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卑怯なお願い。

「……ん、ふ」


長い口づけに徐々に息が上がる。


「待っ……て、まだ……っ」


まだ仕上げが残っている。

そう言いたいのに、言葉はすべて途切れて口づけの中に消えてしまう。


ようやく唇が僅かに離れたと思うと、腰に回され、腕に抱えられてふわりと身体が持ち上げられた。


突然の浮遊感に思わず恐怖が沸き起こってクロイスの身体にしがみついてしまう。


ぎゅっと身を縮こませてクロイスの首に顔をうずめたメリッサの身体を、クロイスは作業机の空いたスペースにゆっくりと下ろした。


長い指がメリッサの髪を梳いて後ろに撫でる。


「ひゃ……ん」


露わになった耳朶を軽く噛まれて、メリッサはびくりと肩を震わせる。


「待って……っ!クロイス、様」

「違う」


咎める声と共に、首筋にチリッとした痛みが走った。


「……っ!」


歯を立てられた痛みと、鈍い疼きがメリッサの身体を震わせる。

 

「何度同じことを言わせる気だ?二人の時は様はいらない。そう言っただろう」

「だっ、て……でも」


頭がクラクラする。

先刻から襲っていた眩暈はより酷くなっていて。

今にも暗闇に捕らわれそうな意識を、クロイスの手と唇がつなぎ止めているようだった。 


「まだ、調合が……っ!」


終わっていない、とメリッサは息も絶え絶えに訴える。


「クロイス、お……ねが、い」


上気した頬を朱に染めたメリッサが言うのに、クロイスは端正な眉をひそめて「……それは卑怯だろう」と口の中で呟く。

うっすらと心なしか項を染めて、クロイスは最後にもう一度メリッサの首筋と唇に口づけを落としてから、名残惜し気に身を離した。


そうしてからそっと腕をメリッサの腰に回し、その身体を床の上に下ろす。


ようやく下ろして貰えたらけれど、メリッサの足は力が入らず、一人では立っていられなかった。

クロイスに腰を抱えられ、その腕にしがみついてなんとか立っていられる状態だ。


とてもではないがまともに調合を進められる状態ではなくて、致し方ないとメリッサはじっとクロイスを見上げた。


「……メリッサ?」


クロイスはメリッサの様子を訝しげに見下ろす。

ほとんど終わっていて良かった。とメリッサは考えていた。

ここからなら素人にでもできる。


「……そこの、鍋に、それ……を入れて、火を」


指を指しながら指示をするメリッサに、クロイスは今度こそクッキリと眉間に皺を寄せた。

が、へにょんとしたメリッサを見下ろすと、仕方なさそうにその手が動く。


「ゆっくりと、かき混ぜて、ひと煮立ちしたら、火を止めて……冷めたら、瓶に」


そこが限界だった。

すべての過程を口にしたメリッサは、自身を受け止めてくれる胸の中に意識を沈めていった。


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