「泣くなつってんだろ」
多段罠を組みました。
己を試されたそうです。
泣いて感謝されました。
今日も感謝されてしまいました。
今回の罠は、多段連携型です。
第一通路の感知糸を踏むと壁の投石機構が動き、逃げた先の第二通路で落下床が開く。
さらに第三通路には、今回から召喚したスライムAを配置しました。
今日の罠には自信があります。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:9)
女神様「今日も見てますよ❤」
名無しの剣「新モンスター?wktk」
═══════════════════════════
入ってきたのは、白い髭を揺らした旅の老剣士でした。
足取りは静かで、背筋はまっすぐ。年季の入った剣を腰に下げ、なぜか最初から少し泣きそうな顔をしています。
「久しぶりだな。こういう、きちんと殺しに来る場所は」
言い方が物騒です。なんですか殺しに来る場所って。私は撃退したいだけです。
老剣士が第一通路へ入った瞬間、足元の感知糸が震えました。
壁の石口が開き、丸い石が三つ、間隔をずらして射出されます。
老剣士は一つ目を剣で弾き、二つ目を肩で受け、三つ目を額で止めました。
「痛い。だが、いい。反応式か。素晴らしい設計だ」
「……感謝はいただかなくて大丈夫です」
条件反射で返事をしてしまいました。
老剣士は、予定通り第二通路へ下がります。
床が開きました。
落ちました。
落下音が、思ったより良い音でした。
「おお……この深さ。深すぎず、浅すぎず。己の受け身が試される」
「落とし穴の深さで修練量を測らないでください」
老剣士は、穴の底から自力で這い上がってきました。
そして、泣いていました。
「こんなにまっすぐ、私を試してくれる場所が、まだあったとは」
「試していません。撃退しています」
「ありがとう、ありがとう」
「感謝はいただかなくて大丈夫です。二回目です」
そこで、第三通路に配置していたスライムAが、ぷるん、と老剣士の足元へ寄りました。
「……攻撃してください」
スライムAは、ぷるぷると横に揺れました。
首がないのに、首を振っているように見えます。
「……スライムが首を振っています」
老剣士は、震える手でスライムAを撫でました。
「優しい魔物だ。ありがとう」
スライムAが、うれしそうにぷるぷるしました。
「……モンスターなのに、感謝されています」
ダンジョンマスターとして、たぶん一番言いたくない種類の報告でした。
老剣士は最後にもう一度、落とし穴の縁へ深く頭を下げました。
「ここの主に伝えてくれ。私はまた来る、と」
「伝達先は私です。あと、もう来なくて大丈夫です」
「ありがとう」
「感謝を増やさないでください」
―――
処理後、私はコートの左袖に小さく書き込みました。
【スライムA:召喚費用3銅貨/稼働率0%/感謝率100%/だいぶ問題あり】
横でシア様が、いつものように足をぶらぶらさせています。
「スライム、かわいかったですね〜」
「......あれ、撃退用です」
「そうですか〜気のせいですよ~」
シア様のニヤニヤが、ほんの少しだけ薄かった。
もちろん、私は気づいていません。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:9)
女神様「ハルカの困った顔、今日も記録しました❤」
名無しの剣「スライムに感謝されてるの草」
═══════════════════════════
改善の余地があります。
感謝するなつってんだろ。ダンジョンは修練の場でも癒し処でもありません。
スライムも含みます。英雄を攻撃しろよバカか!!
【今回の登場キャラクター紹介】
・ハルカ:廃ダンジョンマスター。今日も真面目に撃退しようとしている。
・シアラ:ハルカ専属の女神様。コメント欄の固定客。
・旅の老剣士:罠で泣いた人。方向性としては迷惑な感動屋。
・スライムA:暫定識別番号。全員名前だと思い始めている。
【今回のズレパターン解説】
誤解型です。罠はちゃんと動いたのに、老剣士側が「己を試す修練」と受け取り、スライムまで癒し枠として機能しました。
═══════════════════════════
【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65504位 → 65492位
配信視聴者数 :9名 → 9名
本日の用途 :修練の場兼癒し処(推定)
コートのメモ(今話) :「スライムA:召喚費用3銅貨 稼働率0% 感謝率100% 問題あり」
【モンスター管理状況】
スライムA(暫定識別番号):在籍1日目 稼働率0% 今日の成果:感謝された
═══════════════════════════
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




