義兄の微笑み
あやっぺ様から頂いた感想により、脳内に宰相閣下が降臨しました!よろしくお願いします!
あやっぺ様ありがとうございます!!
ディミトリアスは公爵邸の書斎で、その日届いた手紙を読んでいた。
仕事関係のものは王宮に届くことが多いので、ここにあるのは夜会の招待状や個人宛の手紙がほとんどだ。
その中に、少し分厚い家の印のない封筒。
ディミトリアスの片方の眉が上がった。
これは愛する妻の弟からの定期報告だ。
義弟は、ディミトリアスが妻と結婚した後すぐに留学のため、遠い国へと旅立った。もともと天才と言われるほどの賢さだが、当時15歳かそこらで周りをそれと知られずに動かすことが上手かった。
妻の実家を有力貴族に押し上げたい自分と、領地を繁栄させたい義弟の希望が合致し、彼は2年間治水について学んだ。
義弟は留学の前、伯爵家のセドリックを通して諜報員を数名貸してほしいと要請してきた。
セドリックがこちらの手のものであるとバレていたのも驚いたが、さらに手のものを貸してほしいと言われたことにも驚いた。出世払いでと言われ、もともと留学先の国にもこちらと繋がる者たちを入れてはいたが、それとは別に数名貸すことにした。
ー確かな貸しを作るのも悪くない。
また、義弟の学友だという子爵家の2人もどうやってかこちらに繋ぎをつけて義弟と共に留学した。最初は愛妻のためであったが、彼らを知るうちに義弟ら3人の作る新しい伯爵家を見たくなったのだ。
当代のアルヴィ伯爵は凡庸だが、子どもたちを正しく賢く育てることには成功している。
義弟も妻と同様律儀なので、留学中も2ヶ月と空けず、姉である妻とディミトリアス宛にそれぞれ手紙を送ってきていた。妻には留学先での珍しいことや見慣れなかったものなど。ディミトリアスには勉強の進捗や近況だ。
一応貸した手のもの達にもあまり危ないことはさせないようにと言いつけてはあったが、まさか彼らを上手く使うとは。
手紙に目を通しながらディミトリアスの唇は珍しく笑みをかたどった。
最初は手の者からの報告だった。
クリストファーに親しい女性ができたと。しかし、相手は宮中伯の娘であり、すでに婚約者がいるとのことだった。
すぐに、クリストファーがその女性を手に入れようとしてることが報告された。相手の男に醜聞がないか調査をしているという。
子爵家の2人と手の者を使い、婚約者を引き離そうとしていた。
留学期間も折り返しを過ぎたところで、クリストファー本人の手紙にも、連れて帰りたい女性がいることが記してあった。数学に特化した天才であり、彼女を連れ帰れば必ず伯爵家、ひいてはオーラリアの役に立てると言い添えて。
抜け目のないことだ。こちらに利がなければ動かないことを知っている。
どうやら婚約者の女癖の悪さを露見させたようで、無事に婚約破棄、宮中伯からは女性をもらい受ける許可が下りたと連絡がきた。さらに、彼女の友人の家がやはり宮中伯であり、こちらの国と縁を結ぶことで上質な紙をはじめとしたいくつかの品物の輸出入について打診された。彼女の友人にはこちらでいい縁を結んでほしいと。
上質な紙はこちらでは貴重であり、それを輸入できるのは悪くない。明日にでも国王陛下に奏上し、結婚相手の選定とラズデール帝国への使者の準備を始めよう。そうやってあっという間に2国間での貿易の準備が整った。あと半年で貿易が開始する。
そのあとすぐに女性にプロポーズを受けてもらったこと、彼女がこちらにきたときの相談が来た。婚約が整うまではしばらく伯爵家ではなく、別の滞在場所を用意する必要があった。我が家は爵位としても体面としてもちょうどよかった。
断じて、引き離されたときのクリストファーが面白そうなどというわけではない。
先日無事にクリストファーたちの婚約が整い、ルナリエラ嬢は伯爵家に移った。一年だけ勉強に打ち込みたいというのが彼女の希望だったからだ。もうしばらくしたら結婚式を挙げることになっている。
ーこれから、今までの貸しは利子もつけて返してもらわねば。
留学から戻って以来、クリストファーとの間で様々な意見を交換し、実施の案を立ててきた。これからそれらを検証していく作業に入る。頻繁に王宮にクリストファーは呼び出されていた。
ー私の利子は高額だぞ?
そこまで考えたところで、書斎の扉からノックが聞こえた。手紙をしまい、入室を許可する。
入ってきたのは、ディミトリアスが愛してやまない妻だ。風呂上りのシンプルなネグリジェの上にショールを羽織っただけだ。
「ミツォ、お仕事は終わりましたか?」
「今終わったところだよ。セシリアは?」
「今眠りました。乳母と代わってきたところです。」
「そうか。そんな薄着では冷えてしまう。こちらにおいで。」
妻はディミトリアスの元にやってきて、座ったままのディミトアスの首にするりと腕を回し、額にキスをする。
途端にディミトリアスの表情がとろけるような甘いものになる。
そのまま妻を膝の上に乗せ、しっかりと抱き込む。
「こんなに冷えているじゃないか。寝室に行こう。」
そう言うと、妻は恥ずかしげに首に絡めた腕に力を込めた。
全て宰相閣下にはお見通し。
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