エピローグ
両親に話すべきことを話したら、次は諸々の手続きをしなくちゃいけない。借りてたアパートに戻ると、私は管理会社へ退去の連絡をした。
この世界の荷物は、必要なものを少量だけまとめたら、家財道具は一切合切手放すつもりだ。
『こうと決めたら未練もなく行動するな、あやめは』
少し呆れたようにポケットのゼフィールが言う。
職場へも、退職の連絡をしなければ。退職までに一ヶ月はかかるだろう。それまではこっちの世界にいることになる。一ヶ月間あちらの世界を留守にするのは不安もあるけれど、即日退職は流石にできないから仕方がない。
私は粛々と作業を進めていき、あちらの世界へ移住するべく準備を整えた。
『あやめ、本当にいいのか? 後悔はしないか?』
「いいの。もう決めたことだから。それに、あちらとこちらは空で繋がっているんでしょう? それなら、寂しくはないもの。両親にもちゃんと話ができたしね」
そうして、一ヶ月が経った。
業者に荷物の搬出をお願いして、すっかりがらんどうになったマンションの部屋を見る。鍵を返却して、独り立ちしてからずっと住んでいたこのマンションともさよならだ。
最後に両親に挨拶を済ませると、私は胸ポケットのゼフィールに合図をした。
『よし、行くか、あやめ』
「うん。お願い、ゼフィール」
光学迷彩の魔法で他人から見えなくなったゼフィールが、広い公園の中央で翼を広げる。
そして、街はぐんぐんと小さくなっていった。
灰色のビル群。血管のように街を縦横無尽に巡る道路には、大量の車が行き交っている。
この世界ももう、見納めだ。
『寂しいか?』
「ううん。みんながいるし、自分で決めたことだから」
そうして私たちは、虹の橋をくぐった。
王都の片隅には、世にも珍しい魔獣トリミングの店がある。
獣人もシャンプーに通うこの店は、若い女性の店主が一人で切り盛りしている。
だけど、暴れる客や絡む客などは一人もいない。
「巨大な竜とフェンリルがこの店を守ってるらしいぜ」
「まさかぁ」
そんな話を、狐獣人たちが語りながら店の前を通り過ぎていく。
「少なくとも、女店主の旦那は強いやつだから逆らわないほうがいい」
「そんなに強いの?」
「そりゃあもう。この国の英雄様だからな」
噂話はふわふわと街を漂っていく。
それをよそに、店は今日もまた、繁盛しているのだった。




