不意に声を掛けられ、声を掛けられた給仕……ヴェレッタが知る由も無いが、侯爵を窓から突き落として逃げた犯人は、呼び止められるとびくりと身をすくませて立ち止まる。

「……ああ! ヴェレッタ様ですか?」

「館から逃げてきたんだよな? 一体公館で何があったんだ?」

 驚いた表情でヴェレッタを見る給仕に、ヴェレッタは尋ねる。

「襲撃があったのです。私は保安官事務所に助けを呼ぼうと……」

 給仕はそう答えると、すぐさまヴェレッタは頷いて。

「よし、それじゃあ俺も一緒に保安官の所に行こう。俺は保安官とはコネがあるからな、信用してくれるだろう」

 ヴェレッタはそう言って、踵を返して自分が進んでいた道を戻る。

「分かりました。助かります」

 給仕はにこりと微笑み、ヴェレッタの横に並んで進む。

 ヴェレッタは給仕がついて来れている事を確認しつつ、保安官事務所まで駆けて行く。

 そうしてしばらく走っている内に、給仕は少しずつ走るペースが遅くなり、やがて立ち止まってしまう。

「ヴェレッタ様……少しお待ちください。息が切れてしまいました」

 給仕の言葉を聞き、ヴェレッタは立ち止まって振り返る。手を膝に付き、荒く呼吸をする給仕の様子を見て、ヴェレッタは気遣うように言う。

「そうか、じゃあ少しだけゆっくりしよう」

 ヴェレッタは給仕の側にまで歩み寄り、彼女が息を整えるのを待つ。

 息を整えながら、給仕は顔を上げて、ヴェレッタに話しかける。

「ところで、何故ヴェレッタ様は皆さまと離れられていたのですか? たしか今日は、英雄の皆様は侯爵様の護衛だとうかがっていましたが」

 そう尋ねられて、ヴェレッタは少しバツの悪い顔をする。

「あー……いや、町で戦闘音があったみたいでな、反射的に走って行っちまったんだ」

「流石、カシュカーンの新たな英雄と呼ばれるだけはありますね……」

 ヴェレッタの返答を聞いて、給仕は感心したように言い、さりげなくヴェレッタの体に触れる。

「冒険者の方は皆、自分のことが第一だとばかり思ってました……私はこの街の出身ですから、皆の為に動いてくださる事が、とてもうれしいです」

 やや寂しげな声で、上目遣いがちになりつつ、給仕はヴェレッタに言う。……女性の表情に敏感な人物であれば、彼女の武器である”女”によって惑わされてもおかしくないそれに対し。

「まあ、一人じゃ出切る事なんて限られているし。それに、人族の町が無くなったら、冒険者の仕事場が無いしな」

 ヴェレッタは至極真面目に返答をした。

 ……女性の細かな仕種から”隙”や”好き”を見つけるには、ヴェレッタは少し若かった。

「……大丈夫か? ほら、おぶってやるから急ぐぞ」

 挙句、ヴェレッタは自分の体に触れる給仕が、体力が切れて一人で上手く立てないのだと解釈し、半ば無理やり給仕の体を持ち上げると、背中に乗せて走り出す。

「えっ……? わっ!」

 予想外の対応に、給仕は驚き、ヴェレッタの背中で揺られる。

 カシュカーンの町並みが前から後ろへと速く流れて行く景色を見つつ、給仕は少しだけ目を閉じてから、開ける。そして、自分を背負って走る青年が、自分を警戒していない事を確認し、行動を起こす。

「……? 何だ……」

 ヴェレッタは、突然給仕が自分の背中から飛び降りた事を感じ、振り向いて声をかけようとした瞬間、その視界が白煙に包まれる。

「!? 『【シグナル・バレット】!』」

 ヴェレッタは素早くガンを抜き放ち、天に向けて信号弾を放つ。弾丸は白煙を突き抜けて空へと上がり、夜の街に輝きをもたらす。

 やがて、煙が晴れると、そこにはヴェレッタしか居ない。ヴェレッタの背中に居た給仕は何処かへと姿を眩ましてしまった。

 その場所へ、保安官事務所から飛び出してきたアンディが、両手でガンを隙無く構え警戒しつつヴェレッタの元へやってくる。

「ヴェレッタさん! どうしました!?」

 事情を聞くアンディに、ヴェレッタは話す。

「アンディ! 館から逃げてきたメイドをおぶって保安官事務所に向っていたんだが、いきなり煙幕張られて消えた。さらわれたかもしれねぇ!」

 煙幕を張ったのは給仕であり、消えたのも給仕の意思だったのだが、そんな事は知る由も無いヴェレッタはアンディにそう説明する。

「人攫いですか!? 今日は大変な一日だ……」

 苦い顔でアンディは頷く。

「ヴェレッタさんは館に向ってください。彼女がなぜ走ってきたのか調べないと」

 アンディはそういって、周囲に手掛かりとなる痕跡が無いかを調べ始める。

「くっ……分かった、気をつけろよアンディ」

 ヴェレッタは自分も給仕を探していたいが、そうもいかない状況であることを考えて、歯噛みをしつつも了承した。

「ええ、そちらも気をつけて!」

 アンディはヴェレッタに返した。ヴェレッタは後ろ髪を引かれる思いを振り切り、公館に向って走り出す。









「おい! 何時まで私を館の外に居させる気だ!」

 フライブルグ侯爵は、公館の玄関口の前で叫んでいた。

 その声の先に居るのは、玄関口の前で通せんぼしているカタリーナだ。

「いえ、今館の中は危険ですので、今しばらく待っていてください」

「外に居るほうが危険に決まっているだろう!」

 カタリーナは、下手に館に侯爵を入れてしまうと、マーガレットと侯爵が鉢合わせしてしまう事を恐れ、侯爵を玄関口で待たせているのだが、怯える侯爵は早く館に入れろとごねている。

「これ以上私を敵の目に晒し続ける気なのか! あぁ! 早く! 中に入れろ!」

「今、仲間が内部の安全を確認している所です。あなたには私がついているので、安心してください」

 そうして押し問答をしている声が、一階に下りてきたウサダとレイチェルにも聞こえた。

「……彼女の事は頼む」

「ええ」

 ウサダとレイチェルは一言だけ言葉を交わし、ウサダは正面玄関へ、レイチェルはマーガレットが倒れている部屋まで向う。

 レイチェルは扉が壊れ、荒れ放題の部屋に、目を覚ましたマーガレットが上体を起こして茫然とした表情でいるのを見つけると、彼女の体を抱き上げて、別の部屋に運ぶ。そして、部屋のソファにマーガレットを下ろし、優しく声をかける。

「どう、痛むところはない?」

「正直、痛いです」

マーガレットはそう答える。命の危機は脱しているとはいえ、魔法弾を何発も浴びてすぐでは無理も無いが。

「あはは、そうよね……ごめんなさいね」

 レイチェルはそう言い、ソファに座り込んで、マーガレットと目線を合わせる。すると、マーガレットは慌てて自分の右目を手で押さえた。

「その目も、その胸の花と同じなのかしら?」

 右目を押さえるマーガレットの右手を、左手で撫でながらレイチェルは尋ねる。

「そうです。バグベアードという怪物の目だそうです。護衛達は、これの力で眠らせました。……出せる力はコントロール出来ないから、誤って装備も壊しちゃったりしましたけど」

 マーガレットは、少しくすぐったそうにしつつ、目の事を話す。

「……ねぇ、メグ。どうしてあなたここへ来たの? その体になったからなの?」

 レイチェルは、二人だけの間で使っている愛称で彼女の名を呼び、マーガレットの事を聞く。

「そうです……。蛮族の町に、改造された人達が戦力となるレジスタンスがあって。そこを通じて、戻ってきました」

 その返答に、レイチェルは少し驚いた顔になる。

「え……貴女、蛮族と共に来た訳じゃないの? それなら、どうして侯爵を?」

「侯爵を殺す為ですよ。後は、彼が握ってる、蛮族と繋がってる人達の情報を掴む為に」

「蛮族と、繋がっている……?」

 マーガレットの返答に、レイチェルは少しだけ怪訝な顔になった後、少しだけ納得した表情になる。

「……」

 それから、マーガレットは少しだけ考え込んだ表情になり、今度はマーガレットから話を切り出してくる。

「……おねえさま。さっきの戦い、手加減したわけではないですよね。本気で戦ってくださいましたよね?」

「えぇ、全力で、本気で貴女に…銃を向けたわ」

 極力感情を押し殺して、レイチェルは答える。

「誤解しないで下さいね。嬉しかったです、本気で向かってくれて」

 マーガレットは手の平を見せながら慌ててそう言って、それから、一度言葉を区切って。

「……レジスタンスの方から、身体を三箇所も改造されて正気を保っている人は少ないと聞きました。どうしてかなって思ってましたが、英雄の中におねえさまを見た時に、きっとここで出会う為なんだなって、勝手に考えてたんです」

 少し照れながら、そして、僅かに瞳に涙を滲ませながら、マーガレットは言う。

「そう……」

 そんなマーガレットの事を、レイチェルは優しく抱擁する。レイチェルはその間、何も言わなかった。

 マーガレットも、暫くの間、何も言わずにされるがままになっていた。

 そして、ゆっくりと抱擁を解くと、レイチェルは少し疑問に思った事を尋ねる。

「そういえば、どうして”英雄”も狙っていたの? その話なら、侯爵だけを狙えば済む事じゃない」

「蛮族と通じてる人族の方が、目の敵にするのは私達のような存在です。……そして、彼らが使うのが、冒険者えいゆうです」

 マーガレットは質問に答える。

「なるほどね、駒になりうる者も、一緒に始末したいって事かしら」

 レイチェルがそう言うと、マーガレットは頷いた。

「私が知っている限り、三つの勢力があります」

 そして、より詳しく説明するべく、話をする。

「純粋に人と敵対する強硬派の蛮族。人族と内通し、暗躍するバジリスクを中心とした蛮族。そして、その……私達です」

 最後の勢力で言葉を濁したマーガレットを、レイチェルは真っ直ぐ見据えて。

「”私達”……人族の事ね」

 そう、淀み無く言い切った。

「ねぇ、私の目を見て。貴女から見て、私は人族を裏切ってまでお金や名誉を得ようと思う人間かしら?」

 隠そうとするマーガレットの右手を取り、ゆっくりと下ろしながら、レイチェルは両目を合わせて言う。

「おねえさまは、そんな人じゃないです……すごく自分勝手ですけれど」

 そう言ったマーガレットの左目から、涙が流れ頬を伝う。異形と化した黒い瞳の間からも、同じように。

「……けれど?」

 レイチェルは頬笑みながら、先の言葉を促す。

「……でも、そこも大好きです。会いたかったです!」

 涙を流しながら、そして、笑顔を見せながら、マーガレットはレイチェルに飛びつく。勢い余ってレイチェルをソファに押し倒す形になったものの、レイチェルはマーガレットをしっかりと抱きとめて、頭を優しく撫でる。

「……ふふ、ただいま。おかえり」






 玄関口の押し問答の現場に、ウサダが玄関から出てきて、姿を現す。

「お怪我はありませんか? 侯爵殿」

「……ケガはあるが、助かったよ」

 ウサダの気遣いの言葉に、侯爵は僅かに怒りを混ぜながらも感謝した。

「護衛は残らずやられていました。どうやら眠らされているだけのようです。襲撃者も、既に”いません”」

 ウサダは簡潔に館の内部の状況を報告した。

「隣室にも寝室の前にも配置したのだが、物音も殆どしなかった。いったい何時の間にそんな事を……」

 侯爵が震えながら言う。

「あなたを襲った刺客の姿を見ましたか?」

 ウサダが侯爵に尋ねる。

「私を襲った給仕の女だな……最初から侵入していたとは」

 忌々しげに、侯爵は答えた。

「その給仕の女はどういう経緯で雇ったか分かりますか?」

 ウサダが続けて質問を続ける。

「知らぬ。あの女はこの公館で働く地元民だ……所で、まだ館には入れないのか?」

 イライラしているのか、つま先で地面をとんとんと叩きながら侯爵は答える。

 そこに、館に向ってふらふらとした足取りで歩いてくる、見慣れた人影をウサダとカタリーナは見た。ヴェレッタだ。

「かひー……かひー……侯爵さん……ご無事で何より……」

 街を走り回り、息が上がって顔を真っ赤にしたヴェレッタが、息を整えながら戻ってきた。

「皆、無事か……さっき……メイドが……逃げてきて……館が襲われたって……」

「……メイドが逃げてきた?」

「メイド?」

「メイドだと……!?」

 ウサダ、カタリーナ、侯爵が三者三様のリアクションで、ヴェレッタの言葉に驚く。

「侯爵の命は無事だ。護衛が眠らされただけで、人的被害な無い」

 ウサダが取り合えず、状況を伝える。

「ヴェレッタ、そのメイドはどうしたの?」

 ウサダが状況をヴェレッタに伝えたのを見て、即座にヴェレッタに尋ねる。

「ひー……ふー……」

 ヴェレッタは少しだけ、息を整えて。それから。

「ああ……保安官事務所まで行く途中……煙幕がはられて……居なくなって……さらわれたと思う。アンディが今追っている筈だ」

 そう、自分の見た状況を伝える。

 カタリーナはそれを聞いて、呆れた様なため息を吐く。

「はぁー……ヴェレッタ、そのメイドは襲撃者の仲間よ」

「な、何だって!」

 ヴェレッタがカタリーナの言葉に驚く。

「ああ、私もそいつに襲われて、窓から突き落とされたんだぞ! どうして逃がしたんだ!」

 侯爵がヴェレッタを問い詰めるが、それをウサダが窘める。

「彼は私達と別行動を取っていました故、こちらの状況が分からないのは致し方がありません」

「じゃあ、何で君は持ち場を離れていたのかね?」

 しかし、侯爵はヴェレッタをまだ問い詰めてくる。

「ええっと……街でも蛮族の襲撃があって、撃退に向っていました。冒険者の店が襲われて、冒険者の人間が一人死んでしまいましたが……。現在、襲撃事件は保安官達が当たっています」

 ヴェレッタがあたふたしながらも、街で有った戦闘の事を説明する。

「それで、敵は何人だったの?」

 カタリーナがヴェレッタに尋ねる。

「姿の見えない敵一匹と、集団を眠らせる奴が最低限居ると思う。姿の見えない方は倒しておいたが……眠らせるほうの奴の姿は見てない」

 ヴェレッタはそう答え、するとウサダはアゴを撫でながら

「こちらでも用心棒が眠らされていた。……眠らせる力を持つ者はこちら側で”撃破”いたしましたので、侯爵殿はご安心を」

 ウサダは街の襲撃者と館の襲撃者を結びつけて、”私達冒険者は、手分けして襲撃者を排除に向いました”と暗に示し、ヴェレッタの立場を少しだけフォローした。

「所で、侯爵殿は、なぜ襲われたか、なにか検討はついていらっしゃいますか?」

 そして、ウサダは侯爵に質問をした。

「そうだな。立場だけでも狙われる理由はいくらでも考えられるな」

 侯爵は襲撃された理由は、検討が付かないという事を言ってぼかした。

「それじゃあ、侯爵様を縛り上げた相手は何をしていたのですか?」

 カタリーナがそう尋ねると。

「奴は私の私財を物色していたようだ……殺されるかと思ったが、そうではなかったようだな」

 侯爵は襲撃された時の事を話す。

「そうですか。金銭目当ての賊かもしれませんね」

 襲撃者が盗んだものを知っていながら、ウサダは適当な事を言う。

「……ずいぶんと手だれの賊だがな」

 思い出すだけでも恐ろしいといった様子で、侯爵は言う。

「手練れ……恐ろしい相手です。そういえば、盗まれて困るものでもありましたか?」

 ウサダは黒い双眸を真っ直ぐ侯爵に向けて、尋ねる。

「いや、まぁ、現金などは君達への支払いに問題が出るかもしれないが。それ以外には」

 そう言った侯爵を見据えるウサダの双眸が、一瞬だけ細くなる。

「そうですか。支払い方法に関してはお気になさらずに。侯爵殿の命が無事で何よりです」

 しかし、直ぐに表情を戻すと、ウサダは侯爵に恭しい態度を取る。

「そういうわけにはいかない。帰国次第、不足があれば至急本国から支払うよ。まったく、私が賊に巻かれて物を盗まれたなどと政敵に聞かれたら、とんだ醜聞だ」

 後半は苦笑と共に、侯爵は言う。

「他言は一切致しません。ウサギは口が堅いので」

 タビット式のジョーク混じりに、ウサダは自分の胸に手を当てながら言う。

「そうしてくれると助かる。中の役立たず達の報酬も、君達の報酬に上乗せするよ」

 侯爵はウサダを気に入ったようで、そういったが。

「いえ、彼らは彼らで立派に職務を全うしようとしました。私は侯爵殿の命を守るという名誉があればそれで十分です」

 ウサダは首を振って、その報酬を辞退した。

「ふむ。君は案外無欲だな。冒険者らしくもない」

 そう侯爵が言うと。

「小さい頃から夢に見ていただけです。侯爵殿のように、栄誉ある方をお守りする事を」

 ウサダは恭しくお辞儀をしながら、そう言いきるのであった。

「そうか……ところで、一度此処に居て狙われたなら、この公館に残るのは危険かもしれないな。保安官の世話になろうか。道中の護衛を頼むよ」

 侯爵は、保安官ジムが聞いたら絶対に嫌な顔をしそうな言葉を言って、冒険者達に護衛を頼んだ。

「それがよろしいかと。お体の調子は大丈夫ですか? よろしければ乗り物もご用意出来ますが」

 帽子をかぶり直し、ウサダは大型のマギスフィアを取り出してコマンドワードを呟く。

『【オートモビル】』

 すると、マギスフィアから機械部品が現れ、それが空中で組み合わさってゆき、最後にマギスフィアの外郭がエンジンに変形すると、そこには一台の魔動機製のバイクが完成する。

「おお、魔動バイクかね。頼むよ」

 言うや否や、侯爵は魔動バイクの後部座席に座る。

「運転は俺に任せてくださいませ。きちんと保安官事務所まで送り届けて見せましょう」

 ヴェレッタが運転を名乗り出て、魔動バイクのシートに跨る。

「……出発前に、お手をお貸しいただいてよろしいですか?」

「なんだね?」

 ウサダが侯爵に歩み寄り、侯爵が言われるがままに右手を差し出すと、その上に小型のマギスフィアを置いて、コマンドワードを唱える。

「『【ライフシグナル】』……これが装着されている限り、侯爵殿に危険が迫れば直ぐにでもこちらで感知する事が出来ます」

 ウサダが説明している間、コマンドワードを受け取ったマギスフィアは腕輪に変形し、侯爵の右手首に装着される。

「至れり尽くせりだね。ありがとう」

 侯爵が礼を述べる。

「いえ、窮屈な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

 ウサダは侯爵にそう答え。ヴェレッタに一言。

「では、くれぐれも慎重に頼んだ」

「わかった」

 ヴェレッタは頷き、後部座席に座る侯爵がきちんと掴まっている事を確認すると、エンジンを入れて保安官事務所まで向う。

 そして、ヴェレッタが侯爵を連れて行ったのを見計らい、レイチェルとマーガレットが公館の玄関から顔を出す。

「お話は終わったようね? こっちの話も終わったわ」

「そうか、首尾はどうだ?」

 ウサダが聞くと、レイチェルは手短に首尾を伝える。

「マーガレット達のグループは、蛮族と通じているフライブルグ侯爵を狙って事件を起こした様よ。そして、私達の仕事は、フライブルグ侯爵の黒い噂の正体を突き止めて、必要な段階を踏んだ後に落とす事。利害は一致しているわ」

「そうか……詳しい話は後で聞こう。ところで、マーガレット」

 それを聞いたウサダは、マーガレットの話しかける。

「帰る場所は有るのか? もしくは、身を隠す潜伏先でもいい」

「はい、それならレジスタンスの隠れ家があります……作戦は失敗しちゃったし、怒られるかもしれませんが」

 マーガレットはそう答える。

「そうか。もし手ぶらで戻るのが不都合なら俺達を利用しろ。冒険者を味方につけたと大手を振ると良い。合わせよう」

 ウサダはそう言って、協力する旨を伝えた。

「……そうですね! 仲間が増える、といえばきっと喜んでくれると思います。リーダーの人も、元冒険者の人ですし」

 安心したように、マーガレットはそう言った。

「ねぇ、私達もそこへ連れて行ってくれないかしら? 力になれる事があると思うの」

 レイチェルがそういって案内を頼むが。

「……分かりました。でも、明日にして貰えませんか? きっと、その方が皆が集まってると思いますから。明日のお昼頃、宿まで迎えに行きます」

 マーガレットは、条件付で承諾した。

 そして、マーガレットは冒険者達に一礼して。

「それじゃあ、私は失礼します……」

 そう言った後、ローブを纏い、フードを被って立ち去ろうとする……。その途中、一度振り返ってウサダを見る。

「……へんてこなウサギ、ってのは、言いすぎかなぁ」

 小声でくすりを笑ってから、今度こそ立ち去る。

「俺もそう思う」

 その言葉を聞いて、ウサダは肩をすくめた。










「……所で、さっきからカタリーナが静かだが」

「あら、居眠りしちゃっているわ。ふぁ……ぁ…ん」

「眠そうだな」

「ええ、とっても」

「……俺達も帰って、一休みしよう」

「それもそうね……ほら、此処で寝ちゃダメよ、宿まで歩いて」

 ロクでもない夜は過ぎ去り、日はゆっくりと、地平線の彼方から顔を覗かせようとしている。

 ロクでもない夜を越えて、冒険者達は第二の我が家、冒険者の店に帰宅する。

 ロクでもない夜は明けたが、冒険者達はこれから、休む時間が必要そうだ。

 まず、お待たせしました。待たせてしまい申し訳ない、です。


 それから、七話を読んでくれてありがとう。



 執筆やインターネットに使っているパソコンの修理と、自分が執筆が遅れたという二つの事情から、大分間が開いてしまった。




 ちなみに、最後の侯爵とウサダの話すシーンにて、カタリーナが極端に話さないようになって、いつの間にか居眠りしていたシーン。

 これは、実際にセッション中にカタリーナのプレイヤーが眠さを訴えていたりしていたのであった。


 TRPGのセッションは、複数人で一箇所に集まって行うのが一般的だが、最近ではオンラインセッションという形を取る事もできる。

 つまり、指定された時間にインターネットを使い、一箇所に集まってプレイする。

 それで、このオンラインセッションは通常のセッションと違い、平日夜などの普通は物理的な問題で集まれないような時間にTRPGをプレイする事はザラにあり、そうなると、必然的に夜更かしする。すると、眠くなる。

 眠さに負けていつの間にか居眠りはオンラインセッションには付き物だったりする(この時は、眠くてあまり発言出来ていなかった程度だった)



 皆様も、オンラインセッションに触れる機会があったら、自分の体力と相談しつつ、いつの間にか無断で居眠り等をしないように心掛けて欲しい。





 裏話も済んだ所で、今回のあとがきはここまでにしよう。

 次回は……また来週火曜日に投稿出来る用にがんばろうと思う。

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