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04:事情を話してくれたけれど

「あの火球は何ですか? なぜ貴方を追いかけていたの? 貴方はなぜあの場所にいたのですか? それより一番大事なのは、私は本当に元の所へ帰ることができるのですか?」

 聞きたいことは山ほどある。不思議な出来事が起こりすぎて、理解するのが難しい状況だけど、とりあえず、そんな疑問を美形の彼に訊いてみた。


「この花はな、朝咲いて夕方にはしぼむんや。これは殆どしぼみかけているさかい、今は夕方前やな。東の方角に行くと村があるはずやから、こっちへ行けばええんやな。ぼやぼやしとると日が暮れてしまうよって、歩きながら話すわ。そんでええか? 姫さん」

 足元のしぼみかけた青い花を見ていた彼は、太陽と反対の方向を指さした。

「歩くのは構わないのですが、姫さんは止めてもらっていいですか?」

 朝ではなく夕方近くらしいので、こんなところでのんびりと話をしている場合ではなさそうだ。広い草原の真ん中で、本日出会ったばかりの男性と夜を迎えるのは、確かにとても困る。

 それに姫さんと呼ばれるのはちょっと抵抗がある。


「ほんなら、自分のことなんと呼べばええんや?」

「私は水野望といいます。名前がノゾミで、姓がミズノです」

「ノゾミはんっていうんか。ええ名前や。めっちゃかわいいで」

 そんなに微笑まないでくれますか? 見惚れてしまいそうです。

 微笑んだ彼はやはりとても美しくて素敵だった。

『ノゾミ様とおっしゃるのですか。素敵な名前ですね。本当に可愛いですよ』

 仕方がないので脳内変換を頑張ってみる。

 

「『はん』は要りませんから、呼び捨てにしてください」

 なぜ姫は『さん』付けなのに、名前には『はん』を付けるのか理解できない。私の脳内変換のように、さんは君で、はんは様なのだろうか? 

 とにかくはん呼びは違和感がありまくるので、呼び捨ての方がましだと思った。

「呼び捨てが許されるなんて、ほんま光栄やな。ノゾミ、ワイのことはイーヴァルと呼んでくれたらええで」

「イーヴァルさん?」

「『さん』はいらんわ。ノゾミと一緒で、呼び捨てにしてや」

「は、はい」

 知らないうちに名前で呼び合う男性ができてしまった。しかも、信じられないほどの美形だ。嬉しそうに私を見ている美しい彼が、関西弁をしゃべるなんて信じられなかった。


 彼が東に向かって歩き始める。私は空になったペットボトルの蓋を閉めて、バッグの中に仕舞った。そして、彼の後に続いて歩いていく。


「ワイのオカンはな、王妃だったんや」

 しばらく歩いていると、彼がぼつぼつと話し始めた。風景はほとんど変わっていない。

「貴方のお母様は王妃陛下なのですか?」

 王妃とオカンとの落差がすごすぎる。ちょっと訂正しておかねばと思った。

「そやねん。そんで、オトンは王なんよ。ワイは第一王子で王太子やったんやけどな」

 本物の王子様がここにいた!

 その美しいお姿を拝見した時から、私は貴方が王子様ではないかと思っていました。私の直感は正しかったようです。


 「オカンはワイが七歳の時に亡くなってしもてな。そやから、オトンは一年後再婚したんよ。その女が厄介な祝福持やった。惚れられた相手に嘘を本当だと信じ込ませる能力があったんや。一昨日な、その女はワイがオトンの命を狙っている反逆者だと言い出してな。オトンも騎士団や魔法師団の団長も、皆あの女の言うことを信じてしもうた」

 彼の話は予想以上に重かった。私は返事に困ってしまい、黙って聞くことにする。


「オトンはワイを殺せと騎士団と魔法師団に命じたんや。ワイは何もしてへんさかい、黙って殺される訳にはいかんしな。界を渡る能力で逃げたんよ。せやけど、その直前に魔法師団長がワイに向かってあの火球を放ったんや。あれは目標をずっと追いかけるようにできているんやて」

「界を渡ってもついて来るのですか?」

「そうやねん。魔法師団長は目標を殺すまで後を追いかける火球の作成能力を与えられた祝福持ちやったんや。せやけど、異界まで追ってくるとは思わんかったわ」

 ここは面倒な能力を持った人がたくさんいる世界らしい。もちろんイーヴァルを含めさせてもらう。


「あの火球が消えてしまったら、また新しい火球がやってくるのではないですか?」

 夜になって眠ってしまってからあんな火球に襲われでもしたら、知らない間に死んでしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。

 しかし、こんな見ず知らずの場所で、彼と離れる勇気もない。言葉も通じないかもしれない世界で、女が一人でいると、どんな危険があるかわからない。

「それは大丈夫やろ。魔法師団長にはあの火球が消えたのはわかるさかい、ワイが死んだと思ったのに違いないわ。よしんば、消されたんやと思ったとしても、ワイの位置が特定できへんさかい、新しい火球を打つことは無理なんや」

 今は彼の言葉を信じるしかない。太陽は沈みかけて、西の空は真っ赤に染まっていた。

 スマホを見ると、午後六時過ぎになっている。歩き始めて二時間近く経っていた。




「ほら、村が見えてきたで」

 東の空は暗くなり始めている。イーヴァルが指さした方角に小さな明かりが見えた。

「ねぇ、イーヴァルはすごく目立つのじゃないの? そのまま村に入ったら通報されてしまわないかしら?」

 イーヴァルはあまりにも美しすぎる。しかも着ている服はとても高価そうなので、王子様ではないと思う方が難しい。

 王様に敵認定されているのならば、不用意に人里に近づくのは危険ではないかと思った。

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