第二十一話
銀の蜥蜴に案内された三十一階層。
そこの大広間の中央に迷宮核があった。
「これって、メチャクチャ大事なヤツじゃないのか?」
「そうだね。迷宮の心臓だよ。
君がこれを壊せば、迷宮が壊れる」
「おいおい……」
「まぁ、壊したくても、そんなに簡単に壊れないけど」
「何だよ、焦らせるなよ」
「それでも迷宮核が壊れれば迷宮が壊れることに変わりはないよ。
君にはこの迷宮核を預かって欲しいんだ」
「はぁ?」
「迷宮核は迷宮の心臓だ。
これは分かるよね」
「あぁ」
「迷宮を破壊したい人たちは迷宮核を壊しに来るんだ。
でも、迷宮核が無ければ壊せないよね。
だから、君に迷宮核の隠し場所になってもらいたい。
その代わり迷宮核を守るのに必要な力を貸すよ」
「まぁ、隠し持つぐらいならいいけど……」
「まだ追加の条件があるからね。
一つ目、僕との関係は誰にも言わない。君が迷宮核を持ってることがバレると、僕のリスクが増えるから。
二つ目、僕は力をかすと言ったけど、しばらくは力を貸せない。迷宮を育てることに注力する必要がある。
あ、銀の黄金虫はそのまま使ってていいよ。
三つ目、僕や眷属は別名で呼ぶこと。力の根源を知られるのは気分の良いものじゃないから。
四つ目、僕の前でしか迷宮核を収納庫から出さないこと。
五つ目、迷宮核を渡す代わりに、君は偽核を用意すること。
せめてダミーが無いとすぐに見破られてしまう」
「あぁ、分かった。
最後の偽核って何だ?」
「それは、君が二十階層で手に入れた魔晶石をダミーにするから偽物としてここの祭壇に置かせて欲しい」
「それなら、別に問題ない」
「後は、僕は僕で迷宮を大きくする。
君は君で迷宮を攻略して、神授工芸品でも何でも集めてくれればいいよ。
迷宮が攻略されても本物の迷宮核が壊されなければ問題無いし。
君の街が大きくなろうが、小さくなろうが、君次第だ。
但し、君の命は最大限の力で守らせてもらうよ」
「なるほどね。
オレを君の駒にしたい訳だ」
「まぁ、これも君が合格したからだよ」
「オレにとって利用できるものは利用させてもらうか。
いいだろう。
この街のためにこの迷宮を利用させてもらう。
契約だ」
「理解してもらえて助かるよ。
それじゃ、魔導書を出して」
銀の蜥蜴が言うので、収納庫から魔導書を出した。
「魔導書」
オレが軽く声に出すと魔導書が勝手にパラパラと捲れると、銀の黄金虫の次のページで止まった。
そこで銀の蜥蜴を見ると、蜥蜴は魔導書に乗っかった。
魔導書に新しい契約が浮かび上がってくる。
何故か、中央に蜥蜴の模様が入ってる。
例の二匹の蜥蜴が向かい合う階層主の部屋の扉の模様だ。
銀の蜥蜴はこの模様が好きだな。
そう思ってるうちに契約が完成した。
「これで僕も君に力を貸せるよ」
蜥蜴が顔の前に浮かんで言う。
「ちなみに、さっきの条件に別名で呼ぶってあったじゃないか?
ミネラの呼び方は大丈夫なのか?」
「銀の黄金虫はそれが気に入ってるみたいだし、問題無いよ」
「お前は何て呼ばれたいんだ?」
「それは契約した君が考えることだ。
僕の気分が上がる名前にしてくれよ」
「うーん」
蜥蜴かぁ、リザードだからリザ、リズ……蜥蜴は雌なのか?
文字るとリザルド、リザッティ、リガード。
もう少し違う響きがいいか……。
アイデクセ、ルチェルトラ、ツィイ、ドマベム……。
ラケルタはちょっと堅いか。
「ラケル。
……古い言葉からとったんだが、どうだ?」
「ラケル!
いいね。
それじゃ、僕はハクって呼ぶからね」
「……って名前呼ぶ意味あるのか?
別に蜥蜴じゃダメなのか?
お前も君って呼んでたじゃねぇか?」
「いや、魔導書って契約内容が徐々に変わって効果が変わるんだよっ!」
「契約内容と呼び方に何の関係があるんだよ?」
「お互いの関係が良くなると効果が伸びるから、仕方ないじゃん。
呼び名から関係を作ってくのが魔導書の基本なんだよ!
君の命を守るために少しでも効果を高めようとしてるのに、何だよ!
精霊って相性が大事なんだよ!」
「あ、あぁ〜、……分かった」
銀の蜥蜴のプレッシャーに負けて、呼び方を変えることになってしまった。
「それで、何から始めるんだ?」
「そりゃ迷宮核を収納庫にしまうとこからでしょ」
「あ、じゃあやっちまうぞ」
おもむろに祭壇に歩いて行って、迷宮核に手を触れると少し熱を持っている。
「これ、しまっても大丈夫なんだよな?」
「大丈夫、大丈夫」
「収納庫」
詠唱と共に祭壇の上から迷宮核が消える。
「次は偽核。
魔晶石出して」
「収納庫」
収納庫から魔晶石を出して祭壇に置くと、本物に比べて明らかに小さい。
中の魔力も少ないので、明るさも落ちた。
「やっぱり、小さいな」
「まずは、これに魔力を貯めてよ」
「えっ?」
「これを偽核にするために、まずは魔力を貯めて」
おっ。中々スパルタだ。
魔晶石に両手を当てて魔力を込めていく。
この魔晶石にはこれまでに何回か魔力を流している。しかし練習のようなもので、魔力を大量に込めたことはない。
それを真剣にやる。
ゆっくりと魔力を込めていくが、何の抵抗もなく魔力が貯まっていく。
あれ? 前はこんなに魔力込められたかな?
不思議に思いながらも作業を続ける。
十分経過したが、まだ終わりが見えない。
更に十分が経過した。
更に十分。終わらない。しんどい。
あ!
飯。食べるもんも食べずに何で延々とこんなことしてるんだオレは?
更に十分後、魔晶石に魔力が入らなくなってきて、やっと止めることができた。
「やるのはいいんだが、何か食べるもんないか?」
「食べ物?」
「お前に軟禁されてからオレ何も食ってないんだよ。
何か食いもん出せ」
「いや、この迷宮には……」
「じゃ、さっさと終わらせて戻るか」
「まぁ、後は僕が頑張るだけだし、終わっても大丈夫だけど」
「なら、野垂れ死ぬ前に帰るか。
本当に帰って大丈夫だな?」
「まぁ、いいか」
「お、じゃ、またな」
早速、走って帰ろうとしたら銀の蜥蜴が宙に飛んでついてくる。
「ん? まだ何かあったか?」
「いや、おまけの情報だよ。
十階層の階層主の扉だけど、一ヶ月は君、……ハクしか入れないから」
「あれ? 特典って、そんな効果なのか……?」
「あ、これは十階層の初回特典ね。十階層の主に初めて挑戦した君、……ハクにだけ優先権を与えるんだよ。
……出られなくしたのは僕だけど……。
他の人は入ることができない。だから、初挑戦者が限定特典を取りやすくなるんだ。
後から来た人が楽をできないようにするものさ」
歩きながら会話を続ける。
途中、声が小さくなって聴き難かったところもあるが、初めて聞く情報だ。
吟味をしながら話を続ける。
「それって、階層主ごとに発生するのか?」
「うん。
ただ、君……ハクの場合、立て続けに階層主を倒してるから、多分、ほぼ同時に期間が終わるね」
「そうか、勿体ないことしたな」
「どうせ初回しか発生しないからあんまり関係ないよ」
「それもそうか。
倒した階層主はどうなるんだ?」
「一ヶ月ほどで復活するよ」
「……ってことは、一ヶ月はフリーパスか。
それは、どうなんだ?」
「良し悪しだね。
直接倒さなくても深く潜れる。
素材採取にはお得だよね。それでも実力がないから翌月には誰かが階層主を倒さなきゃいけないけど」
「そうだよな」
階層主を倒しために、変な奴が先に進めるようになるのは困る。
さっきの話じゃないが、負傷してる間に追い抜かれるなんてこともあるだろう。
「後はせっかくの足止め魔物なのに、足止めにならなくなる」
「まぁ、それは仕方ないよな。
それをどうやって上手く使うか? ってことか」
「まぁ、そうだね。
君……ハクみたいに一気に突破してくる人もいるから」
「なぁ、本当に呼び名を変える意味あるのか?」
「ある!
魔晶石に魔力込めるのも、前より沢山できたはずなんだ!」
「あぁ、確かに変だったな」
「でしょ。
ほらね、変わるんだよ。
で、魔晶石に魔力が多い方が壊れにくいし、それだけでもかなりの効果だよ」
「あ、あぁ、分かった、分かった」
それにしても銀の蜥蜴は呼び名のことになるとやたらと拘る。
銀の黄金虫なんて、返事もしない、……できないのに。
「それじゃ、後は頑張って」
「あぁ、お前もな。
次はいつになるかな?」
「ハク次第だね。僕はいつでもウェルカムだよ」
討議場を抜け、三十階層の扉の前で別れた。




