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追放聖女は、ハズレスキル「トリマー」でもふもふ達と楽しく暮らします!  作者: 野生のイエネコ


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「ライカンさんたちは無事なんですか!?」

「まだ情報を収集している段階だ。我が国の軍の損害も、まだはっきりとは把握できていない」


 シュナウザー壊滅の報せを伝えにきた王弟殿下に、不敬とは知りつつも迫る。

 ヴァルガ軍は敗走し、シュナウザーの街を放棄したらしいという話しか、まだわかっていない。


「私にシュナウザーへ行かせてください。いえ、反対されても行きます」

「こうなれば国王陛下も否やとはいうまい。たとえ言っても私がなんとかする。あやめさん、どうか気をつけて」


 王弟殿下は、自分がなんとかするからと言って、私を送り出してくれた。


「ゼフィール! シュナウザーの街へ連れて行って!」


 王宮の窓に足をかけて、肩に乗ったゼフィールにお願いをする。


 するとゼフィールが窓の外へと躍り出て、カッと光を放つと巨大な竜の姿に変身した。


 子犬姿のルナールを抱えて、ゼフィールの背中に飛び乗る。王宮の庭に居た人々がゼフィールを見上げてざわついていた。


『あやめ、速度を飛ばすぞ。風の魔法で守るゆえ、じっとしておれ』


 ゼフィールの指示に従い、背中の上でじっと待っていると、あたたかな風が全身を包み込む。


 ぐわ、とゼフィールが翼を広げて、一気に高度を上げた。


 雲の上に躍り出る。以前ゼフィールに乗った時よりも速い速度で、眼下の景色は流れていった。


 農村地帯を過ぎ、山々を越え、王都まで来た時の時間を巻き戻すように景色は動いていく。


 唯一違うのは——。


「ひどい……」


 瓦礫の山と化したシュナウザーの街だった。すでにヴァルガ軍は撤退済みで、マグヌスの戦力も今は立ち去っているらしく、人気はない。

 そこかしこに人だったものの遺体があり、私は思わず目を逸らした。


 街へ入ろうとすれば、焦げた石壁が崩れかかって、危なっかしい。


『あやめ、気をつけろ。細かい瓦礫などが落ちてくるかもしれぬ』

「うん……」


 せめて生き延びている人はいないかと探すが、生きた人の気配はなく、街は死んだように沈黙を保っていた。


「これをやった邪竜と、戦うんだよね……?」

『ああ』


 私の問いに、ゼフィールは厳しい声で応えた。


 大丈夫なの、と聞きたいけれど、それを聞いてどうすることも私にはできないから、口にするのを憚られた。

 ゼフィールなら大丈夫だと信じたい気持ちと、このシュナウザーの惨状を見て怯える気持ちとが心の中で渦を巻く。


『あやめ、邪竜の気配はまだ遠い。まずはヴァルガ軍と合流しよう』


 ヴァルガ軍は、シュナウザーの街のほど近くにある砦に居るらしかった。そちらへ向かって、ゼフィールに飛んでもらう。

 砦の上空まで出て、ゼフィールが高度を下げていくと、怯えた顔の兵が矢を射かけてきた。だが、それはゼフィールの風の魔法に阻まれて届かない。


「待て! あれは聖女様と神獣様だ! 攻撃するな!」


 軍の上層部で事情を知っているらしき人物が弓兵を諌め、矢が飛んでこなくなる。その頃にはゼフィールも砦の上縁と同等程度まで高度を下げており、人々に声が届く距離だった。


「援軍に来ました! 聖女の白石あやめです! 砦の中へ入ってもいいですか!?」


 声を張って中の兵たちに伝えると、ゆっくりと砦の門が開かれた。


「聖女様! 駆けつけてくださってありがとうございます。神獣様のお力があれば、あの邪竜にも対抗することができます」


 砦の中には、シュナウザーの街から避難して来たらしき人々が、老若男女、大勢いた。

 彼らは砦内部に設けられている畑で立ち働いていたり、水汲みをしたりと忙しそうにしている。けれども全員、チラチラと横目であやめたちの様子を伺っていた。


「邪竜は人の手には荷が勝つと思います。ゼフィールなら邪竜とも戦えますから、私たちに協力させてください」

「ありがとうございます。ありがとうございます、聖女様……!」


 兵たちが、シュナウザーの街の人々が、私に向かって平伏する。

 その光景は、あまりにも責任が重くて、直視するには心の負担が大きい光景だ。

 だけど私は、その光景を目に焼き付けた。


 聖女になることだなんて、望んでいなかった。

 わけもわからずこの世界に召喚されて、流されるようにトリマーとして好きな仕事をして、少しずつ馴染んでいただけだった。


 だけど、このシュナウザーの街で、少しの間過ごしたこの街で、大勢の人達が亡くなっていた。

 その光景は、私の目に深く焼き付いていた。


 聖女とかそういうのは関係なく、できることがあるならどうにかしたい、と思う。

 そう思わざるを得ない程度には、お店の経営を通じて私はこの世界の人々と交流を重ね過ぎた。


「それで、一つ伺いたいんですけど、ライカンという方はここにはいませんか? 軍に召集されていった衛兵さんなんですけど」

「ライカン……。ああ、あの方ですね」


 私の対応をしてくれていた兵士さんは、ライカンさんの名前を聞くと表情を曇らせた。


 その反応に、嫌な予感がする。


「ご案内しますね。こちらへどうぞ……」


 

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