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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
四章 ぼくが君を助けるために、王都の上空でドラゴンと戦う話
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4-4 レース開幕

 話を聞き終えるやいなや、ぼくは慌ただしく校舎を飛びだした。

 ハーレイ先生が学園の教師に伝えておくというのだけど、今は建国祭に駆りだされて会場のあちこちに散らばっているし、盛大なお祭りのラストを飾る飛行魔法レースのスタート間近という状況では、迅速に連絡がまわることは期待できそうにない。

 だったらやっぱり、直接ベル先輩のところに行って伝えたほうが確実だ。


「寮に戻って箒を取ってきたほうが早いかな。へろへろ飛行だけど……」

 

 そう考えたところでタイミングよく、ぼくの腕に抱えられて居眠りしていたオーサが目を覚ます。

 ふなあとあくびをしながら「慌ててどうしたのにゃ。漏れるのか」と呑気なことを言うものだから、走りながら事情を説明する。

 で、腰のベルトに封呪の杖を引っ掛けて、部屋の壁に立てかけておいた箒にまたがって窓から飛びだそうというところになって、ぼくの肩に居場所を移した猫サマはこう呟いた。


「マカロン一個な」

「はい?」


 一瞬きょとんとしてしまうものの、言葉の意味をすぐさま理解する。

 オーサに強化してもらえば、今のぼくでも速く飛ぶことができるはずだ。


「じゃあお願い。でも急いでいるから変な踊りは省略してね」

「わかっておるわ。というわけで……ミュージックスタートにゃ!」


 できればそれも省略してほしいんだけど。





 謎の音楽が流れてきたときはどうしようかと思ったものの、オーサが強化してくれた魔法はやっぱり凄まじかった。

 ていうか衝撃波をぶっ放せばいいだけの魔法と違って、空を飛ぶとなると力のコントロールが命取りになる。

 箒にまたがって浮きあがった直後、ぐんぐんと迫りくる――王都の城壁。


「ああああっわあおおおおっ! ぶつかるぶつかるぶつかるぶつかああ死ぬう!!!!」

「にゃあははあっああぽおおおっあああ……ぐべ」

 

 あわや激突というところで急旋回、野苺のジャムになる運命を回避する。

 肩にしがみついて笑っていたオーサはさっそく舌を噛むし、ぼくは暴れ馬になった箒を手なずけるだけで精一杯。

 それでもなんとか飛行魔法レースのスタート地点にたどりつくと、急ブレーキの余波で受付のテントをなぎ倒しつつ、ひっくり返りそうになっているカイトの前で着地する。


「ねえベル先輩は!? もしかして出ちゃった!?」

「……なんだ、なんだこりゃいったい! クラウンくん、俺を驚かして楽しんでいるのならいい加減にしてくれよ。レースはついさっきスタートしたところだし、ていうかやっぱり君、バカみたいな速さで飛べるじゃないか」

「一足遅かったようだにゃ。となれば追いかけるほかあるまい」

「ちょちょっ! まさかこのまま乱入するつもりじゃないだろうな!?」


 ぼくが再び飛びたとうとすると、横からカイトの制止が入ってしまう。

 そうか、レースの開催中はルート上に立ち入り禁止なのだ。強行突破しようものなら邪魔が入って余計に時間を食ってしまうかもしれない。

 ぼくはエーヴドゥルカについて話したあと、カイトにゼッケンを持ってきてもらう。

 この際、飛び入りで参加してしまったほうが手っ取り早い。


「てっきりガードナーがハクラム師の後継者なのだとばかりに思っていたが、今となっちゃ君のほうがよっぽど底が知れないな。おかげで頼りになるとも言えるけど」

 

 カイトはゼッケンをつけてくれたあと、ぼくの背中をばちんと叩いてくる。

 そしていつもの調子で笑いながら、


「まったく……今の君こそ白馬の王子様ならぬ、箒の王子様じゃないか。だからさっさと頭にクラウンを乗っけて、お姫さまを追いかけにいってくれ」

「うん。じゃあ、今度こそ」


 お互い顔を見合わせてうなずいたあと、ぼくは勢いよく空に舞いあがる。

 あっという間にカイトが豆粒みたいに小さくなり、市街区の色とりどりの屋根から視線を前に向けると、賑やかな声援とともにレースの最前列――小鳥のように駆け抜けていく箒たちの姿が見えてくる。

 あそこにベル先輩や、ガードナーがいるはずだ。



 ◇



『さあいよいよスタートしました王都テンジル建国杯、通称飛行魔法レース! 今年も腕に覚えのある魔法使いたちが自慢の箒を握りしめ、蒼穹に浮かぶ雲の間を駆け抜けていきますっ! 果たして栄冠は誰の手に!? 実況はおなじみ魔法協会の麗しきカナリアこと、スフィーリア・アンタンジル。解説は現在も魔法学園で教鞭をふるっていらっしゃるキデック・ヒルズバック卿でお送りしております。いやー優勝候補ふたりがさっそく後続を突き放してしまいましたねキデックさん』

『まったく、ほかの参加者はなにをやっているのだ。ふたりともまだ学園の生徒、それもかたや田舎娘、かたやスラムからぽっと出てきた盗人のカラスだぞ。このままでは金のトロフィーがまた、平民や孤児の垢まみれの手に渡ってしまうではないか』


 ぼくがレースのスタート地点から飛びたっていく中、毎年恒例の拡声魔法による実況中継が王都の空に響き渡る。

 去年の評判が悪かった解説者はやっぱりキデック先生だったらしく、レースがはじまったばかりだってのに差別発言が絶好調だ。


『えー、手元の情報によりますとガードナーくんはハクラム・パラディオン氏のご子息より、去年お亡くなりになられた恩師の代名詞ともいえる宵闇の天布シュレーターをレースのために借り受けているとのこと。飛び入りで参加した昨年は三位入賞。今年こそは優勝を、という期待の現れなのでしょうか』

『ふん、ハクラム師の名に泥を塗ることがなければいいが。しかし今のところよくやっている……むむ? ベルクレア嬢との距離をだいぶ詰めてきているな。この調子だと中継地点に到達するころには順位が入れ替わるかもしれないぞ』

『おっとー早くも波乱の展開か!? どうした流星のベル!! スタート直前で箒を変えたのが仇となったか、はたまたガードナーくんが腕を上げたか!? いやいや不動のチャンピオンは伊達じゃない、ここでスピードをあげてガードナーくんの追従をあっさりと突き放したあああ!』


 実況の音声がキンキンと耳を貫いてきて、箒にしがみついているような有様でも最前列の様子を把握することができた。

 やっぱりベル先輩はすごい。

 ただ、エーヴドゥルカは所有者の魔力から刺激を受けているらしいから――このまま彼女が速度を上げていくと、眠れる竜の魂を目覚めさせてしまいかねない。

 ぼくは速度を一気にあげて、最後尾で列をなしていた魔法使いたちの間に割って入っていく。


「どいてください避けてください逃げてくださああああいっ!!」

「なんだ!?」「どわっ!?」

「ちょっと!! 危ないでしょ!?」

「にゃははは! ごめんあそばせってやつよのう!」 


 勢いあまってうっかり吹き飛ばしちゃったから、背中ごしに罵声が聞こえてくる。

 でも今はそんなこと、いちいち気にしている場合じゃない。

 オーサに強化してもらったとはいえ……ろくに箒の制御もできないぼくが、今からベル先輩に追いつくのは優勝するよりも難しいはずだ。 

 だから覚悟を決めて、死ぬ気で飛ばなきゃ間に合わない!

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