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一章・アヴァロン



アヴァロンは世界名称です

ここは何処だ?


エリオットは目をそっと開けると深い森の中で倒れていた。


(…精霊はいるが神の気配がない。空気中の元素魔力は…あちらに近いが…構成式が違う…。)


エリオットは立ち上がると此方を覗き見している小さな精霊達の気配に眉をしかめると、魔力を集中する。



「…ベルナード」


その名を呼ぶと、手の甲に《0》の文字が浮かび上がり、目の前にふわりと旅人風の男と一匹の黒犬が現れた。


《愚者・ベルナード》


エリオットの前の世界キャムランの神話に出てくる放浪を好む愚神と呼ばれた旅の神。


エリオットが所有する聖遺物《愚者ベルナードの切札》の最初の《札》にして、作った張本人だ。



【やあ、僕のエリィ。異世界を旅路に選ぶとは剛毅じゃないか】


「…女みたいな名前で呼ぶんじゃねぇ。それより…ここは何処だ?」


ぼろぼろな旅の服をきた愚神に、エリオットは苛立つように尋ねると、ベルナードはニカッと爽やかな笑みを浮かべた。


【ここはアヴァロン。君がいたキャムランの双子の世界さ。】


「双子…?」


【そう、モールガス兄者が作った神が居ない自立した世界。キャムランと違ってこちらの世界に干渉する神はここにはいないよ】



モールガスと言うのはキャムランを創った創成の双子神の兄神のことだ。


兄のモールガスは世界の基盤と生命を


弟のカールフスは世界の法則と自然を


キャムランは弟神のカールフスの意向が強い世界で、天の古代神達が天に住まうと言われている。



「…俺がここに来てはまずかったか?」


【いいや、この世界はカールフスの兄者も干渉してこれないから比較的に自由さ。僕も君に喚ばれる分にはここにいても平気。


ここで君が死んでも、僕はキャムランで《札》の持ち主を選ぶし、問題ないよ】


「…結局、俺がこちらで死んでも彼方で新たな犠牲者が選ばれるのか」


【それが世界の基盤だからね。聖遺物が消えるとしたら僕ら神の消滅を意味するから仕方ないよ】



戦乱の原因となった聖遺物アンティフォナを異世界に持ち込んでしまったエリオットは、それを聴いて苦い表情をすると、ベルナードの足元の黒犬を撫でる。


「フォラルを少し借りるがいいか?」



【構わないよ我が友。しかし、フォラルを出していると他の《札》が使えないが良いのか?】


「構わない。むしろ…出来るだけ《札》を使わないようにしたいんだ。」


【…そうか。では君の新たな旅立ちに祝福を】


そう言うと、ベルナードは子供のような無邪気な笑顔で杖を振るうとシャララランとキラキラした魔法をエリオットにかけて姿を消した。


「あいつは何をしたんだ?」


【わう。】


「…て、喋れないか。フォラル、頼む」


【わん!】



牧羊犬に似たフォラルは、飼い主の主人であるエリオットに返事をすると、風を嗅ぎわけエリオットを誘導するように歩き出した。


フォラルは一見普通の犬だが、旅人に適した道を教えてくれる聖獣である。良く迷子避けに親が子供の守護を願うと言う旅の神ベルナードの眷属。


旅の相棒でこれほど心強い犬はいないだろう。




暫く歩くと一軒のログハウスが目に飛び込んできた。


【わう!】


「ここか?」


【わん!】



元気に吠えるフォラルに、エリオットは頷くと、フォラルは姿を消した。


主人の元へと帰ったのだろう。


エリオットは、三回ログハウスの扉を叩くと、ひとりの老婆が出てきた。


痩せっぽっちな老婆で、さぞかし昔は美人だったのだろう。黒い服を纏い、肩には灰色のフェルト生地の肩掛けをかけている


老婆は、じろじろとエリオットを観察すると鼻を鳴らして顎で、家の中に入るように指示をだす


「…患者…じゃないね。お入り坊や」


「…失礼します。」


名乗ってもいないのに安々と入れるとは…若干信じられずにいたら、「さっさとお入り!」と叱られてしまった。



「さて、エデイン帝国の軍人さんが、この私に何の用かね。」


「っ…なぜ俺がエデイン帝国の軍人だと?ここは異世界のはずですが…」



「あたしはプラム・ベンジャー、今はプラム・ノートル。元エデイン帝国魔法研究所所属の魔女さ。魔法研究中に事故でこちらに飛ばされてきたんだよ。もう、50年近くまえだけど…あんたがエデイン帝国軍服を着ているのをみてピンと来たのさ」



どうやらフォラルは、このプラムという老婆が異世界人であるのを知っていてわざわざ連れて来たのかもしれない。


(これなら話は早いかもしれない…)


「…俺はエリオット・クレイン。エデイン帝国魔導軍所属、元准将です。えと…」


「今は未亡人さ。ノートル夫人でもプラム婆とでも好きに呼びな」

「えとプラムさん、俺も大掛かりな魔法でこちらに飛んできました。飛ばされたのはこの近くの森で…すいませんがここは何処なんですか?」


「ここはアヴァロンの東バーミュロス大陸の中心、絶対中立国スベリア女王国。」


「女王国?」



「代々女が王様やってんのさ。男尊女卑のエデインは女の待遇は月と鼈さね」



皮肉げに笑うプラムにエリオットは思考を巡らす



絶対中立国と謳っている以上、戦争はないようで、森の鳥たちも殺気だっておらずなんとも穏やかだ。


この老婆も元エデイン帝国の研究所に働いていたとはいえ、軍人だったはずなのに軍人特有の張りつめた空気はなく自然体だ。


随分と平和な国であるようだ。


「…で、あんたはどうしてまた。」


「…」


「…だが、こっちに来て正解だよ。あちらと違って戦争はないし、平和だし…エデインは今はどうだい?」



「シュルデ王国に敗北…国は滅亡しました。…俺は敗残兵として敵に追われていて大型魔術を使用し…きがついたら。」



嘘は言っていない。最前線で戦っていたら城が陥落した報を聞いて、エリオットは戦場から逃げて城へと向かったのだ。


《敗残兵》…言い得て妙だなとエリオットは内心苦笑した。


自分が《適合者マーベラス》であることを知られて、《聖遺物》を知るプラムに警戒されるのは得策ではない。


それにエリオット自身が知られたくなかったので、あえてその部分は伏せた。



プラムは絶句し、目を見開くと何とも言えない表情でエリオットをみた。


「…あんた、これからどうするんだい?」


「こちらで、生きていきたいと思っています。」


「家族は?」


「…全員…。」



そこまで言うと、プラムは立ち上がり、壁に駆けられていたコートをエリオットに投げて寄越した。


「それ着てあたしについてきな、戸籍を取りに行くよ。」


「え…あ、あの俺はただ、この世界がどういう場所か知りたいだけで…」


「変な遠慮しなくていいさ。あんた、嘘はついてないようだから世話はしてやんよ。…ただ隠し事をするならもっと上手くしな。」


「!!」



「伊達に歳食ってるわけじゃない。訳ありなのは最初から知っていたさ」


「何故、」


戸惑うように聞き返せば、老いた魔女は笑った。


「その歳で将の階級を持ってる若造は普通いないよ。そうだろう?クレイン元准将殿」



悪戯が成功したように笑う老婆に、エリオットは降参するようなポーズをとった。




エリオットは、プラムと森を出ると、近くに町に行く道をひたすら歩き始めた。


「町に着くまでにこの国の戸籍について説明してやる。


ここスベリア女王国の戸籍は三つに別れている」



ひとつは、通常戸籍。スベリアで生まれたとき両親が出生届けを出した場合に登録されるもの


もうひとつは移住外国人戸籍。他国から移住を希望する人間のための戸籍で、取得するときあらゆる検査や高額な登録料金が必要となる。ただし、伴侶がスベリア人である場合、登録料金は無料だ。


最後は就労戸籍と呼ばれるものになる。


「就労戸籍…?」


「平和とはいえ、この国でも貧富の差があり、親が出生届けを出さずに捨てられる孤児がいる。

その無国籍の人間が唯一戸籍を得られる方法が就労戸籍だ。」



就労戸籍は、役場で就労契約を結び、約5年スベリアで働くことで戸籍登録の許可がおりる。


これら三つの戸籍は全て魔法で管理されており、体の一部に戸籍を証明するバーコードみたいな刺青を彫られるという。


「ただし、就労戸籍には後見人が必要になる。それは私が同郷のよしみでなれるが、契約時にある誓約をさせられる」


「誓約…?」


「この国は戸籍がなければ職につけないうえに、物品を買うことすら出来ないからね。長期滞在する輩…間諜や人拐いはどうしても就労戸籍が必要になる。


だから、契約するときにフルイにかけられるんだよ。」



その言葉にエリオットは眉間に皺を寄せた。つまり、国に害をなす敵かどうか識別されると言うことだ。


魔法による戸籍の徹底管理。確かに理想的だが、エデイン帝国とは違った形の鳥籠にいれられるような気分になった。



「まあ、中立国の戸籍があれば国外でも通行許可が簡単に取れるさ、5年間働いてから外に出るなり定住するなり好きにしな。」


エリオットの考えていた事を感じ取ったのかプラムは、そう淡々と言うと畦道に足を向けた。




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