3-13 駆動兵との戦い
外ではガタガタとやかましい音が響き、校舎地下の魔物が扉を破壊して侵入しようとしている。
なにか武器はないかと物色したところ、棚に陳列された怪しげな瓶を発見。この部屋で研究でもしていたのだろうか、試しに中の液体を垂らしてみると、パキッと音を立てて床が凍りつく。
だけど使えそうな瓶はそれだけで、切り札としてはやや心もとない。
「いざとなったらこれで動きを封じて、その隙に倒すしかないかしら」
「でも見た感じ、ぼくが石を飛ばしたくらいじゃびくともしなさそうですよ。ていうかあの魔物、どこかで見た覚えが……」
「気のせいじゃないの? あんなやつ、大陸中を探したってここにしかいないでしょ」
ベル先輩の言うとおりかもしれない。
ぼくは定番のゴブリンでさえ、図鑑のイラストでしか拝んだことがないのだから。
いや、待てよ……第三図書室だ。
ぐしゃぐしゃに壊された扉に鋭利なハサミをさしこんで、魔物がいよいよ侵入しようする中、いつだかハーレイ先生と話したときの記憶を、たぐり寄せる。
――――――
「ぼくに見せたいものってなんです?」
「クラウンくん、私の蔵書にほとんど興味を持ってくれないからねえ。せっかくお客さんが来ているってのに、これではいかんと思ってさ」
「そりゃ勤勉じゃないのは認めますけど。じゃあ面白い本を紹介してくれるわけですか」
「ふふふ……実はこの図書室、戦乱時に書かれた研究資料の保管庫でもあるのだよ。本当は見せちゃいけないやつなんだけど、今回は特別に」
「うわあ、なんだかキモい魔物がいっぱい載っていますよ。これって」
「魔法生物の設計書さ。ほら前に君、禁呪を使って命を作ったらしいじゃないか。だから参考になるかと思って、ええと、隠れて実験するときに」
「し・ま・せ・ん・よ!! ぼくになにやらせるつもりですか!」
「ほら、これなんて面白いぞ。動く魔法道具に――」
――――――
「クウウウォオオオオオッ……!!」
バリケードが盛大になぎ倒される音で、ぼくはハッと我に返る。
あれは駆動兵。
帝国時代に使われていた、警備用の生物兵器だ。
「先輩は棚のうしろに隠れていてください。ぼくがあいつの相手をするので」
「貴方ひとりで倒せるの? 見るからに強そうだけど……」
「守ってもらえないと死ぬしかないって言ったの、先輩のほうじゃないですか。これでも男なので、頼りになるところを今からお見せしてあげますよ」
自信たっぷりにそう告げると、ベル先輩も納得したのか身を隠す。
内心は不安しかないものの、ぼくは覚悟を決めて駆動兵と対峙する。
「さあ来いっ! オーサに比べたらお前なんて怖くないぞ!」
「――グパアッ!!!」
駆動兵は頭みたいな口から目玉を伸ばして、熱線攻撃を仕掛けてくる。
軌道が直線的だし連続で使えないみたいだから不意をつかれなければ避けられるものの、それでも危険なことに変わりない。
ぼくの魔法は繕うことはできても、再生することができない。
肉を裂かれるくらいならどうにかなるけど、直撃して溶かされたら終わりだ。
「我が身に満ちる創世の力、世界を変える波紋となりて万物を貫く――唸れ、飛石弾!」
手早く詠唱し、ぐちゃぐちゃに壊された椅子の破片をぶつけてみる。
しかし鈍色の甲殻にカコンと弾かれ、駆動兵は何事もなかったかのように距離を詰めてくる。
力が不足しているのなら、頭を使って倒すしかない。
キデック先生との決闘以後、弱い自分がいかにして勝つかをあれこれ研究してきたのだけど――それが果たして、この生物兵器に通用するだろうか。
「クウウウウウウッオオオオッ!!」
「げ、いきなり大ピンチかも……!?」
駆動兵が振りおろしたハサミをくるりと避けた直後、思わぬ角度から別のハサミが伸びてきて腕を掴まれてしまう。
動き自体は機敏ではないとはいえ、六本もの脚で一気に攻撃してくるのは反則に近い。
そのうえ挟む力が尋常じゃなく、ふりほどこうとしても逃れられない。
この状況で熱線攻撃されたら間違いなく死ぬ。
一瞬だけ躊躇したのち、扉の破片を魔法で飛ばす――ただし狙うのは駆動兵ではなく、自分の腕だ。
鮮血が宙で孤を描き、同時にぼくの身体はハサミから引き離された。
「ちょっ……大丈夫なの!?」
「問題ありません。腕の一本や二本、あとで繋げばいいだけです」
「バカ言わないでよ! やっぱり見ていられないわ!!」
寸断した腕の傷口を魔法で塞ぎつつ、ケープの効果で恐怖と痛みを打ち消していると、ベル先輩が棚のうしろから飛びだしてくる。
飛行魔法以外はからっきしなくせになにをするのかと思えば、いきなり駆動兵めがけて全力で突っこんでいく。
「バカはどっちですか!? 無謀にもほどがありますよ!!」
と叫んでしまったものの、ベル先輩の身体は手前で急加速し、駆動兵を弾き飛ばす。
反動で彼女もごろごろと転がっていき、棚にぶつかり「ぐぺ」と変な声を出したあと、
「魔法で勢いをつけたの! あたしが得意なの、大気の制御だけじゃなくってよ!」
「なるほど……。うまく飛べなくても加速はできるわけですか」
箒に乗っているときもただ飛んでいるように見えて、実は二つの系統を組み合わせていたと。だからチャンピオンになれたのだろうし、逃げ足が速い理由にも納得だ。
しかし魔物相手にぶちかましを仕掛けるなんて、度胸があるのだかないのだか。
「じゃあふたりで力を合わせましょ。ていうか誰がバカですって?」
「先に言ったのは先輩じゃないですか。でもまあ、おかげで勝負がつきました。あとはぼくがとどめをさすだけですし、たぶんなにもしなくて大丈夫ですよ」
「……へ?」
ふうと息を吐きながらそう言うと、ベル先輩は目を丸くする。
バランスを崩して転倒したとはいえ、駆動兵の甲殻には傷ひとつなく、見ればゆっくりと起きあがろうとしている最中だ。
勝利宣言をするには早すぎると考えてしまうのも、無理からぬことかもしれない。
ぼくは床に落ちていた自分の腕を拾いあげ、魔法で繋げようとしながら説明する。
最近は何度も死にかけているから、ひどい状況にもだいぶ慣れてしまった。
「実を言うとぼく、ただ攻撃を避けていたわけじゃないんですよ」
「そんなふうには見えなかったけど」
「だってあいつ、扉とか椅子とかテーブルとかぶち壊して入ってきたじゃないですか。だから合間合間にちまちまっと細工をしておいて……」
起きあがろうとする駆動兵を見すえて、ぼくは仕上げの魔法を使う。
すると周囲に散らばっていた破片がパズルみたいに組み合わさり、さらに頑強なバリケード、というより拘束具のようなものができあがる。
精密な〈物体操作〉が得意だからこそ。
そして封珠の杖の魔力をすべて解放したからこそ成しえた、魔法による仕掛け罠だ。
「クウウウウウウッ!!」
「……すごい! でもすぐに破られちゃうわよ!!」
「一時的に動きを封じるためだけの罠ですからね。だけど目の前にぼくらがいて、ハサミの攻撃が届かないなら、あいつは当然――」
頭のような口を開き、熱線攻撃を仕掛けてくる。
とはいえタイミングと射角さえ狭めてしまえば、あとは簡単だ。
目玉が膨大な熱量を放出する寸前――ぼくは天井のうえに潜ませておいた凍てつく瓶を、魔法で飛ばす。
次の瞬間、ぱあん!! と乾いた音が弾け、駆動兵は沈黙した。




