「バズらせるな」
配信素材にされかけました。
地味な罠ほど効く、はずでした。
チビドラゴンが懐きました。
今日も感謝されてしまいました。
今回は、かなり自信がありました。
相手は配信映えを重視する同業者だと聞いています。
ならば、派手な炎や爆発ではなく、地味で確実な感知糸と落下床。
見えないからこそ強い。映えないからこそ効く。
コートの左袖には、こう書きました。
「映え対策。地味に殺す」
今日の罠には自信があります。
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ダンジョン配信中(登録者:17)
女神様「今日も見ていますよ❤」
名無しの剣「最近ここ妙に噂になってる!」
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第一通路に入ってきたのは、金色の髪をふわりと揺らした女性でした。
「ここね! 最近“感謝するな”で伸びてる廃ダンジョン!」
伸びていません。
伸びているのは、私の胃への負荷です。
彼女はルーチェ。
ランキング上位のダンジョンマスターで、配信演出が得意らしいです。
「うーん、通路が暗い! 罠も地味! でも逆に玄人感ある!」
「......罠は目立たないほうが効果的です」
ルーチェが一歩踏みました。
ぴん、と感知糸が鳴る。
床石が沈み、足元が抜ける。
予定通りです。
ルーチェはきれいに落ちました。
「きゃあっ!? 深っ! え、待って、これ地味だけど普通に怖い!」
「......設計通りです」
そう。
今回は、設計通り。
だったのですが――。
穴の底から、ルーチェが叫びました。
「でも暗くて映えない! もったいない!!」
「そこですか」
撃退されてください。
ダンジョンに映えを求めないでください。
そのとき、召喚陣が通路奥で光りました。
本来なら、Lv50相当のドラゴンが現れる予定でした。
現れたのは――、
手のひらサイズの、もちもちした幼生ドラゴンでした。
「......」
小さい。
かわいい。
コストは、Lv50分。
終わりです。
経理的に終わりました。完全に。
ルーチェが穴の底から身を乗り出します。
「チビドラゴン!? かわいい!! 映える!!」
「......Lv50ドラゴンを召喚するつもりでした」
「最高じゃない! 配信に使わせて!」
「使わせません」
ドラゴンウォーム幼生は、ぱたぱたと飛んで、ルーチェの肩に乗りました。
「懐いた!」
「懐かないでください」
ルーチェが涙目で笑っています。
「ありがとう! この子、絶対バズる!」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
配信コメント欄が、ざわつき始めました。
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ダンジョン配信中(登録者:21)
女神様「小さいですね❤」
名無しの剣「罠よりドラゴンがかわいい」
名無しの杖「女神様のコメントが一番怖い」
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シア様は段差に座って、足をぶらぶらさせていました。
いつものように笑っています。
「気のせいじゃないですか〜?」
「まだ何も言っていませんが」
「そうですか〜」
私はコートの内側に書き足しました。
「ドラゴンウォーム:Lv1」
「費用:Lv50相当」
「映え価値:不明」
「命名:保留」
「ていうか罠にかかれ」
最後の一行だけ、筆圧が強くなりました。バキっとペンが折れました。
ルーチェは穴から這い上がり、肩のチビドラゴンに頬を寄せました。
「また来るわ! 次はもっと映える角度で!」
「二度と来なくていいです」
宣伝素材にするなつってんだろ。
てめえなんで罠よりドラゴン撮ってんだよごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【今回の登場キャラクター紹介】
・ハルカ:廃ダンジョンマスター。地味な罠で堅実に撃退したかった人。
・シアラ:女神様。今回も女神様コメント欄に常駐中。
・ルーチェ:配信ライバルDM。何でも映えに変換する迷惑な才能持ち。
・ドラゴンウォーム:Lv1幼生。費用だけLv50相当。経理泣かせ。
【今回のズレパターン解説】
観光型+召喚ズレ型。
罠はかなり機能したのに、召喚モンスターが映え素材になりました。
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【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :59812位 → 57109位
配信視聴者数 :17名 → 21名
本日の用途 :配信素材会場(非公認)
コートのメモ(今話) :「ドラゴンウォーム:命名保留。罠にかかれ」
【モンスター管理状況】
ドラゴンウォーム:在籍1日目 稼働率0%(ルーチェの肩の上)
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