運営と会話することになったんだが…
コンビニで弁当と酒を買い、そのまま帰宅。
一人暮らしには広すぎる一軒家に足を踏み入れる。
「ただいま」
返事はない。
玄関の電気は自動で灯り、俺は足早にリビングへと向かう。
弁当と酒の入ったビニール袋を机に置き、スーツを脱ぐ。部屋着に着替えて一息付き、俺はスマホに手を付ける。
電話する相手は勿論クラウディア・オンラインの運営、小池という人物だ。なんの用事か知らないが、とっとと話を終わらせよう。
平岩先輩に教えてもらった番号を入力すると、コールが三回あった後に向こうに繋がった。
「もしもし」
恐る恐るそう言葉を発する。
特に返事がないので、そのまま口を開く。
「あの、クラウディア・オンラインの小池さんでよろしいでしょうか?」
そう尋ねると、たちまち声が聞こえてきた。
「うん、僕がクラウディア・オンライン運営、対策課の小池です。もしかして、田中さん?」
少し高めの声が電話越しに聞こえてきた。
一人称は僕であったが、どうも女性の声っぽい。どうしようキャラ濃すぎる人だった……。
「はい、いかにも自分が田中ですけど……」
「おお、そっかそっか。君から連絡が来るのをずっと待ってたよ!」
「は、はぁ」
テンション高っ!
夜なのにどうしてそんなに元気なんだよ……。
どうやらこの小池という人物は、夜でもハイになれるような人らしい。平岩先輩と同族……とまでは、言い過ぎかもしれないが、少なくとも俺よりは元気に夜を過ごせる人っぽい。
「最初に確認しておきたいんだけど、君のキャラは運のステータスしか上げられない……で、いいんだよね?」
「はい、最初は不具合かと思ったんですけど……」
運のステータスについての話題になると、さらに小池さんのテンションは上昇する。
「ふふっ、君のキャラのそれは不具合じゃないよ。正真正銘、そのキャラの個性。世界に田中さんしか持っていないレアキャラだよ」
「そ、そうなんすか」
……できれば、普通のキャラが良かった。とは言えず、俺はそのまま小池さんの話に耳を傾ける。
「あはは、まさかもうそのキャラを手に入れる人が出るとは……いやぁ、いいよね。運だけを上げ続けるキャラって。面白いよね」
何が面白いのか、小池さんは爆笑しながらそう語る。
しかし、中身のない話ばかりで、本題に中々入ってくれない。
そもそも、俺と話したいという理由が面白いからなんてものだったらどうしようかと、俺の頭の片隅を過ぎる。
「あの、本題に移って貰いたいんですけど……」
「ん、本題?」
「俺と話したいって理由です。まさか、面白いからなんてだけでそんなこと言い出さないでしょ」
「ああ、そういうこと」
先程までのふざけた感じから、雰囲気が変わる。ちゃんとした話があるようだ。下らない話で終わらなくて、若干ホッとした。
「君と話がしたいっていう理由、だっけか? うーん、色々と説明し辛いんだけど……」
この期に及んで、言葉を濁す小池さん。
何か後ろめたいことがあるのだろうか、続きを話すか迷っているような印象である。
「話し辛いですか?」
「話し辛いというか……いや、こういうどっち付かずな態度は良くないね。うん、分かった」
……俺的には何も分からないが、小池さんは何か理解したようだ。だから、なんなの?
「えっと」
俺がそう言葉を紡ごうとした時、小池さんが告げた。
「今からゲームにログインしてくれないかな?」