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「名前については、まだです ――元勇者が来たのに、骨が先に反応しました」

 元勇者が来ました。

 罠は静かに機能しました。

 ガルルが、私より先に前へ出ました。

 元勇者レオンが来てしまいました。


 今日の罠は、第一罠(ファーストトラップ)第二罠(セカンドトラップ)第三罠(サードトラップ)を連携させた、元勇者級対応の三段連鎖罠トリプルチェイントラップです。


 入口で足を止め、中央通路で進路を限定し、最奥手前で転送する。


 今日は、本当に罠には自信があります。......ここまでの積み上げです。


 問題は、私のコートの内側にある名前です。

 最後まで線を引いていない、その名前。


 レオン。


 ═══════════════════════════

 ダンジョン配信中(登録者:326)

 女神様「今日は、マスターの後ろも見ています」

 剣士「入口の空気が違う」

 査定員「本日の侵入者、危険度高めです」

 罠職人見習い「骨がもう前に出そうなんですが」

 ═══════════════════════════


 レオンは入口で足を止めた。


「ここが、最近噂のダンジョンか」


「はい。攻略目的でしたら、順路に従ってください」


「君が、ここの管理人か?」


「管理をしています」


 第一罠(ファーストトラップ)が起動した。

 床の感知糸(センサーワイヤー)が淡く光り、レオンの足首を拘束輪(バインドリング)が狙う。


 レオンは、避けなかった。

 ただ一歩、踏み込んだ。


 拘束輪が、足を捕えた。


「いいトラップだ」


「感謝はいただかなくて大丈夫です」


 第二罠(セカンドトラップ)が壁を動かした。左右の石壁が滑り、進路を一本に絞る。

 レオンは壁の動きを見て、少しだけ笑った。


「この誘導、懐かしいな。昔、仲間にいた参謀がよく使っていた」


 コートの内側が、妙に重くなった。


 その瞬間、ガルルが前へ出た。


「......ガルル、待ってください」


 ガルルは止まった。

 けれど、退かなかった。


「骨の魔物か。礼儀正しそうだな」


 ガルルが、礼をした。


「そこで礼をしないでください」


「いい仲間がいるんだな」


「ただのモンスターです」


 ガルルが首を横に振った。


「今の首振りは、禁止です」


 第三罠(サードトラップ)が起動した。

 光が足元に広がり、レオンの体を入口へ戻す。


「また来る」


「感謝はいただかなくて大丈夫です」


「ありがとう」


「話。聞いていましたか?」


 レオンは笑って、入口の向こうへ消えた。

 名前は、まだ消えていない。


 感謝するなつってんだろ。名前については、まだです。

 いや待て骨、お前が先に名乗る空気出すなああああああああ!


【今回の登場キャラクター】

 ・ハルカ:廃ダンジョンのダンジョンマスター(DM)。まだ名乗らない。

 ・シア様:配信では女神様。今日は笑い方が少し薄い。

 ・レオン:元勇者。最後の名前。

 ・ガルル:暫定識別番号。本人はたぶん名前だと思っている。


【今回のズレパターン】

 回避型寄り。罠は機能したが、ガルルが先に情緒を出した回です。


 ═══════════════════════════

【今話のダンジョンデータ】

 ダンジョンランキング(だんじょんらんきんぐ) :812位 → 774位

 配信視聴者数      :326名 → 331名

 本日の用途       :元勇者初回対応会場

 コートのメモ(今話)  :「レオン:初回。名前:まだ。ガルル:前に出た」

【モンスター管理状況】

 スライムA:在籍59日目 稼働率0%(足元で待機)

 スライムB:在籍57日目 稼働率0%(壁際でぷるぷる)

 ガルル:在籍58日目 稼働率0%(レオン前進阻止未遂)

 ドラゴンウォーム:在籍49日目 稼働率0%(天井で観察)

 ═══════════════════════════


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