3-14 力の対価
「もしかして、今ので倒したわけ??」
「本体は目玉ですから、まあそういうことになります」
貧弱ながら強力な熱線を放つ邪眼蟲を、動く鎧に組みこんだ魔法生物。
それが駆動兵だと、ハーレイ先生に見せてもらった設計図に書いてあった。
でもベル先輩は、ぼくがどこでそんな知識を得たのか知らないし、
「貴方のこと、ちょっと怖くなってきたかも。可愛いくせに危ないやつじゃん」
「ええ!? そんなふうに見えましたか!?」
言われてみれば腕を切り離したりくっつけたり、帝国時代の生物兵器を魔法の罠でハメ倒したりと、邪悪な魔法使いさながらの戦い方をしていたような。
でも頼りになるところを見せようとして恐怖されるのって、さすがにあんまりじゃない? ぼくが愕然としていると、
「冗談だってば。あたしのこと守ろうとしてくれたんだものね、ありがと」
「あははは……」
半分は本気っぽかったから苦笑いを浮かべてしまう。
とはいえベル先輩を守ることができたのなら、地味な魔法での戦い方を研究してきた成果はあったのだろう。
この調子でやっていけば、いつか誰にも負けない魔法使いになれるかもしれない。
◇
なんて調子に乗ってしまったけど――自分の考えがいかに甘かったかは、部屋を出て数分後に気づかされた。
地上を目指して道なりに歩いていると、再びカシャカシャカシャと不穏な足音が響いてくる。
だけど前とは比べようもないほど、喧しい。
通路の奥から近づいてくる、駆動兵の、群れ。
蟻の行列のごとく押し寄せる不気味な姿を見て、ベル先輩がうめき声をあげる。
「うそでしょ……。あの数じゃどうやっても勝ちめがないわよ……」
だったら逃げるしかない。
でも、どこへ。
反対側の通路を見て、それから首に巻いたケープを握りしめる。
うまい具合に、道が二手にわかれていた。
「先輩はすぐ逃げてください。ぼくはあいつらを引き留めつつあとから追いかけます」
「ほんとに? 自分が囮になるつもりじゃないでしょうね」
ぼくは笑った。
思っていたより鋭いなあ。
嘘をつくのは得意じゃないけど、
「そんなことしませんってば。むしろ先輩を囮にして逃げたいくらいなのに」
「でも……」
「正直に言うと足手まといなんです。あの数が相手だとさすがに余裕ないので」
「わかったわよ!! 偉そうなこと言っておいてやられたら、許さないからねっ!!」
そう言って走りだす彼女の背中を見つめながら、ふうと息を吐く。
こんな状況になってようやく、わかったことがある。
ぼくが恐れていたのは痛いことや怖いことじゃなくて、弱いことでもなくて。
メグが冷たくなっていくのを、見ていることしかできなかったときみたいに。
大切な誰かを失ってしまうのに、自分がなにもできずにいることだったのだと。
「もちろん今もたいしたことはできないけど、さ」
どうせ効果はないと理解しながらも、ぼくは懐から攻撃用の石ころを取りだす。
オーサに怒られないように。
せめて認めてもらえるように。
「最後の最後まで、あがいてみせるよ」
そう呟いて詠唱した直後。
ぼくの魔法が――爆発した。
「へ?」
凄まじい衝撃波が発生し、駆動兵が跡形もなく消し飛んでいく。
あまりのことに呆然としていると、ベル先輩が逃げた通路の先からコロコロと、丸くて黒い毛玉が転がってくる。
そして頭の中に響き渡る、珍妙な笑い声。
『ぬふふふ。ぴーぴー泣いておるかと思ったのに、つまらんのう』
「……オーサッ! じゃあ今のは」
『お前の魔法を強化してやったにゃ。ちなみに踊りは省略な』
なんのこっちゃ。
じゃあ決闘のときもやらなくてよかったのでは。
相変わらず自由な猫サマに脱力していると、オーサに続いてカイトやハニービー、それから一足先に逃げていたベル先輩がぞろぞろとやってくる。
「嘘だろ?? 今の魔法、クラウンくんがぶっ放したのかい!?」
「見ちゃったからには信じるしかないわよね。やだ、可愛いだけの男の子だと思ってからかってたのに、私より強いなんて妬けてきちゃうっ!」
「自分でもびっくりしているところだよ。あははは……」
カイトやハニービーが興奮して詰め寄ってきたので、ぼくは慌ててごまかそうとする。
オーサがうしろでニヤニヤ笑っているものの、ネタばらしする気はなさそうだ。
それより――逃げている途中でみんなと合流したらしいベル先輩が、
「死んじゃっでだら……どうじようがどおもっだあああ!」
「うわ、いきなり飛びついてこないでくださいよ! 鼻水、鼻水がつきますから!」
柔らかいし苦しいしでじたばたもがくのだけど、ベル先輩はぼくに抱きついたまま離れようとしない。
本気で心配してくれたみたいだし、こうしていると死ななくてよかったと思う。自分だけ犠牲になろうだなんて、いい考えじゃないのは確かだ。
「とにかく……無事に合流できましたし、みんなで地上を目指しましょう」
「そうね、貴方がとんでもなく強い魔法使いだってことはよくわかったし、もうおばかさんだなんて呼べないわ。今まで先輩面して偉そうなこと言ってごめんなさい」
「はい?」
「ベル嬢の言うとおりさ。落ちこぼれのフリをしている理由はわからないけど、なにか事情があるんだよな? いずれにせよ、君がかなりの使い手だとわかって安心した。正直、俺たちだけじゃ全滅しかねないからな」
「可愛くて最強の座は、クラウンくんに譲ってあげる。私はもっと鍛えないと」
「待って、どうしてぼくをぐいぐい前に……はぐれる前は最後尾だったじゃん!」
でもみんなは瞳をキラキラさせて、ぼくを隊列の先頭に追いやる。
お荷物から一転、頼れるリーダーに格上げされたものの、自分の力で認められたわけじゃないから複雑な気分だった。
でも今は地上に戻ることを最優先に考えるべきだし……と、困っていたところでオーサがぽんと頭に飛び乗ってきて、再び心の声で囁きかけてくる。
『強化一回につき、マカロン一個で手を打つにゃ』
世界を滅ぼす力の対価、お菓子でいいの?
安上がりすぎて怖いのだけど、ほかに選択肢もないしお願いする。
自分の力で強くなるとか言っていたくせに、結局はオーサに頼らないとなにもできないのだから……ぼくはまだまだ、落ちこぼれを卒業できそうになかった。




