清閑なる宮
初!王城!そしていきなり王女宮!
打ち合わせを重ね、其れなりに此の国の貴族について詳細を知る事となったが、王族の情報は皆無だった。
だが何れ知る必要がある。とは、思ってはいたが…まさか斯様な形で知らされるとは、青天の霹靂である。
「もっと近くに参れ」
「はっ!」
淑女の装いをしていた事は、突然の謁見により、忘却の彼方であった。
王女殿下の面前にて騎士の如く膝を突いてから、漸く己の装いへ意識が向いた。もう、手遅れである。
「麗しい令嬢よ。顔を見せておくれ」
ドクドクと鳴り響く心音を落ち着かせるように呼吸をし、頭の先まで神経を研ぎ澄ませながら顔を上げる。
必然的に視線が重なりーー矢張りそうかと、緊張で身が竦んだ。
「突然の呼び立て、済まなかったな」
輝かんばかりの、困り顔である。訳が分からない。
「…いえ、滅相もないことで御座います。御目通り叶い、恐悦至極に存じます」
「そう堅くならなくても良い。正式な場ではないからな」
鮮やかな花弁が開かれた様な其の微笑みに、もう、陥落寸前である。誰か、助けてくれ…
「さあ、此方に座ってくれ」
王女殿下に促される儘、恐ろしい程に座り心地の良い長椅子に腰を掛けた。
「さて、本当はゆっくりと話したいのだが、些か時間が無くてな」
一体…何のお話を為さるのだろうか……
「ルジよ、其方は我が国の建国物語について、如何思ったか聞かせておくれ」
「……畏れながら、丸で、御伽噺の様であると…ーー」
「ーー御伽話ではございませんッ!!」
後ろに控えていた侍女らしき少女が声を荒げた。
「リース。口を挟むでない」
「…ッですが…!」
「済まない。この者は、秘教信者なのだ」
ルジは生唾をゴクリと嚥下したーー嗚呼…本当に誰か助けてくれ……これは夢か?夢なのか?何故、如何して、私は今、国家機密を聞かされているのだろうか……
「訳有り、私が匿っておる」
此の国は、法を厳格に遵守させる事により、栄華を極めた。
そして、宗教に関する取り締まりは格段に厳しくーー神は存在せず、悪は滅するべきーーという法の下、特に秘教は禁忌であり…秘教信者と知られたら投獄される。重罪なのである。
「其の様な顔をするでない。深い意味は無いのだ。ルジ、其方の秘密を我々が一方的に知ってしまったからな」
……成程。取引か、牽制か、其の類か……成程…?
「して、ルジよ。其方は、私が此の者を匿っていると聞き、如何思う」
「…… 我が祖国は、他宗教であり、私自身は無宗教に御座います。故に、秘教のーー死後の天上の世界や、神の教えである”赦し”ーー等の考えは、全く以て理解仕兼ねます」
「なッ…なんてことをッ…!!」
リースが悲鳴の如くか細い声を漏らす。
「死後は、魂も、感ずる心も、何も彼もが全て消滅すると、私は考えております故に、」
発汗している掌を握り込む。
「此の命在る限り、己が目で視、己が耳で聴き、己が心で受け、神という感ずる事の出来ぬ存在について理解したく存じます」
此れは、嘘偽りない、本心である。
信仰心は皆無だが、非常に興味深い。と言えば、少女は激昂しそうだが。
「……其方は……、裁き人の様だな」
ふっと口元を緩めた王女殿下は、眩し気にルジを見詰めた。
一体、何だったのだろうか。
満足気に頷かれた王女殿下からは、会えて嬉しかったぞとの御言葉を賜った。
そしてあの少女は、最後の最後まで私を此れでもかと注視しながら、王女殿下に続いて退出した。
…………あ。しまった…!!
王女宮の一室を畏れ多くも使用させて戴いた件の御礼を申し上げる事を失念していた…!!
否、然し、抑が騎士団長様の御達しであったから、良いだろうか、もう、もう………疲労困憊である……嗚呼、此れから夜会潜入という大仕事があるというのに…
慣れない靴に神経を集中し直し、音を鳴らさぬ様に歩を進め、王女宮を後にした。
王女様のビジュアルを書こうと思っていましたが…ルゥさんが陥落寸前で容姿を観察するどころではない、というようなビジュ(?)ということでご勘弁を…




