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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
四章 ぼくが君を助けるために、王都の上空でドラゴンと戦う話
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4-6 エーヴドゥルカ

「ぼくのせいだ、先輩に知らせるのが遅すぎたから……!」

「後悔している暇はないぞクラウン! あやつめ、攻撃してきよるにゃ!」


 オーサの言葉を聞いてはっと我に返ると、エーヴドゥルカが大きく身体をのけぞらせ、真っ赤に燃える両翼から無数の火の玉を生みだしたところだった。

 キデック先生の魔法なんて可愛く思えるほどの業火が――四方から迫ってくる。

 

「うおっ!? よくわからんがやばそうだな、これはっ!!」

「ちい、世話の焼けるやつめ!」


 真横のガードナーはすぐさま反転、シュレーターを駆って雨のように降りそそぐ火の玉を巧みにかいくぐっていく。

 一方のオーサはブツブツと解読不能の古代言語を詠唱して、防御の魔法を発動させる。飛んできた火の玉を透明な障壁で弾き、次々と消し飛ばしていく。

 呆然としたまま、なにもできなかったのぼくだけだ。

 

「――グオオオオオオッ!!」 


 すべての火の玉を防がれたエーヴドゥルカは翼を広げて咆哮し、凄まじい勢いで飛び去っていく。

 続けて攻撃が来るものだと思って身構えていたぼくらはとっさに反応できず、なすすべもなくその背中を見送ってしまう。

 箒で滞空したまま息を吐きだすと、ガードナーが距離を詰めてくる。


「なにが起こっているのか知っているなら、俺に説明しろ。見間違いじゃなければ、ベルクレアとかいう女が箒に食われて竜になったようだが」

「それは……」


 ベル先輩が食われてしまった。

 助けられたはずなのに。

 間に合わなかったから。

 残酷な現実を突きつけられたぼくは、涙がこぼれて言葉が出ない。

 代わりに肩に乗っていたオーサが、平然とした調子でこう呟く。


「勘違いするのも無理はないが、まだ食われてはおらぬ」

「……え、そうなの?」

「たわけ、なんでお前が聞き返してくるのにゃ。図書室での話を覚えておらんのか、あの竜は所有者の魔力を奪い、やがて肉体ごと食らってしまう。眠りから目覚めたばかりゆえ、あの娘を食らってしまうほどになるのはまだ猶予があるであろう」


 ため息まじりにそう説明されて、ぼくの心にも希望が湧いてくる。

 つまり今のベル先輩は、駆動兵の目玉と同じような状態。

 主導権を竜のほうに握られているという違いこそあるものの、彼女は箒の内側に取りこまれているだけなのだ。


「てことは、まだ間に合うわけだね! 先輩が食べられちゃう前にエーヴドゥルカをやっつけて、箒の中から引っぺがせば」

「簡単に言ってくれるのう。しかし助けるつもりなら、そうするほかあるまい」

「……まさかお前ら、さっきの竜を退治しに行くつもりなのか? 悪いことは言わないからやめておけ。そのうち王都の魔法使いが討伐に乗りだすし、なんなら俺が知らせに戻ってもいい」

「でもそれだと、間に合わないかもしれない。だからぼくが行かなくちゃ」

「お前が? 冗談はよせ、無駄に死ぬだけだ」


 ガードナーが真剣な顔で止めるものだから、ぼくはどう説得したらいいかわからなくて困ってしまう。

 いつも君は戦えと言って怒りだして、ぼくは戦いたくないと言って泣いてばかりだったのに――これじゃ立場があべこべだ。


「それでもやらなくちゃいけないから、ぼくは行くよ。震えて泣いているだけじゃなにも変えられないし、メグのときみたいに見ているだけしかできないのは、もう嫌だから」

「時間が惜しいにゃ。あやつと戦うつもりなら早くせよ、クラウン」

「うん。じゃあガードナーは戻って、みんなに知らせておいて」

「な……バカなことはよせ、クラウン!?」


 ガードナーの言葉を待たずに、箒に魔力をこめて飛翔する。

 目指すはエーヴドゥルカ。

 いや、その中に囚われてしまったベル先輩だ。

 彼女ともう一度空を飛べるなら、どんなやつだって倒してみせる。



 ◇



 はるか遠くに見える真っ赤な背中に追いつこうと、箒がバラバラになりそうなほどの速度ですっ飛ばす。

 そんな中、オーサがエーヴドゥルカについて語りだした。


「グリフディリオンとやらが古代種の長によって生みだされた魔法生物であるなら、その性質はオーサに近いやもしれぬ。つまりその模倣たるかの竜も、にゃ」

「エーヴドゥルカが君のお仲間ってこと? あんまり似ていないけど」

「ふん、生まれが近いからといっていっしょくたにされても困るがにゃ。破壊の神と箒ごときでは獅子と猫を比べるようなものであるし、ましてやその出来損ないとなれば、相手にするのもバカバカしい。とはいえ、今回にかぎってはちと面倒だにゃ」


 いつも自信たっぷりなオーサが珍しく言葉を濁すから、驚いて視線を向ける。

 今さら無理だなんて言われたら、途方に暮れてしまう。


「ひとつ、お前に力を貸していると本来の姿に戻れぬ。ふたつ、ちょこまかと飛びよるから生け捕りは難しい。中に囚われた娘に構わず、地上の被害すら考えず本気を出してよいのなら、破壊の神となったオーサがたやすく滅ぼしてみせようが……それは蜥蜴を狩るために、庭園ごと焼き払うようなものであろう」

「じゃあ結局、どうすればいいの?」

「聞く前に自分で考えてみよ。ちょこまかと逃げまわる蜥蜴を射るような、呆れるほど器用な真似ができるのは誰ぞ。竜を倒すと息巻いたのは、どこのどいつにゃ」

「……ぼく、だね」


 悔しいけど自分一人の力だけじゃ、竜なんて倒せるとは思えない。

 でもベル先輩を助けるとなると、オーサが本気を出しても難しくて――だからぼくが力を借りて、エーヴドゥルカをピンポイントで狙い撃たなくちゃいけないのだ。


「遠慮はいらぬ。あれは天寿をまっとうした竜でありながら、忌むべき力によって目覚めさせられた亡骸よ。叫ぶのは身をよじるほどの痛みに苛まれるがゆえ、食らうのは満たされぬ飢えから逃れるがため。ただ暴れ、破壊をまき散らすだけの存在となれば、作られた命はそう長く保つまいが……せめてもの情けとして、お前の手で早く解放してやれ」


 間近に迫ってきたエーヴドゥルカに視線を向けると、翼を広げながら王都の上空を飛びまわる竜の姿は、苦しみに耐えかねてのたうちまわっているようにも見えた。

 ぼくが救うべきは、ベル先輩だけじゃないってことか。

 箒にまたがったまま懐から攻撃用の石ころを取りだすと、まずは動きを封じようと翼に狙いを定める。


「我が身に満ちる創世の力、世界を変える波紋となりて万物を貫く……」


 指先に全神経を集中し、いつもの術式を構築する。

 倒すためじゃなくて。

 囚われたベル先輩と、眠れる竜の魂を解放するために、ぼくは魔法を放つ。


「唸れ! ――秘石弾ッ!!」


 石を飛ばすだけの魔法はオーサの力で強化され、大地をも穿つ衝撃波となってエーヴドゥルカに迫る。

 しかし竜の頭蓋がこちらを振り向き、木の葉のようにひらりと回避してしまう。簡単に当てられるとは思っていなかったけど、それにしたって反応が速すぎる。

 ただ狙うだけじゃなくて、相手の動きをあらかじめ予測して――なんて考えをめぐらせる余裕すらなく、ぼくらめがけて無数の火の玉が飛んでくる。

 しかも最初にぶっぱなされたときの、倍以上の数だ!!


「さすがにこの規模をさばくのは時間がかかるゆえ、当たりそうなやつだけ消し飛ばす。防御はオーサが担う、お前は攻撃に専念せよ」

「わかっ……待ってオーサ!! やっぱりぜんぶ弾いて!!」

「なぬう!?」 


 背後に王都の街並みが広がっていることに気づいて、ぼくは慌ててお願いする。

 オーサはブツクサ文句を言いながらもポコポコと障壁を展開し、地上に降りそそぐ火の玉を余すことなく消し飛ばしてくれる。

 だけど竜を見れば、またもや背中を向けて飛び去っていくところ。

 街の被害を未然に防いでほっと息を吐く間もなく、ぼくは箒をぐいっと旋回させて不毛な追いかけっこを再開させる。

 額から汗を垂らして焦りをにじませる中、オーサが呆れたように呟いた。

 

「クラウンよ。ただでさえ難儀するというのに、地上の被害をも防ぐというのなら、あやつは絶対に狩れぬ。ろくな攻撃もできずに時間だけを浪費し、中に囚われた娘は食われる運命となるぞ」

「でも……!!」

「こればかりは諦めるほかあるまい。お前の手はあまりにも小さく、神の力とてすべてを成せるほど万能ではない。だからよく考えて、選ぶがよい」


 余裕がないことくらい、ぼくにだって痛いほどわかっていた。

 だとしてもなんとかなるって信じていたかったけど……オーサが無理だというのなら、それはきっと、本当にどうにもならないことなのだ。


「あの娘か、王都か。救えるものは、ふたつにひとつにゃ」

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