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追放聖女は、ハズレスキル「トリマー」でもふもふ達と楽しく暮らします!  作者: 野生のイエネコ


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 ぐんぐんと、ゼフィールが高度を上げていく。


 空の彼方にある虹に向かって、飛んでいく。


 気がつけば街は小さな点になり、周囲には雲がふわふわと浮いている。真っ青な空が近くなり、青と白の世界に包まれる。


 その青と白の向こう側。白い雲の上に、虹がかかっていた。


『永遠の虹だな』

「あれが……」


 その虹の向こう側には、不思議なことに私の世界の幻影がゆらり、ゆらりと揺らいでいた。飛行機が飛んで、電車が走り、ビル群が蜃気楼のように揺れている。


「あれを潜ったら、元の世界に帰れるのね」

『であろうな。行くぞ、あやめ』


 ぐん、と加速したゼフィールが、永遠の虹に向かって飛んでいく。私はゼフィールの背につかまりながら、ビルの幻影がどんどんと迫ってくるのを見ていた。


 そして、虹をくぐるところにまで辿り着いた時。ぐらりと空間が揺れる。世界そのものが捻れるような違和感の中、ゼフィールがそこを通過していくと、不意に何かを抜けたような感覚がして、視界の歪みは元に戻った。


「通り抜けた、の?」

『ああ。ここはもう、あやめの世界だ』


 ゼフィールが答え、高度を徐々に下げていく。

 光魔法による光学迷彩が施されているという話だから、人からは見えないと思うけれど、それでも元の世界でゼフィールに乗って街へと降りていくのはどきどきした。


 懐かしい灰色のビル群が、視界に現れる。東京だ。


『あやめ、どこにいけばいい?』

「えっと、とりあえずあのすごく高い塔を目指してもらっていい?」


 スカイツリーのことだ。スカイツリーまで行けば、近くの駅から自宅までは簡単に移動できる。


 スカイツリー近くの公園に軟着陸し、ゼフィールの背中から降りる。ゼフィールには小さくなってもらって、光学迷彩を外した。


 さて、これから実家に行って、そして私は遠くへ行くと言うことを説明しなければ。


 服のポケットに隠したゼフィールをそっと布の上から撫でつつ、電車を乗り継ぎ実家へと向かう。


 見慣れたマンションの姿が目に入った途端、不意に涙がこぼれそうになった。


 随分と、遠いところに行ってたんだな、私。怖い思いも、大変な思いもたくさんした。

 それから、楽しかったことも。


 呼び鈴を鳴らすと、母が「はぁい」と言いながら扉を開けた。


「あら!? あやめ!? 急にどうしたの?」

「えへへ。帰ってきちゃった。お母さん。今日、大事な話があるんだけど、お父さんもいる?」

「夕方には帰ってくると思うけど……。どうしたの急に改まって」

「うん。お父さんが帰ってきたらまとめて話すね」


 懐かしいリビングへと入った私は、テレビの横にあるカレンダーを確認する。そこには、私があちらの世界へ召喚された時の月のページが開かれていた。 

 半年近く経っているはずなのに、私が行方不明になっているような情報もなく、母はいつも通りの反応をしてきていた。


 ——やっぱり、時間が経っていない。


 こちらの世界と、あちらの世界とで時間の流れ方が違うなら。私はもしあちらで過ごすことにするなら、両親より早く歳をとり、死ぬことになるかもしれない。


「ねえゼフィール。こっちでは時間が経っていないね。私、あっちに引っ越したらこっちのこの時間軸にしか戻って来れなくなるのかな」


 試しにゼフィールに聞いてみると、しかし返ってきた返答は否だった。


『こちらの世界とあちらの世界の時間の流れは、あやめが永遠の虹を越えたことで同期されたはずだ』


 それなら、時間の流れがずれていくことも、ないのかな。


「あやめ? 誰と喋ってるのー? 電話?」

「ううんお母さん、なんでもなーい」

「お父さん、帰ってきたわよ」


 玄関の方から母の声が聞こえて、それに返答をする。


「で? 話したいことって、一体どうしたの」


 父が帰ってきて、リビングの座卓を三人で囲む。母が用意してくれたお茶を一口飲んで、私は乾いた喉を潤した。


 覚悟を決めて、口を開く。


「あのね。私、異世界に行ってたの」


 娘の気が狂ったと思われないように、ゼフィールをポケットから取り出し、念話で両親に話しかけてもらう。ちっちゃなもふもふのずんぐりとした竜の姿をしたゼフィールが、パタパタと羽を動かして飛びながら、人の言葉を話す姿は、よほど衝撃を与えたのだろう。母は座ったまま貧血を起こしたようにぐらりと(かし)いで、父は目を見開いたまま固まっていた。


「あのね、聖女として召喚されて……」


 それから、異世界で過ごした日々のことを話す。

 ハズレスキルと呼ばれて追放されたこと、神獣のゼフィールと出会ったこと、トリマーとして身を立てたこと。


 その話は、荒唐無稽で到底信じられないものかもしれないけれど、それでもゼフィールの存在が否応なく現実であると両親に突きつける。


「ま、待って。待って。とりあえず、異世界に行っていたって言うのはわかったわ。信じるしかないもの、信じる。で、でも、突然こんな話し始めて、どうしたいの?」


 話がライカンさんとのことに及ぶにつれて、母は不安そうな顔でこちらを窺い見た。


「あのね。私、ライカンさんと一緒に暮らしていきたい。あちらの世界に引っ越そうと思うの」

「な、何を考えているんだ。突然そんな……」

「お母さんとお父さんには、寂しい思いをさせることになると思う。でも、もう二度とこっちへ来れないというわけじゃないし」

「だからって、異世界だなんて……」


 両親は未だ混乱しつつ、気持ちの整理がついていないようだった。


「どっちにしろ、仕事を辞めたり家の退去手続きをしたりしないといけないから、しばらくはこっちにいるつもりなの。その間に、受け入れてもらえると嬉しいな」


 私の決意は固かった。だって、一緒に死線を潜ったライカンさんへの気持ちは、いつの間にか随分大きなものになっていたのだから。

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