中庭の再会。
ほのかに香水の甘い匂いがする。
どこかで嗅いだことのあるような匂い。
甘くて、心地良い。
気持ちを落ち着かせてくれる匂い。
(……あ、ら?)
身動ぎをして、気づいた。
ベッドに寝ているらしい。
身体を包むシーツとぼんやりと視界に入る天井は離宮でメリッサが借りている居室だ。
けれど。
(……なに?)
動けない。
身体にのしかかる重みはなんとなく身に覚えがあるもので。
顔を横に向けて、息を飲んだ。
「クロイス……様」
呟いたメリッサの鼻を、伸ばされた指がむにっと摘まむ。
「何度言えばわかる」
「……んっ、ごめ、なさ……っ」
鼻を摘まんでいた指が悪戯するようにメリッサの唇を割って入り込み、メリッサはびくりと身体を震わせた。
「んん、クロ……ス、な」
頬は上気して、じん、と身体に甘い痺れが走る。
その痺れは否が応にもあの駐屯地で覚えこまされた快感を思い出させて、
「んっ、ふ……んはっ!」
ずるりと抜き出された指に、メリッサは解放された唇を軽く開いて息をしようと喘ぐ。
けれどもその唇はすぐにクロイスの唇によって塞がれたと思うと、開いた唇から濡れた熱いものが入り込み、思う様に蹂躙を始めた。
長すぎる口づけからようやく解放された頃には、メリッサはすっかり息も絶え絶えになって、ぐったりとうつ伏せてしまう。
どうしてクロイスがこの離宮にいるのか、薬はどうなったのか、聞きたいことはいくつもあるのに、唇から零れるのは息ばかりで言葉がでない。
「……このまま抱いてしまいたいところだが、時間がないか。ーーメリッサ」
チュッと音を立ててこめかみに唇が落ちる。
「お前に会わせる人間がいる」
「私、に?」
「ああ、あれをどうするかはお前に決めてもらう」
意味ありげな台詞に、メリッサはぼんやりとしたままクロイスの顔を見上げた。
すると何故かクロイスが目を背けて、
「人が我慢してる時にそんな顔で煽るな」
と言った。
メリッサは一瞬キョトンとしてから、意味を悟る。
「そそ、そんなつもりじゃっ!」
思わず転がったままわたわたしてしまう。
振り回した腕がクロイスの顔に当たって、「ひゃっ!」と悲鳴を上げた。
「ご、ごめんなさいっ!」
ベッドに手を突きずるずると身体を引きずって、クロイスの腕の中から抜け出した。
着ていたワンピースの乱れに、ぼっと顔を赤くする。
ふっ、とクロイスに笑われて、メリッサは頬を膨らませた。
「いったいどういうことですか?どうしてクロイス……が、ここに?」
乱れたワンピースを直しながらメリッサが問い詰めるのに、クロイスは「まあその内わかる」とだけ答えてベッドから起き上がる。
自身も乱れたシャツを直して、上からベストを羽織ると、メリッサに手を差し伸べた。
「少し付き合ってくれ」
メリッサは戸惑いつつも、そっとその手をとった。
連れ出されたのは離宮の中庭。
そこでメリッサは思いがけない再会を果たすことになる。
「ヘルト、殿下……?」
メリッサの呟きに、庭木の根元に顔をうずめるようにして咽づいていた男が、のっそりと薄汚れた顔を上げた。




