3人の命(平岡大志)
「あっ、ゴメンなさいっ!」
鈴木は顔を真っ赤にしたまま、大慌てでオレの股間から耳川の顔面を取り除いてくれた。凄まじい痛みで、オレの目頭からツーっと涙が伝い落ちる。
「平岡、見てっ! あのヒツジ、またこっちに来る気よ!」
オレは股間を押さえて地面に寝そべったまま、なんとか首だけを動かし、鈴木が指さす方を睨んだ。
こちらに狙いを定めたヒツジが前傾姿勢になって、ゆっくりと後ろへバックしている。
このままでは、3人とも殺される!
「鈴木、お前は逃げろっ!」
「えっ……!」
「耳川は置いて行け!」
「……でもっ!」
「はやくっ!」
「だってっ!」
「3人で死んでも意味ないだろっ! 1人でも助かる可能性があるのなら、その方がっ!」
「いやだっ!」
「行けっ!!」
「出来ないよっ!!」
なんて聞き分けの悪い女だ、どうしたらいいんだ。
再びヒツジに目をやると――もうこっちに向かってトットコトットコ走ってきているじゃねえかっ!!
オレは残りの力をすべて振り絞って、匍匐前進で二人の前に這い出た。なんとか上半身を起こし、膝をついて両腕を大きく広げる。
「来い! ヒツジあああああーーッ!!! オレが受け止めてやあああああああああああッ!!!!!」
もう、やけくそだ。
オレが壁になって少しでも衝撃を吸収できれば、二人が助かる可能性はあがるかもしれない。
ヒツジは頭を低くして、全速力で向かってくる。
終わりだ。
そう覚悟を決めてそっと目を閉じたら、なぜか小さい頃の思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡り始めた。
クリスマスイブ兼誕生日に、親父から「パチンコの景品でもらった」とリサちゃん人形の着せ替えセットをプレゼントされて、「これじゃないっ!」とキレて大泣きした日のこと。
(あの時オレは恐竜合体ロボが欲しかったんだっけ。親父はオレを喜ばせようと思ってパチンコを頑張って景品をとってウキウキで帰ってきたんだろうな。それなのに……悪い事しちゃったな……)
6歳のクリスマスイブ兼誕生日に、鉛筆と消しゴムとノートのセットをもらって泣いた日の事も思い出した。
(その時はカッパがホイッスルを吹きながら太鼓をたたくゼンマイ仕掛けの人形をサンタにお願いしていたんだっけ。親父たちはオレが将来困らないように、たくさん勉強させて、頭のいい子にしてあげたかったんだよな。それなのにオレときたら……)
パチンコのお店に遊びに連れて行ってもらった日々の事も思い出した。
(よくパチンコにつれて行ってもらってたな。床に落ちてるキラキラの玉をみつけて集めるのが楽しかったなぁ……。知らないおじさんたちに「おい、玉拾い小僧」なんて呼ばれてジュースや飴玉をもらったりしたのも、今思えばいい思い出だ……)
夏休みの宿題の絵を、母さんと一緒に描いた日の事も思い出した。
(オレが描いたやつはヘタクソ過ぎるからって、学校で恥かかないように母さんが最初から全部描き直してくれたっけ……。おかげで先生に「平岡くんはすごく絵が上手だね」ってよく褒められたな……)
母さん、親父、今までオレを育ててくれてありがとう。
不満もいっぱいあったし、最近は反抗ばかりしてた気がするけど、オレ、とっても幸せだったよ。
生まれ変われることがあるのなら、また母さんたちの子に生まれたいよ。
――――。
――ていうか、ヒツジはまだ来ないのかな?
何かおそくないか?
もうとっくにぶつかっててもいい頃だと思うんだけどな。
ヴギィエ゛エ゛エエエエエエエエエア゛ア゛アアアガア゛ア゛アアーー!!!(羊の鳴き声)
「平岡ああああああッ!! お前も手伝ええええええええええ!!!」




