もう何も考えなかった。
「平岡ああああああ!! お前も手伝ええええええええええ!!!」
叫んだのは古川ヨシオだった。
ヒツジにはバレーボールのネットが引っかかっていて、変な鳴き声を発しながら走りまわっていて、ネットの端っこを掴んでいるヨシオがズルズルズルと地面を引きずられていた。
「やるじゃねえかヨシオ!!」
「見てないで早く手伝えくそがああああ!!」
「今行くっ!」
オレは真正面からヒツジに向かって行った。
ヨシオの重みでヒツジの勢いが遅くなっている。
今なら止められる!
そう思ったのに。
ヨシオはネットから手を離してしまった。
勢いを取り戻したヒツジが、オレの股間めがけて猛突進。
ドゴッという鈍い衝撃とともに、オレは声も出せずに後ろへ吹っ飛ばされた。
これまでに感じた事のないほどの痛みが全身を襲った。
本当に痛い時って声も出ないんだな……。
オレは目をつぶって痛みに震えながら、ただ地面にうずくまる事しか出来なかった。
真っ暗闇の中、ヨシオと鈴木と羊がワーワーキャーキャーメ゛エ゛エ゛エ゛エ゛と騒いでいる声だけが聞こえていた。
2分くらい経っただろうか、痛みは少し引いてきてなんとか目を開けることが出来た。
目の前に鈴木がボロ雑巾のようになって転がっていた。
クソっ……。
「平岡あああああああ!!!! 起きろおおおおおお!!!」
ヨシオだ!
声のしたほうを見たら、ヒツジに引っかかっているバレーのネットをヨシオがまた掴んでいて、また引きずられていた。
顔面あざだらけで目の上も唇も腫れてまるで別人のようになっていたがたぶんヨシオで間違いない。
近くには耳川も倒れていて羊に踏んづけられたらあぶない。
はやく止めないと。
もう何も考えなかった。
考えると自分に負けそうになるからだ。
オレは震える体に鞭を打って立ち上がり、ヒツジめがけてただまっすぐに走った。




