異変
頭突きをしてきたのはもちろん平岡大志だ。
頭突きといっても攻撃的な激しいやつじゃなくて甘えるようにやさしくツンツンする感じのやつだ。
四つん這いでやってきて鈴木の二の腕あたりを彼自身の頭頂部を使ってツンツンと何度かつついてきた。
「何? もうおにぎりは全部食べたわけ?」
鈴木は平岡のほうを一瞥してぷいっと再び風呂敷を結ぶことに集中した。
すると平岡は今度は鈴木のワキや胸元あたりを頭頂部でツンツンとしてきた。
「キャッ! 何なの!? 邪魔しないでくれる? あっちへ行って!」
鈴木は平岡を押し返したが彼はよけいに興奮してフンッフンッと鼻息を荒くして鈴木の首筋や顎を鼻でツンツンと突いてきた。
「ちょっと! いやっ! あんっ! 何なのっ!? やめてっ! キャア!!」
ついには押し倒されてしまった。
「平岡っ! あははっ! キャッ! あはは! くすぐったい! あははは! 何っ! 何なのいったい!? あんっ! あはははッ! あはははは!」
平岡は半開きになった口から舌をたらしてハッハッハッハッと息を荒くすると今度は鈴木の口元や鼻のあたりをぺろぺろぺろと舐めだした。
「キャアアアアアアアアアアアアアー!! きゃはははは! やめてええええええええーー!! きゃはは、きゃははは! きゃははははは!! きもちわるいきゃはははは! クサい! きゃーあはははは! 平岡あああっ! きゃははははは! いやんっ!」
このままではらちがあかないと思った鈴木は「もうっ! バカッ!!」と平岡をおもいきり突き飛ばした。
そしてゴロンとうつぶせになって手をつき立ち上がって逃げようとした。
その時だ。
平岡が後ろから覆いかぶさってきてシュッシュッシュッシュッ! と高速で腰を振り出したのだ。
「キヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー!!!!!! やめてえええええーーー!!!」
鈴木は逃げようとするが平岡の体重がのしかかって立ち上がれない。しかたなく四つん這いのまま逃げようとするが、平岡も必死に腰を振りながらヨチヨチと二本足で歩いてくっついてくる。
「イヤアアアアアアアアアーー!!!」
「コラーッ!! おまえらあああああああー!! 真昼間からなにをしているんだあああー!!」
鈴木の悲鳴に気づいてグラウンドで体育の授業をしていた体育教師の熱田正孝(野救部のコーチ)と3年生の生徒たちが駆けつけてきた。
「アアンッ、先生ぇ!!」
平岡のくちの周りには昆布の佃煮やら黒ゴマやらがついてどろぼうひげみたいになっていたが熱田はすぐにその少年が平岡大志だと気づいた。
「平岡ああああ!! お前ってやつはあああ!」
熱田は平岡を羽交い締めにして鈴木から引きはがそうとした。
しかし普段から部活の先輩たちにしごかれ厳しいトレーニングを積んでいる平岡はびくともしない。
「や、や、め、め、ろお、お! ひ、ひ、らお、か、か、あ、あ、あ!」
熱田が呼びかけるも平岡はますます興奮して目ん玉をギンギンにひん剥いて、半開きの口からは舌とよだれを垂らして一心不乱に腰を振り続けた。
「キャ、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、アン!!」
「止ま、ま、ま、れ、え、え!! ああっ、ひ、ら、ら、お、お、か、か、か、あ、ああっ!」
平岡の動きに合わせて熱田まで一緒に腰を振る羽目になってしまい、生徒たちの前でなんだか恥ずかしくなってしまった熱田の頬は赤く染まってしまった。
すぐに平岡から離れた熱田。
今度はジャージの尻ポケットからムチを取り出して平岡の尻にめがけて「このバカヤロウ!!」とシュッ! と振り下ろした。
パチンッ!
「キャインッ!!」
平岡は情けなく鳴いて飛び上がった。
そして腕と脚をピンと真っすぐに伸ばし尻を高くつきだした四足歩行の姿勢になってスタタタタ―と走って逃げていってしまった。
鈴木は頬を赤く染め、よだれまみれの顔で倒れていた。
「だいじょうぶか! ケガはないか!?」と熱田がすぐにそばへ駆け寄った。
体操着を着た3年生の女子生徒たちも集まってきて心配そうに見ている。
鈴木は「だいじょうぶです……。ケガはしてないです……」とゆっくり起き上がった。
「1年生?」
「何だったの今のは……」
「こんなところでやるなんて……だいたん……」
「信じられない……」
「男ってほんと……」
「誰あのこ……」
「盛りの付いたオスガキが」
「なにあの走り方」
「キモッ」
周りの三年生たちがざわついているなか、鈴木はグラウンドの遠くのほうでスタタタターとどんどん小さくなってゆく平岡のまっすぐ伸びた脚とつきあげられた尻を神妙な面持ちでじっと見つめていた。
☆ ☆ ☆
その後。
平岡は教室の自分の机の下で、自身から剥ぎ取ったボロボロのシャツを両手で床に押さえつけそれに噛みつきながら「ヴーヴー」と唸っているところを警察に取り押さえられ逮捕された。




