次の日の朝。
次の日の朝。
教室では生徒たちが友達と固まってなかよく雑談をしていた。
鈴木は自分の席で小説を読みながらも隣で机に突っ伏している平岡の事が気になりあまり集中できないでいた。
読んでいるふりをしながらチラッ、チラッと平岡の方を見てみた。
彼はよだれと鼻水をたらして半開きの白目でまるでくたばっているかのようにぐっすりと寝ている。
とたんに顔が熱くなるの感じた鈴木は頭を振って邪念を払い再び視線を小説に戻した。
そんな時に『ヴヴヴヴヴヴ~♪ オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛~♪』と朝のホームルームの開始を知らせる低音のデスボイスが鳴り響いた。
草林高校のチャイムはたまに伴奏なしのアカペラバージョンもながれるのだ。
デスボイスが鳴り終わったと同時に、小綺麗な初老のおじさんがスリッパをペタペタとならして教室に入ってきた。
身長160センチ、白髪交じりのグレーヘアを整髪料でオールバックに固め、茶色のグラデーションレンズのメガネをかけ、アイロンがけされた長袖の白シャツをラクダ色のトラウザーパンツにインしている。
まるでベテランのヤクザみたいだが彼は1年1組の担任の柴山善幸だ。
柴山は黒板の前に立つと左手に抱えていたファイルを勢いよくバンッ!! と教卓の上に置いた。
担任が来ている事に気づいていなかった生徒達は急に大きな音がしたのでビクッとなって自分の席にもどりだした。
そのあと柴山が「へッ……クシュンッ!!!」とでっかいくしゃみをしたので生徒たちはまたビクッとなって柴山を見た。
完全に静かになった教室。
柴山はポケットからティッシュを取り出しズズズズズーッと鼻をかんでまたポケットにしまうと、生徒たちを見て何だか楽しそうに二タッっと笑った。
「えーっと、今日は皆に非常に残念なお知らせがあります。今朝、クラスメイトの耳川実鈴が窃盗の容疑で逮捕されましたっ」
「えーっ」
「マジか」
「うそだろ?」
「耳川さんが!?」
生徒達がざわめいた。
鈴木も驚いていた。
鈴木は平岡はどんな表情をしてるのだろうかと気になってチラッと彼の方を見た。
平岡は綺麗に背筋を伸ばして椅子に座っていたが目は眠そうにしてただ柴山の目を見ていた。
「へッ……クシュンッ!!!!!!」
柴山の大きなくしゃみの音に生徒たちはビクッとして教室はふたたび静かになった。
柴山はポケットからティッシュを取り出すと。
「お前達も泥棒はしないように。気を付けなさいね」
とにこっとして鼻をかんだ。
☆ ☆ ☆
お昼休み。
鈴木は納得がいかない様子で保健室にやってきてガラガラガラと引き戸を開けた
保健室の先生、今田明美はデスクに向かって官能小説を書いている所だった。
「あら、鈴木さん」
「先生。耳川さんの事。いくらなんでもやりすぎなんじゃないですか」
「あぁ……」
「いきなり逮捕だなんて……」
「そうよね。私も校長先生も、今回は厳重注意だけでいいと思ってたのよ」
「じゃあ何で」
「耳川さんのお父さんが……」
「お父さんが?」
「そう。ぜひ逮捕して欲しいと言ってきかなかったの」
「えっ」
「考え直してくださいって言ったんだけど。しまいには『お願いしますっ! どうかこのとおり!』って土下座までしてきて」
「どうして」
「良い社会勉強になるからって」
「そんな……」
「すごく真面目なお父さんみたいね」
「耳川さんは、どんな感じでしたか?」
「耳川さん? 彼女なら逮捕される気満々だったわよ」
「え……」
「『ともだち100人できるかな~♪』なんて歌って。ほんと呑気なもんよね」
話を聞いて安心したのか鈴木の表情が緩んだ。
「彼女らしいですね……」
そんな鈴木を見て今田もニコっとしてうんうんと頷いた。
「私、大事な書き物があるから。もういい?」
「あの。でもっ。耳川さんが盗んだってどうしてわかったんですか?」
すると今田は天井の角を指さした。
そこには立派な防犯カメラがついていた。




