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プロローグ

 

 金曜日の仕事終わり少し残業したおかげでいつもより帰り道には人影がない、冷え切った夜風が頬をかすめている。いつもなら誰かしら歩いている歩道も、今夜は奇妙なほどに静まり返っている。

 来週からまた行きたくもない仕事に行かないといけないのか、そう考えるとまだ土日もすぎていないのにやるせない気持ちになってくる。


「でも、これでいいんだ...」


 誰かに聞かせるわけでもない言葉を吐き捨て歩き慣れた道を機械のように歩いていく。

 今の生活に幸せは見出せないが不幸だと喚くほどでもない。ただ誰かのために生きる。それを繰り返していればいいんだ。

 朝起きて仕事に行き、次の日のために体を休めてまた仕事に行く、これを続けてればいいと思う。

 夜も更け自分の足音だけがリズムを刻む、時折通るDQNのバイクの音が耳をつんざくような爆音を響かせて走り去っていく。

 何も考えたくない、将来のことや人間関係を。だが思考を止めるとすぐに嫌な記憶を後悔しながら思い出してしまう。

 なんであんなことしてしまったのか。


 なんであんなことを言ってしまったのか。


 一体どうすればよかったのか。

 ふとあの日言ってしまった無神経な言葉や、無責任な行動が繰り返し脳内で行き来する。

 後悔が募るばかりだ。

 親には迷惑をかけたくないし心配されることすら辛く感じる。

 何をしても本気で取り組めない何かを成しても自信は生まれない。

 生きれば生きるだけ自分の嫌なところが出てくる。


「はあ」


 負のスパイラルに入っているな。

 もう考えるのはやめてさっさと帰ろう。

(今日は残業したし必要最低限のことをして早く寝たい...)


「あ」


 車のクラクション音がしたと同時にその方向を見ると、トラックがライトとともに視界を覆った。

 何が起こったのかわからない。

 いろんな記憶がぐちゃぐちゃに混ざったような感じがした。

 頭が回らない。

 体の芯から熱くなっていく感覚が襲ってくる。

 体を動かしてる実感がこない、いや動いているのかすら怪しい。


「大丈夫ですか!」


 誰かの声が、まるで水中にいるようにくぐもって聞こえる。

 目を凝らすと視界の端であり得ない方向に曲がっている腕が見える。

 なぜか痛みは感じない。

 ただただ緩やかに意識が遠のいていく。


(俺死ぬのか)


 どうせ死ぬならあの人たちに謝りたかったな。最後に浮かんだのは家族の顔、泣いている母、呆れたように沈黙している父だ。あんなに迷惑をかけて何も返せないまま死んでしまうのか。


(とことんクズだな)



 少し時間がたって俺は死んだ。





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