「値段をつけるな」
廃材業者が来ました。
失敗罠の副産物に値段をつけて帰りました。
今日も、感謝され……いえ。
今日は、取引を持ちかけられました。
来訪者は英雄ではないそうです。
目的は「ダンジョン素材の買い付け」。
今日の罠には自信があります。
関係ないですが、自信はあります。
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ダンジョン配信中(登録者:3)
女神様「業者さんですね〜❤」
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タルガさんが来ました。
中年。
小太り。
書類鞄。
笑顔が、完全に商売人のそれです。
「失礼します。ダンジョン素材の買い付けで参りました。廃ダンジョンマスターさんですね」
「いえ……管理をしています」
「ではご担当の方に。失敗罠の副産物が出ていると伺いました」
「失敗です。副産物でも素材でもありません」
「拝見してよろしいですか」
「見るだけなら、どうぞ」
今日、私はこの言葉を少し後悔しました。
見るだけで終わる人は、あまりいません。
タルガさんは通路を歩きました。
火炎柱の焦げ跡を見ます。
落下床の欠けた石材を拾います。
感知糸の焼け残りを、手袋越しにつまみます。
「......これ、市場で売れますよ」
「......ただの失敗素材です」
「だから売れます。失敗素材として」
「どういう意味ですか」
「設計者の試行錯誤の痕跡として価値があります。研究者向けです」
私は、少し考えました。
考えてしまいました。
「……費用対効果は?」
言ってしまいました。
タルガさんの笑顔が、商売人から商売人の上位職になりました。
「そこを聞いてくださると思っていました」
「聞かなかったことにしてもいいですか」
「計算書があります」
「……見ます」
見てしまいました。
タルガさんは鞄から紙束を取り出しました。
失敗罠一回あたりの副産物量。
素材単価。
回収コスト。
輸送費。
研究者向け販売価格。
数字が、きれいに並んでいました。
困ります。
数字がきれいだと、確認したくなります。
「一回の失敗罠で出る副産物を月単位でまとめると、このくらいですね」
「……メモします」
完全に乗ってしまっています。
まずいです。
「月に一度来ます。買い付けに」
「オッケーしたわけではありません」
「もちろん。取引ですから」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
「感謝ではなく取引です」
「……困ります」
でも、計算書は受け取りました。
タルガさんが帰ったあと、私は失敗罠の残骸を見ました。
「改善の余地があります。廃材管理について」
ダンジョンは廃材置き場ではありません。
ただし、廃材が売れるなら話は別です。
別ではありません。
たぶん。
私はタルガさんの計算書を、コートの内ポケットに入れました。
シア様が、少し顔を近づけました。
「計算書、もらいましたね〜」
「参考資料です」
「採用するんですか〜?」
「……検討します」
「ふふっ」
シア様のニヤニヤは、一瞬だけ止まりました。
私が「費用対効果は?」と聞いた瞬間です。
その顔はすぐ戻りました。
もちろん、私は気づいていません。
感謝するなつってんだろ。ダンジョンは廃材置き場ではありません。
計算書は、もらいました。
■今回の登場キャラクター
ハルカ:失敗罠を失敗として処理したい人。ですが数字を見せられると弱いです。
シア様:女神様。ハルカが計算に食いつく瞬間を見逃しません。
タルガ:ダンジョン素材業者。失敗を素材に変える商売人です。今後も来そうです。
■今回のズレパターン
誤解型。
失敗罠を「失敗」ではなく「市場価値のある素材」として扱われました。
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【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65534位 → 65534位
配信視聴者数 :3名 → 3名
本日の用途 :廃材置き場(暫定)
コートのメモ(今話) :「失敗罠副産物・市場価値有・売却単価メモ・採算検討中」
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視聴者増減コメント:
「変動なしです。業者さんは登録しませんでした。困っています。別の意味で」
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