「先に話しかけるなつってんだろ」
女神様が先に話しかけました。
スライムも先に動きました。
弟子階級が勝手に生えました。
今日も感謝されてしまいました。
ただし、今回は罠ではなく、シア様の挙動が妙でした。
今日の罠は、侵入者の足音に合わせて壁の角度を変える反響迷路です。音の反射で方向感覚を狂わせ、最後に入口へ戻す安全設計。撃退率より再訪率を下げる目的です。
今日のモンスター配置はスライムAを第一通路。
今日の罠には自信があります。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:98)
女神様「今日もマスターの作業を見ています❤」
罠職人見習い「匿名DMの罠、また構造が細かい」
剣士「音の罠は普通に嫌だ」
═══════════════════════════
―――
ノノカさんは、入って三歩で耳を押さえました。
「こ、この音の返し方! 足音が自分の後ろから聞こえる! 師匠、また精神攻撃まで!」
「精神攻撃ではありません。方向誘導です」
反響迷路は正常に起動しました。壁の角度が少しずつ変わり、ノノカさんの足音は右から左へ、左から背後へ回り込む。
設計通りです。
ですが、問題はその直後でした。
シア様が、私より先に口を開きました。
「今日も来たんですね〜」
ノノカさんが固まりました。
私も、チョークを持ったまま固まりました。
「え!? 女神様から話しかけてくれた!? え!? 私、昇格ですか!? 師匠の弟子階級、上がりました!?」
「弟子階級はありません」
「でも女神様が!!」
「そうですか〜?」
シア様はすぐにいつもの棒読みに戻りました。ですが、戻るまでが0.5秒だけ遅かった気がします。
スライムAも妙でした。いつもなら通路の端でぷるぷるしているだけなのに、今日はノノカさんの足元へ先に近づいたのです。
「......スライムAも先に近づきました」
「師匠! これは歓迎ですか!? 弟子歓迎式ですか!?」
「違います」
スライムAがぷるぷるしました。
ノノカさんは両手で顔を覆いました。
「スライムまで認めてくれてる!!」
「認めていません。たぶん。モンスターの意思確認方法が未整備です」
反響迷路は、ノノカさんを見事に入口へ戻しました。撃退成功です。
ただし、ノノカさんは帰り際、入口の床に額がつくほど頭を下げました。
「今日も学びをありがとうございます!! 女神様にもスライムにも歓迎されました!!」
「歓迎していません」
「また来ます!!」
「来ないでいただけると、ありがたいです」
聞こえていませんでした。
―――
私はコートに書きました。
【シア様:先に話しかけた】
【スライムA:先に近づいた】
【ノノカ:弟子階級という謎概念を作った】
【弟子はいません】
【本当にいません】
シア様は、私の後ろで足をぶらぶらさせています。
「気のせいじゃないですか〜?」
「まだ何も聞いていません」
「そうですか〜」
シア様のニヤニヤは薄かった。私はスライムAの移動経路を測っていたので、気づきませんでした。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:99)
杖つかい「女神様、先に喋った?」
査定員「珍しい挙動として記録します」
罠職人見習い「スライムAも先に出た」
女神様「気のせいですよ〜」
剣士「気のせいの圧が強い」
═══════════════════════════
感謝するなつってんだろ。女神様とスライムの行動については、観察中です。うおおおおおおおおお!! 弟子階級ってなんだあああああ!! 勝手に昇格制度を作るなああああ!!
【今回の登場キャラクター紹介】
■ノノカ
罠職人見習い。一方的に弟子を名乗り、今日は謎の弟子階級まで作った。
■スライムA
今日だけ先にノノカへ近づいた。歓迎しているように見えるが、たぶん設計外。
■シアラ
配信上では匿名DMの名前を出さず「マスター」呼び。今日は珍しく先に話しかけた。
【今回のズレパターン解説】
誤解型。反響迷路は機能しましたが、シアラとスライムAの挙動をノノカが弟子昇格イベントと誤解しました。
═══════════════════════════
【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :17000位 → 15420位
配信視聴者数 :95名 → 99名
本日の用途 :弟子昇格式(非公認)
コートのメモ(今話) :「シア様:先に話しかけた。スライムA:先に近づいた。弟子階級:存在しない」
【モンスター管理状況】
スライムA:在籍39日目 稼働率0%(歓迎係と誤解された)
ガルル:在籍38日目 稼働率0%(遠くで礼だけした)
═══════════════════════════
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




