二章・魔質調査
長らくほっぽいてすいません
閲覧ありがとうございます。
エリオットが異世界に渡って数ヶ月が過ぎた。
現在エリオットはプラムの家で、プラムと一緒に暮らしていた。
お金がないエリオットは貸家を借りれないため、プラムから現在都会で暮らしている息子の部屋を貸してもらっているのが原状だ。
プラムが後見人になってくれたおかげで就労契約を結んだエリオットは、プラムの紹介で、村長が経営する牧場で働いている。
牧場は老夫婦が管理しており、若いエリオットは重宝されている。
「…魔質調査?」
冬になり大雪で外にでれないエリオットは、プラムは、居間のコタツで寛ぎながら夕食をとっていた。
コタツは火炎石を机に嵌め込んだ東方の暖房器具で、プラムの息子が母に贈ったものらしい。
コタツを堪能していたエリオットはプラムの言葉に動きを止めた。
「健康診断みたいなもんだよ。魔力を測定する検査だね。基準値が高いと王都さ連てかれるのさ。」
「…連れてかれて、どうするんだよ」
「魔力が高いと、魔力暴走を引き起こし安いから、1週間ばかり魔導院で魔力のコントロールの講習さうけなくちゃなんない。…正直面倒くさかったねぇ」
げんなりとするプラムの様子に、プラムも以前講習を受けたのかと、何となく察した。
元魔術研究をしていたプラムからすれば魔力のコントロールなんて、初歩中の初歩だ。
プラムの話ではこちらの世界では普通の村人として暮らしていたから、講習を受けなければ異世界人だと疑われる可能性があったので、やむを得えず、その講習を受けたのだろう。
「講習…ねぇ」
厄介な事になりそうな気がしてエリオットは、手元の蜜柑の皮を剥きながら、どう対処すべきか思案する。
(俺…魔力値が異常に高いから、速攻疑われるかもしれないなぁ…)
エリオットの魔力は既に普通の人間なら発狂死していても可笑しくない数値を誇る
体内魔力と融合化した聖遺物《ベルナートの切札》
聖魔札22枚 精霊札56枚 神獣札4枚
全82枚のカードひとつひとつ強力で意思を持つ札達は、体内にあるせいで、魔力も自然と増えてしまう。
(…まずいな)
「…プラムさん、そろそろ暖炉の薪がなくなりそうだから取りにいくな。」
「…風が強いから気をつけな。」
「おう。」
エリオットはそう頷くとコートを着込み、ブーツを履くと薪置き場の小屋へと向かう。
「…さて、そう言うことだが…できるか?─ランツァ」
【僕にそのような事を頼むのは貴方だけだろうね】
凍てつくような吹雪の中、夜陰からうっすらと姿を表した青年は不満気に主をみやる。
青い髪に紅い花飾りを付けた中性的な青年は、古代ローマ帝国時代の男性服のドガと呼ばれる長い布で巻いたような服に、真冬の中だと言うのに寒そうなサンダルを履き、手には水差しを抱え、冷めた表情でエリオットを睨みつけている。
「そう言うな。ランツァ、俺とお前の仲だろう?」
【ふん。普段は喚ばないくせに。どうでも良いときばかり喚んで…】
「あー…拗ねるなよ」
【拗ねてないよ。気にくわないだけだ。】
(…それを人は拗ねてるというんだっつーの…)
第14の札《節制》
彼の力は分かりやすく言えば調節である
単体としての能力は《死神》や《戦車》と劣るが、その最大の能力は、敵味方問わずに指定された人間への能力干渉である。
例えば主人であるエリオットや、味方の魔術師、呪術師ならば最大限の力を引き出し、敵ならば弱体化や能力を封じることもできるのだ
神の力さえ封じる事ができる彼が、敵ではなく、主の能力を調節するためだけに呼ばれて不満をたれるのも無理もない。
【本来、魔力の制限など貴方がすることでしょう?僕の力でしようとするのはいかがなものか】
「それが出来ねぇからお前に頼んでんだろうが。」
【ハァ………どれくらい抑えたいの?】
「この世界の人間の平均でいい。」
【本当にそれでいいの?】
「ああ。」
【ならば】
そう言うと、ランツァは指を鳴らすと、ランツァの手に持っていた水差しが姿を歪ませ縮小していく。
【其は等しく、素は均しく。】
「!」
【我が主の魔力を、均一に、統制し集まり、分かれ、解れて…別れた二つの杯を満たせ。】
やがて光が収まり、ランツァの手の平には一対の聖銀製のイヤーカフスが乗っていた。
「耳飾り…?」
【これは調節魔法具だ。元の魔力が使いたければ、これを外しなよ。これを外さない限り、“この世界の人間の平均”の状態を維持できる。】
「さすが!ランツァ!」
【…あー…疲れた。貴方の魔力が馬鹿みたい多すぎて、流石に分けるのに骨が折れたよ。もう魔力の調節なんて絶対やらないからね。】
「へいへい。」
【大事な事だからもう一度言うよ。“貴方の魔力調節はもう二度と絶対にやらない”から。じゃ、今度はきちんとした理由で僕を呼びなよ。】
「ありがとな。ランツァ」
エリオットが礼を言うと、ランツァは姿を消した。
いや、消したと言うよりも…エリオットの中に帰っていったと言うべきか。
エリオットは、両耳にイヤーカフスをつけると、薪の束を三つほど抱えて、プラムが待つログハウスへと踵をかえした。
エリオットはこの時、【節制】が最後に念押ししてい事を、後々になって後悔することになるとは…エリオット自身知らずに鼻歌まじりでログハウスの階段に足をかけた。
***
「ちょーだりぃな、魔質調査なんてよぉ。魔法省の仕事だろーが。なんで教師の俺たちまで駆り出されなきゃなんねぇの?」
「仕方ないだろう。この時期、我々学院の教師は暇なのだから。」
『…にしても、凄い雪ですねぇ。』
魔質調査に訪れていた二人の中年男性と、半透明の一見幽霊のような老人は窓の外の雪を見ながら思わず嘆息した
魔質調査は政府機関魔法省役人が行う調査なのだが、人員不足で魔導院の教師も派遣されていた。
二人の中年男性がその教師である。
幽霊っぽい老人は、恐らくどちらかが契約した精霊なのだろう。老成した執事のような姿をしており、二人の傍らで紅茶を煎れている。
「フラウド、いい加減エロ本を読むのをやめて今回魔質調査する村人の名簿に目を通せ。」
フラウドと呼ばれた金髪のオッサンはエロ本から、顔を出すと、向かいで黙々と書類に目を走らせる黒髪の男にチラリと目をむける。
「調査の日は3日後なのに真面目過ぎるぞ、サリダン。…だから嫁も逃げるんだ。」
「マギーは逃げてなどいない。旅に出ているだけだ。」
『サリダン様の奥方は放浪癖がありますからね…。旦那様、お茶が入りましたよ。サリダン様もどうぞ』
「…ああ、すまないな。ファルコ。」
『いえいえ、ささ冷める前にどうぞお召し上がり下さいませ』
にっこりと微笑む執事精霊にサリダンは重いため息を漏らした。
ファルコ…正式な名前はファルコシス。
フラウドの契約精霊で、一見 60代の老執事だが、既に千歳を越す、大きな能力をもつ古代精霊である。
ハイスペックな精霊で、契約者であるだらしないフラウドの世話を甲斐甲斐しくしているせいか、精霊の霊視ができる生徒達からは魔導院では「ファル爺」と呼ばれている。
エロ本を堂々とニヤニヤしながら読む男には勿体無い契約精霊だ。…豚に真珠と言う言葉がふさわしい。
「今回は、ボルア村とアネリア村にもいかねばならないし、人数が多いんだ。きちんとせねば訪問日程が狂う。」
「あー…はいはい。たく、しゃあねぇな。」
サリダンの言葉に、仕方なくエロ本をソファの上に置くと、フラウドは机の書類をめくり、面倒そうに書類に目を走らせていたが、書類の一覧の中の一点にフラウドは目を留めた。
「…ん?」
「どうした?」
「いや、このエリオット・クレインってガキ、魔質調査が今年初めてみたいだな。」
「何?」
サリダンはフラウドから書類を受け取ると、エリオット・クレインが書かれた欄を見る。
《エリオット・クレイン(17歳)
・性別は男
・後見人はプラム・ノートル
・出身地不明
・労戸籍認可済み
・犯罪者履歴なし
・ターナー村薬剤師プラム・ノートル宅にて在住。
・職業は牧場勤務
・魔質調査歴なし》
「…ふむ、就労戸籍を3ヶ月前に取得したばかりでは、魔質調査を受けてないのも無理もない。」
「…初めての奴には魔質調査はキツイだろーな。」
『最初の検査を受ける子供は必ず泣きますからね。』
「あれやる方も嫌なんだよなぁ…最初に調査しにいった村のガキ共もピーピー泣いて手がつけられなかったし。」
苦笑するファルコにフラウドは一昨日訪れていた村の子供達を思い出し、げんなりとした表情で書類に目を通す。
そんな二人の様子を尻目に、サリダンはエリオット・クレインの欄の文末に書かれた文章に目を細めた。
《・精神鑑定の結果、強い心的外傷を発見。少なくとも十年間以上何らかのストレスを加えられてきた虐待の形跡あり。忍耐力、自制力は異常。成長段階なので言明は避けるが、通常の子供なら既に発狂していてもおかしくない状態とだけ記す》
「…彼は一体…どういう環境で暮らしてきたのだろうか」
サリダンはその書類に眉間の皺を寄せると、窓の外でチラチラと舞い落ちる白い雪に目を向け、この書類の青年に思いを馳せる。
パキリと暖炉の薪が爆ぜる音が遠くで聞こえた気がした。
エリオット実は若い設定。17歳だが、3月生まれなのでもうじき18歳です。
7歳から軍属で大変な目にあってます。
因みにサーシャは15歳で、5歳から監視され、戦争が始まってからは3年間ぐらい監禁生活を強いられてます。(なんて最悪な設定だろうか…)
この設定が本編ででるか微妙なんで
さて、ではまた次回に。今度は早めに更新したいと思います。