表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

第6話「兎とドリル5」

 穣は(つぶ)らな瞳で見つめてくる兎もどきと、向日葵もどきを交互に見比べた後、蔦の拘束から解放された手首を眺めた。


「お前……助けてくれたのか?」


「ミュ?」


 兎もどきに尋ねる穣。兎もどきは小首を傾げたまま、可愛らしい鳴き声を返す。


「って、そりゃ、通じるわけないよな。でも、ありがとう。助かったよ」


 穣は立ち上がると、刀を拾い上げて兎もどきへと近づく。すると、兎もどきは顔を背け、全身の毛を逆立て威嚇をし始めた。


「うわっ、なんだよ、近づくなってか?」


「ミュゥゥゥ」


 兎もどきは唸り声をあげ、両耳で金属音を打ち鳴らす。その視線の先には、横たわった茎を起こし始めている向日葵もどきの姿があった。遅れて穣も向日葵もどきが動いたことに気づく。


「はい? この子に蹴られて倒れたんだよね? あんな音がする蹴り食らってまだ動けるの?」


 疑問は最もだ。直径4mを超える大竹を粉砕する蹴りをまともに食らって倒れておきながら、なおも動ける生き物を穣は知らない。非常識さを目の当たりにした穣は、混乱を増すことなく、逆に冷静さを取り戻していた。


「この子が威嚇したのはオレじゃなくて、こっちの化け物の方、か」


 助けられたことで気を許した兎もどきを見ながら、穣は呟く。そうこうしている内にすっかり体制を立て直した向日葵もどきは、茎をしならせ襲いかかってきた。


「うおっと!」


「ミュ!」


 兎もどきと穣はそれぞれ左右に跳び、向日葵もどきの攻撃を回避する。向日葵もどきは迷いを見せることなく左に跳んだ兎もどきに狙いを定め、茎での横なぎで追撃をかけた。


「危ないっ」


 穣が叫ぶ。


 が、穣の心配は杞憂に終わった。兎もどきはサマーソルトキックで頭花にカウンターを決め上空へと蹴り上げると、落下してきた頭花に対して追い打ちとばかりにローリングソバットを蹴り込む。鈍い打撃音が2度響き渡り、向日葵もどきは再び地面に倒れこんだ。


「おおぅ……。カウンターワイヤーからの追撃で強制ダウンしたみたいだ」


 穣の口から、目の前の光景を格闘ゲーム脳で変換した言葉が漏れる。


 【カウンターワイヤー】とは、RGKにおいて攻撃がカウンターでヒットした場合に発生する特殊アクションである。相手が画面端に吹っ飛び、自分側に戻ってくる動作を指す。

 食らい判定が残っており追撃可能、かつ追撃ヒット時は強制ダウンを取れるチャンスとなるが、相手の攻撃に対してカウンターで攻撃をヒットさせる必要があるので、狙って起こすことが難しい。


 打撃攻撃はあまり効いていないのか、向日葵もどきはダウン状態からすぐに復帰すると、執拗に兎もどきに襲いかかった。

 兎もどきは全ての攻撃を(かわ)しつつ、時折カウンターを叩き込む。しかし、カウンターによる攻撃はダメージになっている様子がない。

 ダメージを気にすることなく攻める向日葵もどきと、待ちからのカウンターを繰り出す兎もどきの攻防は膠着状態となっていた。


「うわ、あれも躱すの!? って、その体勢からカウンター!?」


 穣は、少し離れたところからその攻防を興奮しながら見守っていた。両者の動きが激しすぎるため、手を出せるタイミングがなかったのだ。さらに、自身が散々苦戦した向日葵もどきを翻弄している兎もどきの動きに目が釘付けになっていた。


「ぶおおおおおお」


 最早何回目かも分からないダウン状態から復帰した向日葵もどきが、唐突に鳴いた。その声は凡そ生物の鳴き声ではなく、船の汽笛に近かった。ひとしきり鳴き終わると、辺りの様子が一変する。

 轟音、地鳴りと共に地面が割れ、それ(・・)は全身を(あら)わにした。


「向日葵だと思ってたけど……。鮫の頭が向日葵になったって感じかな。にしても、うぇ。気持ち悪い」


 穣はそれ(・・)を見た時の率直な感想を口にした。

 一見すると、鮫である。ただし、茎の部分も含めると全長は10m以上。全身の皮膚は弛んでおり、動くたびにぶよぶよと揺れている。地中を進むためであろう、胸ビレ、尾ビレ共に巨大に発達しており、どことなくスコップを連想させる。

 そして何より特徴的なのは背中である。(ツタ)がびっしりと、所狭しと生え並び、重力に逆らい蠢いている。

 全身のベース色は緑で頭花、舌状花、包葉部分の金色がアクセントとなり不気味さが前面に押し出されていた。


「ぶぉ、ぶおおおおお」


 地中から姿を見せた化け物は、その巨体からは想像出来ない速度で兎もどきへと迫り、身体を横向きにすると体当たりを仕掛けた。

 兎もどきは例に漏れず、カウンターのローリングソバットを繰り出すが、その結果は――。


「ミュミュ!」


 鈍い打撃音の後、体当たりの勢いに負けた兎もどきが後方へと吹き飛ばされる。化け物の方はというと、蹴り込まれた箇所が凹み、そこを中心にして波紋が広がったが、数秒で元通りになってしまった。


「あのぶよついた皮膚、打撃を吸収してんのか。まずいな」


 兎もどきはここまで蹴りのみで戦っている。耳角はサイズの違いから有効打にならないため使ってないと穣は考えていた。事実、耳角を開き、剣状態としても20cmそこらを切り裂くだけでほとんどダメージを与えられないだろう。


「す―――は―――」


 穣は大きく深呼吸する。


(超怖い。逃げたい。けど、ここで逃げたらアキラの(かたき)が討てなくなる気がする。なにより……助けられた恩は返さないと)


 そして、覚悟を決めて前を見据えた。


「こっちだ化け物! その気色悪い首、オレが切り落としてやるよ!」


 そう叫ぶと、穣は刀を担ぎ、化け物に向かって駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ