「昔の話をするなつってんだろ」
陣形崩しの罠を組みました。
盾役に全部受けられました。
昔の参謀を思い出されたそうです。
今日も感謝されてしまいました。
今回の罠は、陣形崩し型です。
複数人の進行を想定し、正面から来る盾役を横へ流して、後続を分断する設計にしました。第一通路には新しい召喚骨兵、暫定識別番号ガルルを配置しています。
今日の罠には自信があります。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:10)
女神様「昔の話、聞けるかもしれませんね❤」
名無しの盾「盾役来た」
═══════════════════════════
正面通路に現れた男は、大きな盾を背負っていました。
グラッド。
名前を見た瞬間、コートの内側に縫い込んだ古いメモが、少しだけ重くなった気がしました。
「ここが最近噂のダンジョンか。いいな、正面から来いって顔をしている」
「……顔はしていません」
グラッドは予測通り、第一通路へ入りました。
床の圧力板が沈み、左右の壁がずれ、盾の角度を崩すための突起が飛び出します。
グラッドは、盾で全部受けました。
「……盾で受けられる設計ではありませんでした」
「懐かしいな! 昔、うちのパーティの参謀が、こういう動きで敵陣を崩してたんだ」
コートのメモの端に、その名前がありました。
私は、その上へ新しい計算式を書き足しました。
「……そうでしたか」
「いやあ、あいつはすごかった。名前は記録に残ってないが、戦い方だけは覚えてる」
「記録に、残っていないんですね」
「たぶん途中で離脱したんだろうな。裏方は大変だからな!」
「……裏方は、大変です」
仕事の話としてなら、答えられます。
それ以外は、今は書かない。
第一通路の奥から、ガルルが出ました。
白い骨の怪物です。召喚時の仕様では、英雄を威嚇して足止めする予定でした。
ガルルは、グラッドへ礼をしました。
「おっ、骨の怪物か。礼儀正しいな!」
「……礼儀は設定していません」
「ありがとう!」
ガルルが、もう一度礼をしました。
「……ガルルも感謝されています。困っています」
グラッドは、罠を突破したにもかかわらず、なぜか満足した顔で帰っていきました。
「また来る。昔を思い出せる場所は貴重だからな」
「昔の話は、今日の設計に関係ありません」
「ありがとう!」
「聞いてください」
―――
処理後、私はコートの裏に小さく書きました。
【グラッド:要注意】
【ガルル:稼働率0%/礼をして感謝された】
シア様は、いつもの場所で頬杖をついています。
「ハルカ、今日は少し静かでしたね〜」
「罠の反省をしていました」
「そうですか〜」
シア様のニヤニヤが、少し薄かった。
私は、古い名前の上へ線を引く準備を、まだしていませんでした。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:10)
女神様「覚えている人も、いるんですね❤」
名無しの盾「骨が礼した」
═══════════════════════════
改善の余地があります。
感謝するなつってんだろ。昔の話は今日の設計に関係ありません。
あと骨、仕事しろ。
【今回の登場キャラクター紹介】
・グラッド:元勇者パーティ盾役。悪意なく人の功績を踏んでいくタイプ。
・ガルル:召喚骨兵。暫定識別番号。礼儀正しい。
【今回のズレパターン解説】
活用型です。陣形崩しの罠が盾役に受け止められ、グラッドには「昔の参謀の戦術」として懐かしまれました。
═══════════════════════════
【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65470位 → 65441位
配信視聴者数 :10名 → 10名
本日の用途 :思い出の場(推定)
コートのメモ(今話) :「ガルル:稼働率0% グラッド:要注意」
【モンスター管理状況】
ガルル(暫定識別番号):在籍1日目 稼働率0% 今日の成果:礼をして感謝された
═══════════════════════════
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




