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第十四話 彼の求めるものと悪魔からの囁き

使い終わったクロスを畳み終え、彼はリビングへと戻った。


時間はちょうど正午を指している。午前中の作業で疲労は感じないが、脳が熱を持っているのを感じた。


彼はすぐに冷凍食品のカレーを電子レンジにかけた。


待つ間にソファーへ深く腰掛け、今日の午前中に達成したホイールワックスの仕上がりを思い出す。


それは期待していた以上の、まるで内側から光が漏れ出すような深い艶だった。


「これでホイールの艶出しは完結で良い」


そう思えるほどの揺るぎない満足感が、胸を満たしていた。


レンジの音が鳴り、彼は手早く食事を済ませる。


スプーンで掬う冷凍食品のカレーは、研究され尽くした安定の美味しさだ。手頃な価格で、保存も効く。


価格が安いのは、大量生産や効率的な物流、そして飽くなき企業努力によるものだろう。


彼は、この手軽で美味しいカレーにも、一つの「合理的で実用的な価値」があると静かに頷く。


その瞬間、脳裏に浮かぶのは、以前の休日に小さなレストランで食べた、カーシャンプー一本分に相当する最高の海鮮カレーだった。


彼は、目の前のカレーと、あの日の海鮮カレーを、価格と、それによって得られた満足度の種類という明確な指標で比較した。


冷凍カレーがコストと合理性を極めた結果なら、あの海鮮カレーが何倍もの価格である理由は何だろうか。


良いものには、それなりの値段が付く。


だが、それは単なる原材料のコストや、シェフの技術だけではない。


レストランであれば、その場の雰囲気、静かに流れる時間、整えられた空間の空気。


そして、手間と時間をかけてその場所まで足を運び、「そこで食した」という特別感。


その哲学は、洗車用品にも、今日のホイールワックスにも、完璧に当てはまる。


彼の中で、冷凍カレーと海鮮カレー、そして洗車用品の価値は、この瞬間、揺るぎない確信をもって一つに繋がった。


その思考の余韻に浸っていると、ソファーの横に置いたスマートフォンが静かに振動した。


ディスプレイに通知が表示される。


それは、ワックスメーカーからのメールだった。


『買い忘れはございませんか?カートに商品が残っています』


画面をタップし、メーカーのサイトを開く。


カートに残されていたのは、以前、購入を迷いに迷った末、結局見送り、入れっぱなしになっていたあの北欧ワックスだった。

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