表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/100

「名前は、まだです」

 登録者が増えてしまいました。

 名前を聞かれてしまいました。

 罠は、最後まで罠でした。

 今日も感謝されてしまいました。


 今回は、一つの締めくくりとなります。

 私が管理しているのは罠と、素材費と、なぜか増えた配信視聴者数です。


 今日の罠は、私が名前を聞かれた時用ではありません。

 普通に撃退するための連鎖罠(れんさわな)です。


 今日の罠には、自信があります。


 ═══════════════════════════

 ダンジョン配信中(登録者:50)

 女神様「節目ですね❤」

 名無しの剣士「登録者50だ」

 名無しの杖つかい「名前知りたい」

 ═══════════════════════════


 来たのは、エルマさんでした。

 緊急ではなく、正式な報告。

 その後ろに、何人かの観戦者(かんせんしゃ)の代表がいます。


「登録者数が五十名に到達しました」

「......困ります」

「ランキングは四万台に入りました」

「......もっと困ります」


 私は第一罠ファーストトラップを起動しました。

 感知糸(センサーワイヤー)が鳴り、通路の床が沈む。


 エルマさんは、半歩で避けました。

 代表者たちも、なぜか「おお」と感心しました。


「今のが有名な初段罠ですか」

「有名にしないでください」


 第二罠セカンドトラップ

 壁から網が飛ぶ。


 観戦者代表のひとりが、網の編み目を見て言いました。


「丁寧な仕事だ」

「捕まってください」

「職人の性格が出ている」

「出なくていいです」


 第三罠サードトラップ

 落下床(らっかゆか)


 代表者たちは、落ちる前に床の縁を見て拍手しました。


「深さの設計が美しい」

()()()


 口から出ました。

 小さく。

 でも出ました。


 エルマさんが咳払いしました。


「本題です」

「罠にかかってからお願いします」

「本題です」


 通りませんでした。

 罠のほうが通りませんでした。


 エルマさんは書類を差し出しました。


「ギルド登録上、ダンジョンマスター名の記載が必要になります」

「......保留でお願いします」

「保留期間が長くなっています」

「保留の延長でお願いします」


 観戦者のひとりが、遠慮がちに言いました。

「このダンジョンのマスターの名前を、()()()()()んです」


 一瞬だけ、通路の音が消えました。世界から音がなくなりました。


 私は、コートの袖を握りました。

 そこには、線を引いた名前が二本。

 まだ引いていない名前もあります。


 名前。

 記録。

 向こうには、残らなかったもの。


「......名前は」


 シア様が、ふっと前に出ました。

 ほんの一歩。

 私の前ではありません。

 でも、私と書類の間に、視線だけを置くように。


「気のせいじゃないですか〜?」


 いつもの声です。

 でも、少しだけ棒読みではありませんでした。


 私は息を吐きました。


「名前は、まだです」


 エルマさんは、静かに頷きました。


「では、保留で記録します」

「ありがとうございます」

「ただし、罠関連の指摘は本日もあります」

「そこは保留にしてください」

「できません」


 戻ってきました。

 現実が。

 書類が。

 罠の改善点が。


 ガルルが、いつの間にか私のそばに立っていました。

 スライムAも、足元でぷるぷるしています。

 ドラゴンウォームは、天井で寝ています。


「......あなたたちも聞いていましたか」

 ガルルが礼をしました。


 シア様は、また笑っていました。

 ニヤニヤは薄いまま。

 ハルカは、書類の山を見ていたので気づきませんでした。


 ═══════════════════════════

 ダンジョン配信中(登録者:50)

 女神様「保留ですね❤」

 名無しの剣士「名前はまだ載せないのか」

 名無しの杖つかい「でも罠は怖い」

 ═══════════════════════════


 代表者たちは、最後に全員で頭を下げました。


「ありがとうございました」

「感謝はいただかなくて大丈夫です」

「また来ます」

「来なくていいです」


 私はコートに書きました。


「登録者:50」

「名前:保留」

「罠:三回発動」

「落下:ゼロ」

「拍手:二回」

「なんでだよ」

「なんで誰も落ちねえんだよ」

「罠のあるダンジョンだぞここ」


 感謝するなつってんだろ。登録する名前は、まだです。


 ......って綺麗に締めたいのに、てめえらなんで罠にかからねえんだようおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!クソが!!クソがああああああああ!!!!!

【今回の登場キャラクター紹介】

 ・ハルカ:名前をまだ出さない廃ダンジョンマスター。罠にかからない観戦者に限界。

 ・シアラ:女神様。ほんの少しだけ、書類とハルカの間に入った。

 ・エルマ:正式報告担当。保留は記録してくれるが、指摘は保留しない。

 ・ガルル/スライムA:ハルカのそばにいたモンスターたち。


【今回のズレパターン解説】

 観光型+シリアス第二回。

 名前を記録したいという流れを一瞬だけ受け止め、すぐ書類と罠ツッコミに戻しました。


 ═══════════════════════════

【今話のダンジョンデータ】

 ダンジョンランキング(だんじょんらんきんぐ) :42111位 → 40098位

 配信視聴者数      :50名 → 50名

 本日の用途       :登録者節目報告会場

 コートのメモ(今話)  :「名前:保留。落下:ゼロ。なんでだよ」

 【モンスター管理状況】

  ガルル:ハルカのそばから離れない

  スライムA:足元でぷるぷる

  ドラゴンウォーム:天井で睡眠中

 ═══════════════════════════

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ