うるさい
スマホを構えて鈴木を撮影していた耳川。
カシャッ。
今撮ったやつを画面で確認していたかと思うと急に顔が青ざめて手がプルプルと震えだし「キャアアアアアアアアアアー!」と甲高い声で叫びだした。
向かいの席で左を向き、胸の前で両手の指を絡めて目をつぶり神に祈るようなポーズをさせられていた鈴木は突然の叫び声にびっくりして耳川のほうを見た。
「どうしたの!?」
「幽霊が写ってる……」
「えっ……。どれ!? みせて」
鈴木は不安そうではありながらも前のめりになって耳川の持つスマホを覗き込んだ。
画面にはポーズをとる鈴木が写っている。
「どこに写っているの?」
「これ……。人の指が……」
耳川が指さしたのは画面の左下にぼやけて写っていたフライドポテトだった。
「これはフライドポテトじゃない!!!」
「ええ!! そうなの!??」
「もう~びっくりした~」
「あははは、なんだ~ポテトか~。よかった~」
安心したのもつかの間。
「キャアアアアアアアアアアー!!」
また耳川が甲高い叫び声をあげた。
「今度は何っ!?」
「わたしこんな事をするためにここに来たんじゃないよ!!!」
「え……」
「もえかちゃん!!」
急に立ち上がる耳川。
「なに!?」
「何か心配事や悩み事があるんだったら、このわたしに全部話しなさーいっ!!」
と耳川は何でも来いという感じで胸をどんと張った。
「耳川さん、声がでかいっ」
周りへの迷惑を気にする鈴木。
それでも耳川はぶりっ子アイドルみたいな可愛いしぐさで「もえかちゃ~ん! 何でも言っていいんだよ~!! わたし、どんな相談にでも乗っちゃうよ~!!☆」と両手を広げて鈴木に向けて差し出した。
「シーーッ! うるさいっ」
耳川のうるささにさらに焦った鈴木は自身の口の前に人差し指を立てて静かにしろと必死に訴えるがゾーンに入った耳川には通じなかった。
「恥ずかしがらなくていいんだよ!! だってわたしたち、大親友じゃん!!☆」
「いや、そういうことじゃなくてっ」
突然耳川は口元にスマホを構え、もう片方の手をピシッと真っ直ぐに上へあげた。
「耳川歌いますっ!!」
「ええっ!?」
「ねぇ、きっかせ~てよっ♪ なっや~み~があ~る~な~ら~教えてよっ♪ も~えかちゃんの~な~や~み~♪ フゥー♪」
耳川は自分で考えた簡単な振り付けをしながらオリジナルの曲を歌いだしてしまった。しかも歌声にかすかにエコーがかかっているように聞こえた。
スマホのアプリかなにかだろうか。
「耳川さんっ! やめてっ。シーーッ! 座ってっ」
「きゃはははっ☆ さっさい~な~こ~と~だあって~♪ あははっ、は~ず~か~しいこ~と~だあって~♪ きゃはははは~っ☆」
焦る鈴木を見て楽しくなったのか耳川は笑いながら歌った。
そのうちに何の騒ぎだと周りのお客さんたちの視線が二人に集中しだして、鈴木はすごく恥ずかしかったがイノシシみたいに一直線な耳川はそんな事に気づきもしなかった。
「耳川さんてばっ! 他のお客さんに迷惑だからっ」
「きゃははははっ☆ 絶対に~わらった~り~し~な~い~からぁ~♪ なんでも言ってよ~♪ ねっ? なんでもお話ししちゃって~♪ なんでもお話ししちゃって~♪ ランラランラランララン~♪ ランラランラランララン~♪ ララララ~ン~♪」
「わかった! 話すっ。話すから! おねがいっ! いますぐ黙って!」
「ほんと!!?」
「うん! だから静かにしてっ、おちついて! 座って!」
「やったああああああああああああああああー!!!」
耳川はジャンプしてガッツポーズをした。
バシャンッ!!
「黙れって言ってんだろうがああああああああああああー!!!」
あまりのうるささにブチギレた鈴木、コップに入っていた水を耳川にぶちまけてしまった。
びしょびしょになって固まった耳川。その姿を見た鈴木は一瞬で冷静になってやってしまったという表情だ。
「あっ。ごめんなさいっ耳川さん……。私。つい……。ごめんなさい……」
鈴木は自分のトレーに乗っていた紙ナプキンをとって耳川を拭こうとしたが耳川は「大丈夫。わたしの方がごめんだよ~。ちょっと楽しくなりすぎちゃった。へへっ」と恥ずかしそうに腰を下ろして「気を取り直して食べようか」と水でびちょびちょになったフライドポテトをパクっと食べた。
そうしたら予想外に美味しかったのか、みるみる顔がニッコリしてきて「オイシー! 少しマイルドになって食べやすくなってる~!」と笑った。
鈴木は「これ使って」と紙ナプキンを耳川の前に置き、自分の鞄からハンカチを取り出し「これも」と差し出した。
しかし耳川は「これくらい大丈夫、すぐに乾くよ~」と気にしていない様子でにこにことおいしそうにパクパク食べている。
そんな耳川を見た鈴木は、帽子とサングラスを取ってテーブルの上に置くと「耳川さんこの水飲む?」と耳川のコップに入った水を指さした。
耳川は「うんん、バミラシェイクがあどかだいだない」と口いっぱいにパイナップルバーガーを頬張りながら首を横に振った。
鈴木は「じゃあもらうね」とコップを取ると、頭上に持ち上げて自ら水を被ってしまった。
耳川はその様子を目を点にして固まったまま見ていたが、自分からびちょびちょになった鈴木がなんだかおもしろく思えてきたのかついブブッ! っと吹き出してしまった。
「きゃはははっ! なにしてるのぉぉ~! もえかちゃんっ!!」
耳川が吹き出してしまったパイナップルやらピクルスやらバンズやらの破片が鈴木の顔に飛び散る、それを見た耳川はさらにおかしくなっちゃた。
「きゃぁぁぁぁぁ~!! あははははは~っ! きゃ~ははは~! きゃぁぁぁ~はははは~!」
口を押さえてケタケタと楽しそうに笑う彼女につられて鈴木も笑ってしまう。
「うふぅっ」
「あきゃきゃきゃきゃ~!」
「うふふふっ」
「きゃははははは~! きゃ~ははははは、きゃはははは~!」
「うふふ、ふはははは、あはははは」
「うきゃきゃきゃ~、うはうは、うきゃきゃきゃきゃ~!」
「あはははは~、あははははは! あはははははは~!」
「きゃぁぁあああ~あははははは~!きゃはははは~! きゃははははは~!」
「あははははは~! ふふはは、はは、みみ、耳川さん、あはは、笑い過ぎあははは、あはははは~!」
「だってぇ~きゃはははは~! きゃああああああははははは~! きゃはきゃはきゃははは~!」
「お前らああああーーー!!! さっきからキャンキャンキャンキャンうるせーんだよ!!!!!」
「「そうだあああーー!!!」」
「何がそんなにおかしいんだメスガキがぁ!!!!」
「黙って飯も食えねえのかああああーっ!!!!!」
「あばずれどもがああああー!!!」
「天国へ登れえええええー!!!」
「晒すぞコルァああああああ!!!」
「店内を水浸しにすんなバカあああああ!!!」
あまりのうるささにブチギレた周りのお客さんやスタッフ達から罵声を浴びせられて鈴木と耳川はしゅんと静かになった。




