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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第二話「トンネルを抜けても雪国だった件について」①

 ……季節外れのドカ雪。

 エアライドは別に地面に接地してる訳じゃないから、路面が雪でツルツルだろうが、砂でジャリジャリの地面だろうが、お構い無しで進めるし、それが大きなメリットなんだが。

 

 さすがに大雪……それも吹雪ともなると、目を瞑っても走れる位にはコースを熟知してないと、とても走れない。

 

 10mもない視界に、猛烈な突風に、車体に積もる雪による重量バランスや空気抵抗の激変……精霊石の出力も荒ぶりがちで、快適なドライビングなんて程遠い……一言で言って、過酷。


 とにかく、過酷だった……。


「トンネルを抜けるとそこは雪国だった……知ってるかぁ? 川端康成の「雪国」って小説の有名な冒頭なんだぜ!」


 岩剥き出しの手掘りトンネルを抜けて、相変わらずな雪景色と突風に煽られて、前輪がフワッと浮きそうになるのを出力バランスを調整して、無理くり押さえつけながら、そんな独り言を呟く。


 もういい加減、二時間以上……こんな代り映えのしない風景で集中力を保ち続けるのは、並大抵のことじゃない。

 

 さすがの俺も疲れた! 途中でも色々あったから余計に……だ。

 だが、もう峠の出口のトンネルを過ぎた事で、こんな軽口を叩く余裕くらいは出てきてる。

 

「コウちゃんは、たまに変なこと言うニャッ! トンネル入る前からドカ雪だったにゃ! とゆーか、誰ニャそいつ!」


 ちなみに、このニャーニャー言ってるのは、俺の相棒。

 この箱型エアライドの心臓部たる大精霊石に取り憑いてた精霊様……のはずなんだが。


 見た目は、フヨフヨと宙に浮くモフモフ毛皮の半透明のデカ猫だ。


 俺も猫のことはそんなに詳しくないんだが……確か、ラグドールとか言う長毛猫がこんなだったはず。

 耳、背中と尻尾が茶色で顔も茶色なんだが、顎から鼻筋まで山みたいな白い模様が入ってる……いわゆるハチワレ模様の小綺麗なヤツ。

 

 何故か、前世の俺のことを知ってるようで、この俺の愛車……「ストレイ・キャッツ号」を手本にこの世界向け準拠に改造した箱型エアライドのおまけだったくせに、最初からやたらと馴れ馴れしくって、今ではすっかり相方気取りだった。


「まぁ、異世界だもんなぁ……「雪国」とか誰も知らねぇよな。まぁ、俺もそこしか知らねぇんだけどな! はっはっは!」


 文学青年気取りで、明治の文豪の引用を語ったりなんかしたが、俺の知識もそんなもんだ。

 まぁ、百年以上昔の小説家の作品とかそんなもんだろ……ましてや、今の俺は異世界生活者。


 その後の続きにしても良く知らねぇし、多分永遠に知る機会もなさそうだった。


「しっかし、ここまで派手に降るともう道がどこだか見えなくなるし、雪が積もってるせいで地面との距離が出てるから、パワーが全然安定しない……。こりゃ、運び屋稼業も数日ほどは休業かねぇ……」


「吹雪いてる上に、マナも複雑に入り乱れてるから、むしろこんなんで走れてる方が不思議だにゃ! と言うか、こんな中走ってるのアタシらだけみたいだよ……。付近にエアライドどころか、人も何もいないよ」


 ……実際、俺は山向こうからワダツミ峠を超えてきた。

 

 ここまで対向車も一台も居なかったし、走っても走っても追いつく車なんて一台もいない。

 もちろん、バックミラーで後ろを見ても車の影は一切ない。


 まさに、一人旅……気分は悪くない。

 もっとも、こんな最悪を煮詰めたような天候……普通は、家に籠って大人しくしてるってのが常識だし、徒歩の旅でこんなのに巻き込まれたら、軽く死を覚悟する状況だ。

 

 俺が割と平然と走ってるのは、毎日毎日同じ道を往復した結果、コースを完全に覚えたからだし、こう見えてこの精霊ニャースキーはなかなか優秀ではあるのだ。

 

 ホントにやるつもりはないんだが、多分……目隠ししてても、余裕でイケるだろうな。


 でも、そんなおっかないことはやりたくないから、絶対やらないっ!

 俺は……こう見えて、割と小心者なのだ。


 もっとも、雪もまだ本降りでもないし、日も暮れ切ってないから道もなんとか判別できるくらいなんだが……。

 この世界の天気予報は、精霊使いが超正確なのを出してくるから、ほぼ100%当たる。


 俺ももちろん、3日くらいはワダツミ峠どころか、付近の街道がまとめて雪で閉ざされるって話は聞いてたし、どうせこんなもんだと思ってた。

 恐らく、この調子だと時間の問題でm単位の積雪になって、夜になる頃には無理ゲー状態になるな。


 ちなみに、雪がm単位積もって、地面から離れてても、雪自体のマナの伝達率は空気よりも高いから、加速が鈍くなることとパワーが安定しなくなるくらいで、完全に走れなくなるって訳でもない。


 でも、割と必然的に地面とのクリアランスが狭くなるから、油断してるとちょっとした道の起伏で底ならぬ、精霊石が接触してゾリって言ったりして、ひっじょーに神経使うから、物凄く疲れる。

 

 選択の余地があるなら、絶対に避けたい……そんな風に思って、早めに出て本降りになる前に山を降りたかったんだが。

 途中で、事故ってたマヌケを拾ってたんで、結局本降りになっちまった。


 やがて、道も平坦になって、樹高も低くなって、見通しも少しは良くなってくる。

 しばらく走ると道を塞ぐ遮断器のバーみたいなのが現れるので、その前で停車。


 近くに並んだテントから、カンテラを持ったボロい皮鎧とフード付きマントで身を固めた荒くれ者達がワラワラと出てくる。


「……ダンナ! 良く無事に峠超えられましたね! さすがっ!」


「この天候で峠越えて来たやつが居ると思ったら、案の定ダンナっすか……。お疲れ様っす! せっかくだから、一服でもしてってくだせぇよ!」


「さすが、俺達のセナの大将だぜ! そこに痺れるし憧れるゥ! イヤーハーッ!」


 厳つい顔で、凶悪犯のような面構えの奴らがめいめいに俺をヨイショする。

 当然ながら顔見知りなんだが……さすがにちょっとこそばゆい。


「……俺を褒めても何も出ねぇぞ。おら……通行料200ガルト、もってけドロボー! あと、こっちはエブラン村の人達からの差し入れの飯と酒だ。いつもご苦労さん……だってよ」


 そう言って、銀貨ニ枚を握らせて、酒瓶と弁当箱を手渡す。


 通行料は銀貨二枚で200ガルト……日本円換算だと片道2000円ってとこで別に安くはないんだが、高速をちょっと走るだけで、それくらいは行くんだから妥当な代金だろ。

 何よりもこれは、コイツらの食い扶持なんだから、それくらい喜んで払ってやらねぇとな。


「毎度あざっす! いやぁ、飯もだけど、酒はマジで嬉しいっす! エブランの方々には頭が上がらねぇや!」


「いくら走ってくるエアライドが来ないからって、一応まだ仕事時間なんだから、楽しむのは後にしようぜ! けど、この調子だと、むしろ街から向こうへ行こうとする奴は全員止めて、追い返すようにしないと、片っ端から遭難しちまいますよねぇ……」


 通称、峠の検問所……。

 昔は、この元盗賊団……アモン団の奴らが、道行く車両や旅人に襲いかかって、略奪するために足止め用の障害物なんかを置いてたんだが。

 

 そこはそれ……もう昔の話だった。


 何故ならば、俺とこいつらの男と男の真剣勝負の末に、俺が勝った。

 そして、勝者たる俺にはこいつらを騎士団に突き出す事や、身ぐるみ剥いで放り出すことだって出来たんだが。


 金輪際、略奪者のような真似は止めて、峠道の整備をして、魔物退治なんかをして安全を確保する代わりに、道行く人々から通行料を貰う仕事をするって事で、話を付けた。


 騎士団も峠道の整備や警備までは手が回ってなかった上に、この峠と山を知り尽くしてるアモン団には手を焼いていて、何よりもコイツらは人殺しだけはしてなかったから、そう言うことなら、別にいいかってなって、荒くれ者の無法者だったこいつらも、今ではすっかり更生して、こんな風にむしろ、旅人の安全を守る道路整備業者みたいになってる。


 と言うか、俺もこの世界に来た時から、峠向こうの村……エブラン村の連中には色々と世話になってたから、街へと続く峠道をもっと走りやすい道にしたいって常々思ってたんだわ。


 実際、この峠道は元々獣道みたいな山道を平らに地ならしして、道幅もエアライドが通れるように無理やり広げたってだけで、当たり前のように魔物とかも出るし、山に生えてる木々の中には魔樹と呼ばれる植物型モンスターとかも居て、道を侵食して塞いだり、ツタを伸ばして攻撃したりしてくるし、大雨が降るとがけ崩れとかで通れなくなったりしてたんだが……。

 

 コイツらみたいな武装集団が魔物退治に勤しんでくれたり、道に転がってる大岩やら、進出してくる樹木やら雑草を除去してくれたりしてくれるようになってから、事故率も劇的に下がったし、格段に便利になったって評判だった。

 

 本来なら、こいつらも立派な犯罪者で思いっきり賞金もかかってたんだが……俺が、領主やギルドと掛け合って、賞金も要らないから、更生のチャンスを与えてやってくれって、頭を下げて受け入れさせた。


 なんでも、どこぞの領主のお抱え兵隊だったのがリストラに合って、食い詰めて盗賊やってたって話で、腹割って話してみれば、根はいい奴らだった。

 最近は道行く人々も危険極まりない峠道の管理人兼用心棒……みたいな認識になってきてて、人々からも感謝されるようになって、こいつらもすっかり真人間に生まれ変わった。


 実際、前は腐った魚みたいな目をしてたんだが、今では優しげなキラキラな目で俺を見上げてる始末だ。

 

 人間ってのは、いつだって変われるんだぜ?

 ……ちょっといい話だよな。

 

 魔王だの魔物との戦いとか、世界の危機だの物騒な話じゃなくて、こんな風に悪党を更生させたり、困ってる人たちの微力ながら助けになったりとか……俺はそう言うのをやりたかったんだよ。


 だからこそ、俺は今の生活に心から満足していた。

 

「まぁ、今頃、峠向こうでも似たようなもんだろうな。どのみち、俺が今日の最終便だ……このまま積もり続けるようなら、反対側にも連絡入れて、ワダツミ峠もしばらく閉鎖だな」


 そう、この峠道はワダツミ峠……俺がかつて、ホームにしてた峠道と同じ名前なのだ。

 名前の由来は誰も知らないようなんだが、なんとも因縁を感じさせる話だし、実はコースのレイアウトもほとんど一緒。


 あっちのワダツミ峠のてっぺんにはデカい湖と橋があったんだが、さすがにそれはなかったし、実際の地形はかなり違うんだが、なんと言うかコーナーのテンポがまるで一緒なんだよなぁ……。

 

 正直、意味がわからんかったのだが……俺にとって、ワダツミ峠は特別な場所になった。

 もちろん、日本に帰れることなら帰りたいと思わなくもないんだが……。

 

 凄まじい勢いで変わっていく激動の時代の中、何処か居場所がなくなって行ってるって思いがあったのは確かだし、異世界人が元の世界に帰れたなんて記録も一切ないそうなので、もう諦めてる……。

 

 だからこそ、俺はこんな辺境ぐらしを好き好んで続けているし、ここに骨を埋める……そう言う心づもりだった。

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