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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
三章 校舎の地下に危険なダンジョンがあるという話
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3-6 空の飛び方

「今日はこんなところかしら。箒はあげるからあとはひたすら練習あるのみ」

「もらっていいんですか? お高いでしょ、これ」

「あたしはほかにも持っているし、もっといいやつを手に入れるつもりだし」

 

 ベル先輩はそのあと「勢いで折っちゃったし」と続けて笑う。

 そういえばあれって学園の備品だから、ぼくが弁償するハメになるんだよな。


「ありがとうございます」


 そう言ったあとで彼女が『今日は』と言ったことに気づいて、また教えてくれるんだなと思うと、ちょっとだけ嬉しくなる。


「貴方も飛べるっていうかそこそこ浮けるようになったわけだし、ご褒美をあげなくっちゃ。ちょいと面を貸しなさい」


 ビンタされると思って身構えるものの、ベル先輩は手じゃなくて足を伸ばしてくる。

 箒にまたがっていたぼくの前にひょいと飛び乗ると、そのまま宙にふわり。


「あたしが空を飛ぶ感覚を教えてあげる。だから――」

「待って待って待って高い高い……っ」

「振り落とされないようにね。落ちたら死ぬわよっ!」


 飛んだ。しかも、すっごい速さ。

 景色が、王都の、街並が、どんどん小さくなって、橙色に染まった雲が、吹き飛ばされていくように流れていって、世界が、みるみるうちに、広がっていく。


「あばばばばっ! あばばばばばあぁああっ!」

「ほらすごいでしょ! 貴方が見ているのは最速の景色っ! 今なら青い空を抜けて煌めく星々の間だって駆け抜けていけるわっ!」

「よく見えません速すぎてあとやばいやばいやばい! ううっぷうう!」


 空を飛んでいるっていうより、全身をぐるぐる振り回されている感じ。

 でもベル先輩はコロコロ笑っているし、やっぱりお仕置きじゃないのこれ。

 途中、市街区のシンボルである時計台の屋根で小休止。

 責め苦から解放されたぼくは思いっきり、


「うげえええ……死ぬかと思いました……」

「これしきのことで吐くなんて根性ないわね貴方。でもやる気は認めてあげる」

「だからぼくに教えてくれたんですか?」

「いーえ、あたしがレースの練習さぼりたかっただけ」


 ベル先輩はなぜか力なく笑ったあと、時計台の下に広がる街並と、そのはるか先にある辺境の山々を見つめる。

 だからぼくも視線を移して、


「こうして見ると王都ってちっぽけだし、逆に外の世界はめちゃくちゃ大きく感じますね」

「高いところからだと印象が変わるのかな。あたしは見慣れているけど」

「ぼくなんて生まれてからずっと、下ばかり見ていましたから。空を飛ぶって世界が広がるってことなんですね、知らなかったなあ」

「やっぱりおばかさんね貴方。飛ぶってのは流星になること、誰よりも速くなることよ」

「個人的にはもうちょっとのんびり、雲の間を漂ってみたいような……」


 ぼくがそんな感想を漏らすと、ベル先輩は小馬鹿にするようにふっと笑う。

 でも彼女が空を飛ぶことを、その楽しさを教えてくれたことは確かだった。



 ◇

 

 

 中庭でベル先輩と別れたあとはオーサを探して、またマカロンを買ってあげる約束をして仲直り。

 帰りがてら自主練での顛末を話すと、


「さては発情期かお前」

「違うってば……」


 でもハニービーあたりに見られたら変な誤解されそう。

 なんてことを考えつつ、もらったばかりの箒を携えて寮に帰宅する。

 するとガードナーが先に部屋に戻っていたので、ぼくはウキウキしながら、


「ねえ見てよ、ぼくの新しい箒。飛行魔法レース用のすごくいいやつでさ」

「なんだ、お前も今年は出るつもりなのか」

「別にそういうわけじゃないけど。ていうか君は出場するの」

「俺は去年も出ていただろうが。覚えていないのかよ」


 あのころのぼくらは盗賊稼業の刑期を終えたばかりで、学園に入学する許可をもらうまでハクラム師のところで魔法の基礎の基礎を学んでいて、毎日がめまぐるしく変化していたから――でもそうだ、ガードナーは飛び入りでレースに参加した気がする。

 結果は確か三位入賞。あれ、めちゃくちゃすごくない?


「どうやら思い出したらしいな。俺は今年こそ優勝する。だからコイツを借りてきた」

「それって……ハクラム師のシュレーターじゃん」


 ガードナーは真っ黒な布を広げて、得意げにうなずく。

 工芸品や織物を生みだす才に長けた辺境の亜人族、茸蝶人ネニスの首長からハクラム師が直々に譲り受けたという、魔法の箒ならぬ魔法の絨毯。

 神話時代の遺物に迫る力を秘める――宵闇の天布ことシュレーターだ。

 ぼくは驚いた。

 だって形見の品を使うってことは、


「まさか、認められたの? 君が――」

「さあな。それに師の後継者たり得るかを決めるのは、あいつじゃない。王都の民だ」


 こう言っちゃなんだけど、ハクラム師のご子息は血の繋がりを疑うほど偏屈な人だし……形見の品を借してくれるなんて、目の当たりにしても信じられないくらいだ。

 まったくこの親友は、追いつこうとするたびにどんどん先に行ってしまう。

 あまりのことに呆然としていると、オーサがもの言いたげな表情で見つめてくる。

 わかっているさ。

 昔みたいに、指をくわえて眺めているつもりはないから。


「今はまだまだだけど、ぼくもすぐに追いつくよ。ていうか追い越しちゃうかも」

「……言うようになったじゃないか、お前も」


 ガードナーはぶっきらぼうに呟いて、それからすこし嬉しそうに笑った。

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