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平穏的に過ごしてみよう!2

一歳になってから半年が経った。

だが、未だに僕は喋れないでいた。

騎士団の医務室に通うようになり、僕は一歳半ながら、一歳半でも出来るような勉強法で学ぶことになった。

それは絵本の読み聞かせで勉強し、言葉を覚えると言う方法だ。普通じゃないか! と感じるかもしれないが……。読み聞かせと言っても、普通とは少し違う。

騎士長が大好きな佑利ゆうりくん。

そして、そんな彼を苦笑いで受け止める強面だが優しい騎士長、咲人さきとさんに読み聞かせをしてもらっているものの、僕は何故か声を出せずにいた。

春斗さんは失声症じゃないかと疑っていた時期もあったが、あーうー! と騒ぎまくっている僕を見て、違うと思い直したらしい。

読み聞かせの本は、この国のものだけではなく、他国の言葉で書かれた絵本を読んでくれたりとしてくれる。それはとても有難いのだが、それを整理するのに精一杯で、未だに喋れてないんじゃないかと思い始めた今日この頃。

読み聞かせをしてくれ始めたのは、やっと周りに僕の目についてのこと知られた時からで。

子供の脳はやはり柔軟で。

だいぶ、読み聞かせしてくれた言葉の意味は理解出来るようになった。

まあ、喋れないんだが。

春斗さん曰く、僕は見て覚えることが出来なくはないが、人よりも倍時間がかかってしまう。だから、聴力で補うと言う訳である。

ちなみに、僕は古代文字を合わせれば五カ国語ほど学んでいる、読み聞かせで。

今日の読み聞かせは春斗さん。

春斗さんは基本古代文字担当。春斗さんは秀才タイプで、基本理系だが、文系も出来る。どうやらこの世界には魔法があるようなのだが、回復魔法しか適合せず、それを補うために勉強を頑張ってたみたいだ。ちなみにお父様は天才肌。

どうやら感覚で生きていたようだ。

一歳半なため、まだ適合する魔法はわからないが、あまり攻撃魔法は使わないで欲しいと春斗さんが言っていたような気がする。

身体に負担がかかり過ぎるとか、何とか言っていたような……? 気がしないでもない。

そう言えば今日、初めて眼帯を無理矢理つけられた後、片目で上手く距離感を掴む練習をし始めた。結構、慣れるまで大変だ。


それからまた半年が過ぎた。

未だに僕は喋れない。

上手く距離感を掴む練習は、未だに上手く出来てはおらず、神経をすり減らすからとても疲れるし、辛い。僕がこの練習をしている時、偶然時間が合い、側に居てくれる時には良く咲人さんは眉間に皺を寄せて、何かと葛藤しているのを見かける。

そんな咲人さんから良すぎる聴力を上手く使う訓練を二ヶ月前から始めた。わりとこの訓練は軌道に乗り始めている。

得意不得意があるのは、仕方がないことだろう。だって人だもの。

相変わらず、あーうー! しか喋れないし、まあ気ままに行くか。

焦ったところで変わらないしな。

ちなみに三人による読み聞かせ勉強法は、未だに続いている。

今日の指導により、精神的に疲れ、小さなこの身体がクタクタになっているのを感じながら、自宅へと戻れば、花が咲いたような笑顔を浮かべながら新人の使用人をとっ捕まえて、頭を撫でくりまわしているのは次期宰相とされている長男、七緒ななおがそこにいた。

僕には、そこまでの過度なスキンシップはしてこない。せいぜい、穏やかな視線を向けて、優しい手つきで頭を撫でるくらいだ。

代々、宰相を務めてきたこの家系の人間は身内にはとてつもなく甘いらしい。

そして身内に良くしてくれる人なら、身分関わらず差別なく接する人達なのだ。

むしろ、使用人達も家族のように大切にしているとも言える。

「雪未様、お帰りなさいませ!」

中性的な顔つきである庭師、星乃ほしのくんは可愛らしい笑顔で僕に駆け寄って来て、僕の視線にあうようにしゃがみ込んだ。

そんな星乃くんの頭を撫でてあげる。

「あーうー?」

「そうですね、雪未様。私は頭を撫でられてとても嬉しいです」

相変わらず、絶妙な返事の返しをした後、今の心境を語る星乃くん。

そんな僕らのことを、七緒お兄様は余程気に入ったのか新人の使用人を頭を撫でて可愛がりながら生温かい目で見守っていた。

七緒お兄様のお気に入りにめでたくなった新人の使用人は、ちなみに悠二ゆうじくんと言う。若干強気ながらも、小動物的な悠二くんは美形とは言えないが、雰囲気が何処となく可愛らしい。

七緒お兄様が気に入りそうな人材ではあるなとは思っていた。

「仕事、全部覚えたら俺の側においで? 俺の付き人になってくれないかな?」

まるで口説くような口調だ。

本当にやめろ、勘違いされる。

この人、一応は恋愛対象は異性なんで勘違いしないでね?

部下を大切にする人なんだよ。

「……はい、喜んで……!」

若干強気な悠二くんが、素直にそれを受け入れただと……⁉︎

てか、悠二くんそれ……。プロポーズされた女性の反応だから!

残念な七緒お兄様だけど、次期宰相に選ばれるくらいのカリスマ性があるから、同性が見とれちゃうのも納得は出来るけど。

悠二くんは特にお気に入りみたい。

悠二くん、仕事覚えてなくても大丈夫だよ。お兄様は使用人の長に仕事ができないまま引き抜きすると怒られるから、メンツがあるからそう言っているだけできっと仕事させてくれないよ。甘やかされるに決まってる、今まで引き抜きされた使用人が仕事させてください! と頼まれるくらいにね。

「相変わらずのフェロモンですね、七緒様。雪未様、……七緒様の口説く姿をみてしまうのは教育上良くないですよ?」

珍しく星乃くんが棘のある言葉を言った、にこにこと笑いながら。

そして七緒お兄様の反応を見ると、ただただ愉快そうに笑っているだけ。

「あーうー……?」

僕は苦笑いして、ただただ苦笑いして二人を眺めていたのだった。


次の日、また王城へと行く。

検査をした後、いつもの日課である距離感を掴む練習をしていた時、医務室の扉が開かれた。

勢い良く顔を上げれば、知らない男の子がそこにいた。良く良く見てみれば冷や汗を掻いて、焦っているように見えた。

生憎、僕は喋れない。

さあ、どうしましょう?

「かくまってください!」

と、先に用件を言ってくれたので、手招きをしてドアから見た角度から見えない位置に押し込んだ後、何ごともなかったように距離感を掴む練習を続けると、バタバタと騒がしい足音が聴こえて来る。

朔羅さくら様は来られましたか⁉︎ まだお話ししたいことがありましたのにっ」

幼いと言うのに、甲高い声でそう言う令嬢に僕は首を振り、恐らく彼のことだろうが、具合悪そうなのに突き出すのも可哀想だ。

僕はシラを切って、距離感を掴む練習を始めると本当にいないと思ってくれたらしい。

しばらく、諦めきれず医務室の扉の前で番人のごとく立っていたが、本当にいないと思ってくれたらしい、令嬢は諦めて医務室から去って行ってくれた。まあ、社交界に疎い僕は彼女の名前は知らないのだけど。

「助けて頂きありがとうございました、雪未様。助かりました、あまり積極的に来る女性の対応はあまり得意ではなくてですね」

積極的な女性は苦手だと言っているようなものだと思いながら、よいしょとそう言いながら無表情のまま隠れていた場所から出てきた。

何故、僕の名前を……⁈

と、そう思ったが、良く良く考えると僕は宰相の息子だったー。

知っててもおかしくはない。

そう言えば、朔羅様と呼ばれたこの男子の無表情は誰かに似ているような……?

そう脳裏に浮かんだ瞬間、その思考を遮るかのように彼は、

「彼女の魔力の気配はもう、ここら辺には感じません。助かりました、彼女はどうやら魔力探知はあまり得意ではないようで。短所を突くようで気分は良くないのですが、期待させるよりは良いでしょう。後日婚約のお断りと、謝罪をしておくことに致します。この度はかくまって頂き、誠にありがとうございます。感謝しきれません」

五〜六歳にしては、敬語を使いなれていて流石貴族だと感心する。

彼のような男子は、将来的には女性にとってとても魅力的な男性となるのだろう。

時に厄介ごとになるくらいには。

そう考えているうちに、彼の姿は最初からなかったことのように、ここからいなくなっていた。

まあ、いい。僕には関係のないことなのだから、僕が考えていてもしかたないことだ。

その日の午後。

今日は咲人さんは忙しいため、片目で距離感を的確に掴む訓練を午前に引き続き、午後も行う。しかし、相変わらず全然上手く出来ない。

出来ないことがあるのはしかたないことだ。だって、人だもの。

だけど……、せめて喋れるようになればなあ、とは思うけどさ。

焦らないで頑張ろうと思う。


人の成長とは早いなと思う。

僕は三歳になった今でも、僕は何故か喋ることが出来なかった。

距離感を的確に掴むことも。

唯一、出来たのは音による周りの把握が出来るようになっただけ。

五カ国語を理解出来るようになっても伝えることが出来なければ、それはただの宝の持ち腐れだ。だって僕は枠内に字を書くことも、しかも筆でさえも使うことがままならないのだから。

それでも春斗さんは、読み聞かせを続けると言う。彼の勘は鋭いのだろうか、新たにこの国とは違う言葉三ヶ国を追加した。












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