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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第九話「エブラン村の怪異」②

 ひとまず、様子見。

 バーナードの表情が百面相のように変化して、怒ったり、悲しそうにしょんぼりしたり、キリッと真顔になったりと忙しく変わると、ニコニコとした笑顔になって落ち着いたようだった。


「ああ、そんなに恐れないでくれたまえ……」


 いいながら、ヨタヨタとふらつきながら前に出ようとして、手足をバタバタと動かして、転びそうになっていたんだが。


 準備体操のように、よくわからないポーズを決めたり、身体を伸ばしたりしているうちに徐々に滑らかな動きになっていっていた。


 なんと言うか……まるで、自分の体の試運転をしているようだな。

 

 だが、相変わらず敵意も殺気も何も感じない……。

 その代わり……何やら、巨大な気配のようなものを感じるようになってきた。


 目をつぶるとまるで巨人が目の前にそびえ立っているような。

 それほどまでの巨大な気配と強烈な威圧感だった。


 ……それに何よりも、目を引いたのは、バーナードの肩から小さな杉のような木が生えてることだった。

 乗せてるんじゃなく、身体に根付いているように見える。


 どう言うことだ? 火病じゃないのか? 

 まさか、新手の感染症かなにかなのか?

 

 もう、ワケがわからなさ過ぎて、頭がおかしくなりそうだった。


「アステリア! すまん! 一時撤収だっ! こう言うときは……逃げるんだよーッ!」


 問答無用でアステリアをお姫様抱っこすると、察したらしいアステリアが首に手を回してしっかり掴まってから「聖女の祝福」をかけてくれる。


 直後に、盛大にバックジャンプ!


 ロケットみたいに上空高くに飛び上がって、視界がグルンと一回転する。

 そして、かるく10mほど飛び退いてから、アステリアを地面におろして、頷き合うと揃って踵を返して全力逃亡!


 ……なんかもう息ぴったりなんだが、マジで助かる!

 

「ああ! き、君たち、待ち給え……私の話を……」


 なんか言ってるけど、無視!

 妙に理知的な喋りになってたけど、あんなワケの解らんのと話し合いなんて無理だっつの!


「アステリア! とりあえず、ストレイ・キャッツ号のところまで逃げるぞ!」


「はい! おじさま! 相変わらず、いい判断でした……迷ったら退け! ですよね?」


「ああ、いつも言ってたが、戦場ってのは退き際が肝心だからな……! とにかく、もういいから浄化儀式で村まるごと浄化しちまおう!」


「そ、そうですね! あれが何なのか解りませんが……。火病の感染者でも、まれに適応してしまうケースもありますから、ですが……その割には……」


 更に全力で逃亡中……どうやら、さっきのバーナードのような何かは振り切ったみたいなんだが……。

 途中の家の扉が唐突に開いた事で俺達も急ブレーキをかけて、立ち止まる。

 

「アステリア!」


「はいっ!」


 二人して、背中合わせになって身構える。


 更に反対側の家の扉も開き、中からユラユラとゾンビみたいな歩調で誰かが出てくる。

 顔は見知ったやつなんだが、顔色は真っ赤で歩みはゆっくりで目も何処を見ているかわからないような様子だった。


「ちくしょうっ! どおりで誰も外に居なかった訳だ! まさか全員……すでに第二段階まで発症してたってのか!」


「……あまり、言いたくないのですが……。皆さん、すでに深く火の因子が浸透しているようで、中には水晶化が始まっている方も……」


 アステリアの言葉で、近づきつつある木こりの娘……エルザを見ると、頬に赤い水晶が浮き出ていた。

 ……嘘だろ! たった半日で水晶化が始まってるなんて、なんてことだ!


 次々と家々の扉が開いて、ぞろぞろと村人たちがこちらに向かってくる。

 あっという間に十人くらいに増えて、順調に包囲されつつあった。


「くそっ! 完全に取り囲まれちまってる……だが、殴り倒すわけにもいかん……どうする? ちくしょうっ! 考えろ……」


 水晶化が始まってしまったら、もう手遅れ……その上、感染力もそれまでの比じゃなくなる。

 だからもう、そこまで進行してしまった者は殺すしかない。

 

 俺だって、そこはよく解ってるし、このままだと最悪俺達も感染は免れない……。


「……五分。それだけあれば、この場で浄化結界を起動します……。水晶化が始まっていても浄化の重ねがけで回復した事例もありますから、もしかしたら……。ただ、その間の守りをお願いすることになりますが……」


「五分か……その間、こいつらを怪我させずに無力化か……。ちょっと厳しいが、やらねぇといけねぇよな。いいだろう、やってくれ!」


 ……殺意満々のモンスターや殺し屋とかなら、容赦しないんだが。

 誰も彼も俺も見知ってる奴らだ。


 中には子供や年寄りもいる……全員が第二段階の症状が出ていて、手足にもいびつな血管が浮き出ていて、激しく脈動しているのが解る。

 

 それに、特に感染が早かった女子供に限っては、最終段階を示す水晶化が始まってる……。

 この段階からの回復……アステリアなら、可能かもしれない……。

 

 そこに希望を託すしか無い!


 アステリアが跪くと、懐からポーションのようなものを取り出して、半分ほどを飲み干して、残りをバッシャと中身を周囲に撒くと、両手を合わせて祈りを捧げる。

 

 続いて、その周囲を魔法陣が取り囲んで、光の柱が立つ……そして、それは徐々に巨大化していく。


「……光明神アルノアゼラよ……。我が祈りに応え、その権能の一雫を我が手にもたらし給え……。リート……ラパーシィ……フィルド……ナーク」


 アステリアの浄化結界術。

 欠点としては、発動準備中は完全に術者は無防備になること。


 弓矢や石ころ程度なら、発動前に展開される魔力増強結界で弾かれるんだが……。

 さすがに、直接ぶん殴られると何よりもアステリアの集中が崩れて、失敗する可能性がある。

 そもそも、儀式魔法を5分でやるなんて、結構な無茶だ……。


 だが、狂化した村人たちも怯んだように動きを止めた。

 妙だな……そもそも、狂化した人間ってのは、こんなもんじゃない。


 驚異的な筋力でとんでもない距離をジャンプしてきたり、素手で生木や石壁を砕くくらいのことは平気でやってくるし、壁を使っての三次元戦闘みたいな真似だってやってくる。

 

 怒りに身を任せた狂人そのものと言った様子とは裏腹に、その戦闘力はたとえ女子供でも侮れないはずなんだが……。


 まるで、後ろから羽交い締めにされているのに無理やり進もうとしている……そんな風に見える。


 だが、その理由はすぐに解った。

 なにか植物の蔓のようなものが、地面から生えてきていて、感染者たちの身体に巻き付いていて、その動きを制限しているようだった。


「……なんだありゃ? 植物魔法か! ……なんで、そんなもんが!」


 おそらくこれは、植物魔法。

 エルフ達が得意とする魔法で、草や木を自在に動かしたり、その強度を強化したり、高速成長させたりすることが出来る。

 

 それ自体は一見地味に思えるんだが、とんでもない……操る植物の種類も多岐にわたり、索敵に隠蔽、防御に加え、対象の足止めや拘束にも使える極めて汎用性の高い魔法で、森の中でエルフに喧嘩を売るなと言われているのは、全員がこの植物魔法の使い手だからだ。


 だが……基本的にエルフは里からはまず出てこない。

 中には、ワタリと称するエルフの渡り人が町中に出てきて、行商人や冒険者をやってるってケースもある。

 サーシャの姐さんあたりがいい例だ。


 やがて、村人達は蔓に全身を巻きつけられたようになって、全員地面に固定されて身動きが取れなくなっていた。

 おいおい、感染者を力付くで制圧ってどんだけハイパワーなんだよ!


「……す、すごい! 火の因子があの植物に吸収されていってます! ……いえ、これは浄化?」


 アステリアも浄化結界を展開しようとしていたんだが、一旦キャンセルしたようだった。


 見ると、その黒い蔦の表面に何かの紋様のようなものが浮かび、全体が緑色に輝き始めている。

 拘束された村人達も異様に手足が太くなったりしてたんだが、見る間に萎んだようになって、抵抗も和らいでいく。

 そして、呼吸も安定してやがて眠ってしまったようだった。


 何よりも驚くべきことに、エルザのように顔や手足に水晶化が始まっていた者達から、赤い水晶がボロボロと剥がれ落ちていっている。


「……これは、お前の浄化……でも、なさそうだな」


 一応、そう言ってアステリアに確認するんだが、首を横に振られる。

 アステリアの浄化魔法陣は、そもそも途中キャンセルみたいになっていて、完全に不発だった。


 もちろん、俺の無作為魔力放射なんかじゃないし、そんな結晶化から回復させるような術式なんてあったか?

 そもそも、赤い水晶にしても、崩壊したようになっていて、黒いすすのようになっていた。


「はい、こんな魔術は私も見たことないです。エルフの植物魔術に似てますけど、これだけの人数の狂化した人間をまとめて抑え込むほどの規模なんて聞いたこともないですし、肉体変異を元に戻したうえに、結晶化を中和するなんて……!」


 これはもう、前代未聞……人外の使うレベルの魔術。

 俺もその程度のことしかわからん……。


 そして、おそらくこの拘束魔術を使ったと思わしき奴がゆっくりとこちらへと歩いてきていた。


「……お前の仕業なのか? これは……」


 肩に木を生やしたまま、満面の笑顔を見せながらやってくるバーナード。

 歩み自体はスローリーだったが、すでに追い付いてきたようだった。


「……如何にも。この者たちもかなり危険な状態だったので、やむを得ず全員拘束していたのだが……。私もなんとかしたかったのだが、火の因子を消し去るまでは出来ずに困っていたのだ」

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