第十七話 最初の光と転換点
いつ頃から、こんなにも洗車にこだわり始めたのだろうか――。
彼の思考は、免許を取り立ての頃へと遡った。
初めて乗った愛車は、白色のセダンだった。
彼の実家は、祖父母の代から両親へ受け継がれてきた車屋だった。だが、ある時、訳あって車屋としての家業は畳まれていた。
それはまた別の話だが、車屋をしていたころの両親の伝手で、彼は安価な中古車を融通してもらい、手に入れた。
中古とはいえ、自分の初めての車だ。
彼は、車体を漠然と綺麗にしておきたいという意識だった。手入れは主に洗車機に頼り、たまに手洗いをする程度だった。
それは、自分の車を最低限見窄らしくない状態に保つことであり、この程度の労力で十分だと、彼はその時は思っていた。
そして、実家には車屋だった頃の名残がまだ残っていた。
祖父母時代に販売していた車の白黒写真やカーカタログ、内装素材のサンプル、今では使われなくなった錆びついたナンバープレートやホイールキャップ、エンブレムなど、半世紀以上前の物も結構な数が含まれており、雑然と積み上げられていた。
そして、そんな中、比較的新しい物の中に洗車用品も残っていた。
特にシャンプーは余っていた。
さらに、使い込まれて色は変色し硬くなったタオルや、洗車に使ったであろう触ったら崩れそうなスポンジも片隅に積み上げられていた。
彼は、それらから使えそうな物を選び、手探りで手洗いをするようになった。
彼は、家に大量に余っていた安価なシャンプーだけで洗車を続けた。
その目的は、単に汚れを落とすことだった。
バケツにシャンプーを入れても、泡立ちはするものの、その泡が長持ちすることはなかった。
それでも彼は、ただ車体を撫で、水道水で流した。
洗車後の車は確かに綺麗になったが、すぐに汚れた。
それを彼は「そんなものだ」と思い、漠然と洗車を続けていたのだった。
当時の彼には、「ワックスやコーティング」という、美しさを維持し、保護するという概念自体が希薄だった。
あるとき、物置の棚の奥深くに、見慣れない、小ぶりな缶を見つけた。
それは、汚れでラベルがはっきりと見えず、かろうじてカーワックスとわかる程度の代物だった。
それが、後に彼の洗車観を決定づける切っ掛けとなった。




