幕の一 ~長屋の夫婦?~
靄まだ晴れきらぬ早朝。どこかで「ぴゃ」とも「みゃ」とも言えぬ、小さな弱々しい声が聞こえた。
それは静寂の中でも耳をそばだてねば聞き取れぬ程の、小さく高い音。
しかし間を置かず、長屋の戸が一つ、勢いよく開いた。
現れたのは、竹ぼうきを逆さに握り、姉さん被りをした女。
女は仁王立ちで目だけをキョロリと動かすと、次の瞬間裏木戸へ向かって小走りに駆けた。
突き当りまで着いた所で、今度は首ごと回して左右を確認。
―するとー
家二つ分ほど先に、羽をばたつかせ【何か】を威嚇するカラス と、縮こまり顔を伏せプルプルと震える…
女「……くま???」
いや、こんな所にくまは出ない。しかもくまにしちゃ小さい。いやいや、よくみればそこそこ大きい…いやいやいや、問題はそこじゃない。
気を取り直した女は、とりあえず最初にすべきはカラスの追い払いである。と、ばかりにカラスと『塊』の間に割って入りー
女「しっしっ!!あっちお行き!!」と竹ぼうきをカラスに向けて振り回して追い払った。
そしてカラスの姿が見えなくなってから、小さく震えるそこそこ大きな塊に向かって声をかける。
女「お前さん…黄市さん。全くもう。大丈夫かい?」と呆れの混じった声。しかし、顔を上げぬ黄市に向けたその表情は、その声に比べてとても柔らかく優しい。
黄市「お…紫乃?」
呼びかけられてようやく頭を上げたその男 ー黄市ー は、いつもであれば強面とも称されるその顔の大部分を八の字に下げ、今にも泣きそうな表情でお紫乃…自分の女房を見上げた。
お紫乃「さ、カラスは追っ払ったよ。立っとくれ。アンタ図体でかくてアタシじゃ持ち上がらないんだから。」
そう言いながら黄市の両腕をとり、ゆっくりと立ち上がらせると、後ろへと回り、尻を軽く二回叩いて土を払う。
そして、ヨシ!と言うとサッサと長屋に向かって歩きだした。
黄市はそんなお紫乃を少し不貞腐れた目で追ったが、すぐに気を取り直し、背筋を伸ばして同じ道を歩きだした。
朝靄が晴れる頃には、空はすっかり初夏の色。青葉を揺らす風が、長屋の軒先を通り抜けていく。
さてさて――今日もオオエドは、何やら賑やかになりそうで。
これは、そんな人々の物語。
最初はやはりこのお二人かと。というか、箱推しなんですけどヤッパリここに一番沼ってますもんでw




