「噂が広まるなつってんだろ――礼儀正しい骨は歌になりました」
歌にされました。
罠は機能しました。
ガルルが照れていました。
今日も、罠は機能しました。
問題は、機能したあとでした。
私は朝から、第三通路の床に新しい感知糸を張り直していました。第一罠は足首の高さ、第二罠は肩口の高さ。さらに第三罠として、床下に小型の拘束罠を仕込んでいます。
今日の罠には自信があります。八十一回目の自信です。
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ダンジョン配信中(登録者:161)
女神様「今日のマスター、かなり細かく床を見ていますね❤」
吟遊詩人「床を見る配信って何?」
剣士「ここの配信は床が主役の日ある」
罠職人見習い「その床が怖いんですよ!!」
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やってきたのは、羽根飾りのついた帽子をかぶった吟遊詩人でした。
彼は通路の入口で、私の第一罠を見て、なぜか竪琴を構えました。
「おお、ここが噂の『感謝するな』のダンジョンか」
「噂にしないでください」
第一罠が起動しました。足元の床板が沈み、右壁から拘束糸が射出されます。
吟遊詩人は、見事に絡まりました。
よし。
珍しく、よし。
「素晴らしい!」
「はい?」
「この糸の張り、音がいい! 弦楽器に使えるぞ!」
「拘束罠を弦楽器扱いしないでください」
彼は絡まったまま、竪琴を弾きました。拘束糸が共鳴して、廃ダンジョンの天井に妙な残響を生みます。
しかも、なぜか音がいい。
やめてください。
そこは失敗しないでください。
「なるほど。礼儀正しい骨がいるダンジョン。感謝を拒むマスター。これは一曲になります」
「なりません」
その瞬間、奥からガルルが出てきました。
骨格兵の暫定識別番号です。名前ではありません。たぶん。
ガルルは吟遊詩人に向かって、すっと礼をしました。
「出た! 歌になった骨!」
「歌になっているんですか」
「もちろん。『礼をする骨と怒れるDM』は、昨日から酒場で二番までできています」
「二番まで!?」
ガルルが、少し照れているように見えました。
骨なのに。
照れる部位がないのに。
私はコートの袖に書きました。
【ガルル:歌になった骨として認知。本人、まんざらでもなさそう。だいぶ問題あり】
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杖つかい「礼儀正しい骨、ほんとに礼した」
吟遊詩人見習い「曲名ください」
女神様「マスターの困り顔も入れてください❤」
査定員「映像記録として価値があります」
罠職人見習い「罠の価値を見て!?」
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「ありがとう。いい曲ができそうだ」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
「では、また来る。次は合唱団を連れて」
「絶対に来ないでください。お願いします」
吟遊詩人は、拘束罠に絡まったまま満足そうに撃退判定を受け、光になって帰りました。
ガルルは最後まで礼をしていました。
私は床にしゃがみ、感知糸の角度を確認します。
罠は機能した。
撃退もした。
なのに、ダンジョンの用途が歌の取材先になっています。
改善の余地があります。
いや、ありますけど。
歌にするなつってんだろおおおおおおおおおおおおお! ここはライブハウスじゃねえんですよおおおおおおおおおってば!!
【今回の登場キャラクター紹介】
・ハルカ:匿名の廃ダンジョンマスター。罠は機能したのに、歌にされた。
・シアラ:配信上では「マスター」呼びを徹底する女神様。
・吟遊詩人:噂を歌にして広めるタイプの迷惑英雄。
・ガルル:礼儀正しい骨格兵。歌になった。
【今回のズレパターン解説】
観光型+宣伝化。第一罠は成功したのに、英雄が音楽素材として使いました。
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【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :4998位 → 4860位
配信視聴者数 :156名 → 161名
本日の用途 :吟遊詩人の取材会場
コートのメモ(今話) :「ガルル:歌になった骨。本人照れ疑惑。照れる骨とは」
【モンスター管理状況】
ガルル:稼働率0%(礼と照れ)
スライムA:壁際でぷるぷる。音でぷるぷるが増えた。喜んでるのやめろ。
ドラゴンウォーム:天井で睡眠中、音で一瞬起きたがまた寝た。やる気ゼロ。
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