第二十話
迷宮三十階層。
階層主、蒼光銀亜人形戦。
蒼光銀の長剣による打撃戦ではキリがないと判断したオレは攻め方を変えた。
「ミネラ、落とし穴」
銀の黄金虫が蒼光銀亜人形の足元の土を動かし周囲を盛り上げ、足元に大きな穴を作った。
銀の黄金虫は鉄を出すときに、土を動かし選別してるからこれぐらいはできる。
肩まで落とし穴にハマった亜人形が這い出ようとするが、その重量で簡単には登れない。
その間にオレは収納庫から魔晶石を取り出した。
二十階層の階層主が落としたヤツではなく、途中で拾ったクラスター。
拳大の魔晶石クラスターに魔力を込めて、全力で亜人形に投げつけると、魔晶石クラスターはその大きさに似合わないサイズの爆発を起こした。
ドンッ!
落とし穴の中で亜人形が仰反る。
衝撃は大きそうだが、体の表面には目立った傷は無い。
うーん。
これもダメか。
今度は亜人形の背後に回り込むと、動けない亜人形の頭に手を当てて魔力を流した。
バチッ!
痛ってぇ!
手が電流のようなもので弾かれた。
魔力を流し込むのはムリ、と。
もう一度、亜人形の頭に手を当てると今度は逆に吸い取れないか試す。
身体の中から絞り出して手から外に放出するイメージを手から身体の中心に凝縮するとイメージで手の魔力を薄くする。
スゥ……。
おっ、ちょっといけそうか。
ただし、蒼光銀亜人形から少し魔力を動かせてもオレの身体に取り込むことは難しそうだ。魔力が動く感じはあるけれど、オレの身体に入ってこない。
オレは左手で新しい魔晶石クラスターを取り出すと、クラスターを亜人形に押し当てて魔力を吸い出した。
魔晶石クラスターが眩く輝いた。
オレが引っ張った亜人形の魔力が魔晶石クラスターに貯まっていく。
その際に魔晶石クラスターが輝いているようだ。
行ける。
右手の長剣をその辺に放り出すと別の魔晶石クラスターを収納庫から取り出して握り締めると、左手と同じように亜人形に押し当てて、魔力を吸い上げる。
左手の魔晶石クラスターの輝きが少し落ちると、そのクラスターをその辺に置くとまた別の魔晶石クラスターた交換して続ける。
三十個ぐらいの魔晶石クラスターに魔力を充填すると蒼光銀亜人形が動きを止めた。
「君の勝ちだ」
銀色の蜥蜴が飛んで来て言う。
「想像以上だよ。合格だ」
「ハッ、次はお前だ。
さぁ、やろうぜ」
「うーん。まだ僕には勝てないよ。
それに話したいこともあるし」
「んじゃ、一度試させろ!」
転がっていた蒼光銀の長剣を握るとそのまま斬りつけた。
結果は前回と同じ。蜥蜴の小さな身体に長剣が触れてはいるけど、傷一筋ついていない。
「クソッ! ムカつくな」
モヤモヤは無くならないが、剣を下ろした。
「それで、何だった?」
「もういいのかい?」
「ん? あぁ、閉じ込められた怒り分ぐらいはは発散したから、話を聞いてやる」
「それは助かるよ。
んじゃ、早速だけど、僕と契約しようよ」
「はぁ?」
「君にもメリットがあるし、僕にもメリットがあるんだよ」
「どう言うことだ?」
「僕はこの迷宮の迷宮主、銀の蜥蜴。
君と契約するから、この迷宮を壊さないで欲しいんだ」
「んん?」
思わず眉間に皺を寄せて唸ってしまった。
「何でお前と契約することと、この迷宮を壊さないことが繋がるんだ?」
「銀の黄金虫の力を知ってるでしょ」
「あぁ、ずっと一緒にいたからな」
「銀の黄金虫は僕の眷属なんだ。眷属って分かる?」
「眷属って、同族とか部下、配下のことだろ」
「そうそう。僕の部下と契約して精霊の力を知ったでしょ。僕と契約すれば、もっと力が使えるよ」
「それは分かる。
分からないのは、迷宮を潰さないって方だ」
「そっちか?
君は迷宮を潰したいかい?」
「管理できるなら潰さない。管理できないなら潰す」
「シンプルだね」
「単純にリスクの問題だ。リスクがあれば潰すし、なければ潰す必要が無い」
「そうか、賢明だね。
それでは、僕と君は敵だ。
「どうして?」
「迷宮は管理できない。
地脈と通じて成長し続ける。リスクはドンドン大きくなる」
「やっぱ、そうか……」
「分かってて言ったの?」
「いや、想像だよ。
隣に軍事国家があっても自領の軍事力が上がる分には牽制できるけど、隣国の強さと成長力によるよな。
成長速度の話だ」
「なるほど、いい例えだ。
迷宮の軍事力に対抗し続けるのは難しいんだよ」
「まぁ、そうだよな」
「そうなると、こぞって迷宮を倒そうとする」
「あぁ、当たり前だ」
「だから、契約を結んで、お互いに協力しないか?」
「迷宮を守る代わりに、精霊の力を借りるということか。
或いは迷宮の利益を損ねないように、迷宮を保護する」
「そういうこと」
「しかし、オレに何ができる?
誰かが勝手に迷宮に潜り込んでお前を倒しに来たら、オレがそいつをやっつけるのか?」
「そういう協力の仕方もあると思うけど、取り敢えずは違うね。
ついて来て」
銀の蜥蜴が闘技場から出て行こうとする。
「おい、この蒼光銀亜人形はこのままでいいのか?」
「あぁ、それか。
倒すと神授工芸品になるけど、今は無理だから素材として収納庫に入れていいよ」
「こんなデカイの入るのか?」
「魔力も増えてるし問題ないよ。
試してみなよ」
銀の蜥蜴が言う通り、収納庫に入るか試してみたら、問題なく入った。
あの巨体、どれぐらいの蒼光銀量になるんだ?
銀の蜥蜴が先に進むので、慌ててついて行く。
闘技場の出口は蒼光銀の扉だった。
蒼光銀亜人形を生み出すんだから、蒼光銀の扉も作れるよなぁ。と思った。
鉄と蒼光銀ではインパクトが全然違う。
蒼光銀の扉を潜って、先に進むけど特に変化は無い。
「次の階層だよ」
何が? と思ったけど、階段がもう目の前だった。
階段を降りて三十一階層に入る。
そこには大広間があった。
今までのどの階層とも違う。
薄っすら白い床と壁が磨き上げられている。
ピカピカ、ツルツルなのだ。
直径五十メートル程の円形の広間が迷宮には相応しく無い綺麗な石材で造り上げてある。
そして中央に祭壇があり、大きな魔晶石が鎮座している。
二十階層で手に入れた魔晶石よりも二回りは大きい。広間の中央で輝き続けている。
「あれは?」
祭壇に向かって歩きながら銀の蜥蜴に聞いた。
「あれが迷宮核」




