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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
二章 禁呪を使ってしまったぼくが、先生に決闘を挑む話
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2-5 ゾンビの校長先生

「どうしてこうなった……」


 思わず漏れた声は狭い室内で反響し、なおさら悲痛に聞こえてくる。

 追試を受けたあと。

 ぼくたちは処遇が決まるまで、一時的に独房に入るハメになった。


 四方はうす汚れた灰色の壁に囲まれ、用を足すための瓶のほかになにもない。

 この校舎が魔皇殿マハーカーラと呼ばれていたころに罪人を収容するために作られたというのだから、問題を起こした生徒に使うには本格的すぎる。


「悪気があったわけじゃないんだから、たぶんなんとかなるよね」

「……」


 どうしたのだろう。オーサから返事がない。

 なぜかぼくと距離をとって、地べたで腹ばいになっている。


 禁呪を使ったというけどそれは課題に挑戦した結果なのだし、こんな扱いを受けるのは理不尽だ。ぼくでさえそう憤っているくらいだから、オーサだったらもっと怒りだしそうなものなのに。だから不思議に思って、


「なにかあるなら、話してよ」

「オーサは悪くない、悪くないにゃ……しかし」

「どういうこと?」

「この腹をかっさばいてええ! 焼くなり煮るなりするがよかろおぉっ!」


 わかりませんて。

 だけどオーサは床の上でのたうち回り、どうにも要領をえない。


 仕方がないので手招きして膝に座らせると、オーサが着ているケープごと優しく抱えこむ。するとほっこり効果で正気に戻ったのか、


「実はお前が使った禁呪な……。オーサが内緒で力を貸していたのにゃ……」

「あ、そういうこと」


 一言で納得した。

 あまりにもうまくいきすぎたとは思っていたのだ。


「追試の前にキスしただろ。あのときにすこし力をわけ与えてな。お前はがんばっておったし、ここらで一発うまくいけば今後も修練に励むと考えたわけにゃ」

「ぼくのこと、考えてくれたんだね。ありがとう」

「なぜだ! 罵られるならまだしも、礼を言われる理由はにゃいぞ!」


 オーサが泣きそうな声を上げたので、ぼくはにっこり笑うことにした。

 本当に不器用だなあと思うし、だからこそ愛しいとも感じる。


「事前に相談してくれたら嬉しかったけど、悪気があったわけじゃないってわかっているから怒ったりしないよ。ぼくだって禁呪の件は悪いことをしたと思っちゃいないし、だからできるかぎり、あがいてみようじゃないか」

「クラウン……」


 それからしばらくして、ぼくたちは外に出て判決を受けることになった。



 ◇


 

 名も知らぬ教師の案内で連れてこられたのは、魔法学園の校長室だった。

 ぼくは緊張した面持ちで、美麗な装飾が施された扉をノックする。


「入っていいよー」


 うわ、ノリが軽い。

 ぼくは「……失礼します」と言いながら校長室に入る。

 すると室内は異様な臭気が漂っていて、あまりのことにオーサがうめく。


「な、なんだこの匂いは」

「肉が腐ったような……生ゴミ系?」

「そりゃそうでしょ。だってぼくちんゾンビだし」


 革張りのソファにくつろぎながらそう言ったのは、まさしく腐った人間だった。

 顔の半分はただれ、片目は陥没している。

 なのに服装はしっかりしていて、上等そうな礼服に身を包んでいる。

 ええと、どちらさまで?


「生徒の前に出ることは少ないんだけどねえ。ぼくちんが魔法学園で理事長の次にエラい人。親しみをこめてロッキーくんって呼んでちょ」

「あ、やっぱり校長先生なんですか」


 状況的にそれしか考えられなかったものの、できればそうでないほうが嬉しかった。

 座れとうながされたので、ぼくは対面のソファに腰をおろす。


『この学園の面子、いちいち濃すぎやしないか……?』


 困惑したオーサが心の声で囁く。

 まったくもって同意だけど、君も相当だからね。


「意外と驚かないんだなあツマンネ。だから君は死刑」

「ええ……」

「なんてウソぴょん。ひとまず君が禁呪を使用した件について、ぼくちん、つか魔法学園としては処罰をくだすつもりはないよ」


 さらりと言われたから、覚悟を決めていた手前ぽかんとしてしまう。

 とはいえ最大の懸念が早くも解消されたので、ぼくは安堵の息を吐く。


「禁じられていると知ったうえで、明確な意図をもって使ったのなら話は別さ。しかし君は課題をこなす過程で、偶然にも禁呪である〈生命創造〉を習得したわけじゃないか。その才覚に称賛こそあれど、厳罰に処すわけはいかないよ」

「こいつは他の技術はともかく、魔力を精密に扱うことにかけてはたいしたものだぞ。だとすればその将来性に期待したほうが益になるであろう」

「ま、猫ちゃんの言うとおり。たとえなんらかの手助けがあったとしてもね」


 ロッキー校長はそう言って、オーサにくぼんだ眼窩を向ける。

 この人はいったいどこまで、事情を把握しているのやら。


「ただ、キデックのやつはゴネるかもしれない。君の処遇を決める話し合いにおいても、いくつか聞き捨てならない発言があったし。一介の教師にすぎないとはいえ曲がりなりにも君の担当教諭だから、魔法協会に訴えかけられると厄介なことになる」

「それはさすがに……いや、でもあの人ならやりかねませんね」


 膝の上で毛玉になっていたオーサが「協会とはなんぞや?」と口を挟んでくる。

 ロッキー校長が目配せしたので、ぼくはたどたどしく説明する。


「えっとね、ぼくらがいる魔法学園とは別に、魔法協会っていう組織があるわけ。たとえば魔法使い同士で揉め事が起きたときなんかはそっちに訴えるんだけど――でも魔法使いの完全な味方ってわけでもなくて」

「協会は王都議会によって運営されてるから、貴族出身の魔法使いが多いのよん。だからキデックと同じように選民意識が強い。クラウンくんなんか目の敵にされそ。ぷぷぷ」


 なにがおかしいのかロッキー校長は含み笑いをしたあと、真剣な声でこう語る。


「そんでも普段なら学園側でかばいきれるけどねん。ただ今回の場合、君の使った禁呪が〈生命創造〉ってのがよくない。かつて数多の生物兵器を生みだし、大陸を血に染めた不死皇帝。彼の悪行を彷彿とさせるし、協会はかの魔法使いの再来を恐れているから」

「ぼくはそんなだいそれた人物になりませんってば……」


 呆れて呟いたところで、ロッキー校長が視線をオーサに移したのでぎょっとする。

 そういえば世界を滅ぼす存在を、ぼくは使い魔にしているのだった。

 こちらの動揺を知ってか知らずか、校長はニヤニヤしながら話を続ける。


「だけどキデックなら、議会にそう思わせるくらいのことはやるでしょ。あいつも貴族だから内部にコネがあるし、難しい話じゃない。やっぱりまた、クサいメシ食べる?」

「校長先生のお力で、どうにかできないんですか」


 思わせぶりな話し方だったので、勇気を出してたずねてみる。

 するとロッキー校長は愉快そうに、


「自分でどうにかしたら?」

「ぼくにそんな権力はありませんし、キデック先生が今さら退くわけ――」


 途中まで言いかけて、ハッと気づく。

 ある。たったひとつだけ。

 ブライドが高いあの人に、言うことを聞かせる方法が。


「あくまで魔法使いらしくねん。なあに、難しい話じゃないさ。生徒が教師に果たし状を送りつけることなんて、今までに何度もあったんだから」

「……つまり決闘で勝って、キデック先生を黙らせろってことですか」


 ぼくがそう答えると、退屈そうにしていた毛玉がひょこっと起きあがる。

 オーサはぺろりと舌なめずりしたあと、


「決闘とな。面白そうな話になってきたの」

「簡単に言わないでよ。やるのは君じゃなくてぼくなんだからさ」

「お前とてあのクソ教師をぶん殴りたいと言ってたし、ちょうどいい機会じゃにゃいか」

  

 困ったことにこの猫サマ、めちゃくちゃ乗り気のようで。 

 今さらどう言ったところで、キデック先生との決闘は避けられない感じ。

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