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第十八話 初めての保護膜

物置の棚で見つけた、ラベルが汚れた小ぶりな缶。


カーワックスとだけかろうじて読み取れるその代物が、彼の好奇心を強く刺激した。


彼はその場で缶を振ってみる。


ずしりと重さはあるものの、シャカシャカという液体の音や、カチャカチャという固体がぶつかる音はしなかった。


彼は、缶の中には隙間なく中身が詰まっていることを理解した。


運良く、近くには未開封で、まだ使えそうなスポンジも見つけることができた。


週末、彼はいつものように手洗いを終えた後、意を決してそのワックスを使ってみることにした。


缶の蓋を開けた瞬間、ツンと鼻を突く、強い石油、あるいは灯油のような臭いが広がり、彼は思わず顔をしかめた。


「本当にこれを車に塗って大丈夫なのか?」


半信半疑だったが、「カーワックス」と書いてあるのだから大丈夫だろうと、彼はワックスをスポンジの角に少量取り、愛車のボンネットの隅に恐る恐る塗りつけてみた。


塗り方など知るはずもなく、おっかなびっくりで、最初はごく狭い範囲に塗ってすぐに拭き取るという作業を繰り返す。


彼の頭の中は、「本当にこれを塗って大丈夫なのか」「ボディに悪い影響が出ていないか」という不安でいっぱいだった。


仕上がりを見ている余裕など、まったくなかった。


しかし、数回繰り返すうちに、彼の不安は少しずつ薄れ、手の動きが大胆になっていく。


そして、慣れた頃には、もうトランク全体を塗り広げてから一気に拭き取る、という作業サイクルになっていた。


すべてを塗り終えた彼は、すぐにワックスの臭いが染み付いた手を洗わなければという思いに駆られた。


ワックスの缶とスポンジを片付け、家の中へ戻って手を念入りに洗う。


数分後、愛車に目をやった瞬間、彼の動きはピタリと止まった。


これまで、シャンプーだけの洗車後に見ていた、ただの「白く清潔なボディ」とは、どこか違う。


過走行の中古車で、塗装状態もそこまで良いものではなかったはずの愛車が、わずかに艶を増している気がした。


それは、劇的な変化ではない。


だが、初めてワックスを使った彼にとって、その漠然とした違いは無視できなかった。


それは、彼の愛車が雨に濡れた時に塗装が明るく見えるような、わずかに色合いの深さを増したような変化だった。


彼は、その漠然とした光を少なからず感じ取ったのだ。


彼は思わずボンネットを指でなぞってしまった。


その触り心地は、普段ドアを開ける際などにボディに触れていた感覚とは違う、滑らかなものだった。


「え?」


ただの汚れ落としだと思っていた洗車が、このとき初めて、彼にとって別の意味を持ち始めた。

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