第5話 宅配司書が死ねない理由 ⑨
「――え」
上司からいきなり切り出された仕事の話。それも聞き流せざる内容にラヴェンナは思わず我が身を正す。
「何か、問題があったでしょうか」
そう問うとダイアンはささやかな息をついた。
ブーケに敷き詰められた花たちのようないっぱいの感嘆に一本の憂いが混じる。
「予想をはるかに超えて、あなたの精神と人生観は開花しすぎている。年端もいかない女性がこんなふうに容易く世界の深淵を解き明かす。どこか、末恐ろしいものを感じるのです」
ホットワインの水面から上げられたのは、降ったばかりの雪のような微笑み。
「ですが、そんなたいそれたものをその内に隠しながら、あなたも年相応に、悩み、苦しんでいるのですね」
「――」
その微笑みはしばし少女に時を忘れさせる。
華やかな屋台も、喧騒すら。
「アウトサイダーたちが、我々に投げかける問い。病の人に向けた、名馬には傷があるという事実。孤独な人間だけが人生から受け取るギフト。世の中の正道からあぶれてしまった人々へ、あなたの紡ぐ言葉を読んで。そして、あなた自身を見ていて思いました」
まるで彼は、魔術師のように、言葉を巧みに操り、虹の絵の具を振りかけて。
「『人並み』を掴めなかったということは、すでにその手は難く握りこまれていて、その中に、他の誰も持ちえない何かをぐっと握り締めて生まれてきたということではないかと」
七色のリボンでこの心を魅惑し、縛り上げてしまう。
「拳を固めて脇につけ疾駆するばかりでなく、時にその手を開いてじっと見てください」
そうするとラヴェンナは身動きが取れなくなる。
まるで、数年の時をかけて険しい道を練り歩きようやく絶景を前にした巡礼者のように。
言葉の魔術師のような彼は最後に、彼女にこう綴った。
「ラヴェンナさん。あなたのその手には今、何が乗せられていますか」




